【伝蔵荘日誌】

2011年1月2日: 新春雑感 T.G

 年が明けた。  一休禅師ではないが、「目出度くもあり、目出度くもなし」の心境である。 歳のせいだろう。 もちろん上の句は「元旦や、冥土の旅の一里塚、」だ。 友人達から届く便りも、背骨を痛め2ヶ月寝たきりになったとか、膝にヒアルロン酸を注入して何とか歩けているとか、糖尿病が悪化して失明したとか、そう言う抹香臭い話が多くなってきた。 自分も年末に腸を壊して内視鏡検査を受けた。 何も問題はなかったが、医者には「癌の一つや二つあってもおかしくない歳ですから」と言われた。

 快晴で穏やかな正月である。 羽鳥湖山中に隠棲しているSa君から届いたメールによると、吹雪で零下十度とのこと。 雪に閉じこめられて、除雪車が来ないと麓に買い出しにも行けないという。 脊梁山脈で隔てられた日本は、裏と表で気候がまったく違う。 年末から寒波に見舞われた山陰では、正月早々大雪で車千台が立ち往生というのに、関東平野のこのあたりではその気配もない。

 テレビで朝から箱根駅伝をやっている。 5区の箱根の登りで東洋大の柏原が早稲田を抜いて往路優勝した。 3位でタスキを受け取ったときは1位の早稲田と3分近い差があったのをひっくり返し、27秒も差を付けた。 こんなすごい選手がオリンピックに出たらと思うが、駅伝選手は肝心の国際競技ではまったく通用しない。

 そもそも駅伝は日本だけの極めてマイナーな競技だ。 大手町、芦ノ湖間が108キロ。 それを5区に分けるから、各選手はほぼ20キロを走る。 1万メートルには長すぎるし、42.195キロには短すぎる距離である。 だから駅伝選手は中途半端で、国際競技では使い物にならない。 有名大学の駅伝部には選手が何十人も控えていて、そのうち走れるのは数人のトップ選手だけだ。 実業団も選手層は厚い。 正月早々国道1号線を二日にわたって交通止めにし、沿道には大勢の観衆が詰めかけ、何十台ものパトカーや伴走車が切れ目なく続き、至る所に設置されたテレビカメラで一部始終が全国に放送される。 それほどの人気競技なのに、オリンピックにはまったく貢献しない。 こんなおかしな競技に入れあげる日本人は、確かにグローバル化が遅れている。 いっそのこと、1区間を1万メートル、もしくは42.195キロにしたらどうか。 そうしたらオリンピックでメダルが幾つか取れるかもしれない。

 何人かの友人達からメールの賀状が届いた。 葉書の裏面画像を添付したものか、ホームページのようにHTML形式で書いて写真や画像をはめ込んだものの2通りある。 HTML形式の方が見栄えが良く、扱いやすいが、電子メールは本来アスキーコードの文字情報だけを送受信する手段だから、HTML文の表示機能を持たないメールソフトだと扱えない。 もともとマイクロソフトのOutlookから広まったサービス機能だが、互換性の問題がある。 当方が使っているBeckyという市販ソフトにはHTML機能が盛り込まれていて、開くことが出来る。 本来のスタンダードなメール設定だと、はめ込まれた写真が欄外に添付で表示される。 そうは言っても便利だから、来年からはHTML形式のメール年賀状を増やそうか。 年賀はがき代とプリンタのインク代も馬鹿にならない。

 新聞休刊日なので、パソコンのくらべーるで朝日、読売、日経新聞を斜め読みする。 このウェブ新聞は3紙の記事を横並びで読ませてくれて便利だ。 新春早々大した記事はないので、社説を読み比べしてみる。

 まずは朝日新聞。 タイトルは「政治と市民―ともに論じる原点に戻る」。 実におかしな日本語だ。 現政権の不甲斐なさをこき下ろした後、世論や市民活動を持ち上げ、“直接的民主主義”とやらを唱える内容である。 「直接的民主主義」(これも不可思議な日本語だ!)とは、「ネットの普及で市民がマスメディアを介さず直接情報を手に入れ、それが世論を動かし、政権の体力を左右する」ことを意味し、「情報と表現の味を覚えた市民は貪欲で、民主主義はより直接的な形に姿を変えていく」のだそうだ。 そう言いながら、「議会制民主主義は期限を切った独裁政治だ」と言う菅首相の怪しげな発言を“一つの見識”と肯定する。 こうなると支離滅裂である。 要するに「議会制民主主義なんて絵空事だ。 首相の首なんか世論でいつでもすげ替えられる。 お気に入りの政党が政権を取ったら独裁政治をやらせろ」とけしかけているのだ。 この新聞は戦前さんざん軍部の提灯持ちをして戦争を煽った。 今は第三の権力となった「世論」のお先棒を担いで、議会制民主主義を破壊するつもりらしい。 まるでヒットラー顔負けのアジテーション。 こんな胡散臭い新聞が、良識あるクォリティペーパーの代表みたいに言われるのが理解出来ない。

 次は読売新聞。 タイトルは「世界の荒波にひるまぬニッポンを。 大胆な開国で農業改革を急ごう」である。 「四海の波高く、今にも嵐が襲来する恐れがある。 ニッポン丸の舵取りは甚だ心もとない。 このままでは漂流どころか沈没だ」と悲痛な書き出しである。 その後、「日米同盟の強化が必須」、「経済連携参加を急げ」、「消費税率上げは不可避」、「懸案解決へ政界再編を」と続く。 要するに「普天間を辺野古に移し、日米同盟を強化し、TPPに加盟して競争力を付け、バラマキをやめて消費税を上げろ。 そのためには、もたもたしていないでさっさと政界再編しろ」、と言っているわけだが、おそらく連立オタクの親分、渡辺社主が書かせているに違いない。 言っていることは朝日よりはるかにまともで現実的だが、当たり前すぎて大新聞らしい深みは感じられない。 だからどうなのよ、と言いたくなる。

 ついで日経新聞。 タイトルは「世界でもまれて競争力磨く志を再び 」と、のっけから商売の話。 株屋の新聞の面目躍如だ。 「めでたいとは言い難い年明けだ。」と言う書き出しは、自分の認識と一致している。 「この20年の名目経済成長率は年平均でわずか約0.5%。公的な借金残高は3.3倍」、「ところが政治家や経営者は時代錯誤」、「競争力は韓国(23位)にも及ばず27位」、「若い世代には努力しても豊かにはなれないというあきらめもある」、と暗い話を並べ立てておきながら、「過信もあきらめも捨て、自らを鍛える志こそが大事」、「急がれるのは、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加」、「グローバルに活躍できる人材育成」、「経済再生へは政治家次第」、「政策断行にはキャメロン英首相に倣え」、「保守的な経営が働き手の潜在力を殺している。」、「政治家と経営者は責任を自覚してほしい」などと、処方箋も脈絡がない。 元日早々、こんな中身のない社説では、やはり株屋の新聞の限界と言うべきか。

 とにもかくにも見通しの暗い年明けです。
  

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