【伝蔵荘日誌】

2010年12月25日: 見通しの暗い年の瀬 T.G.

 暗い年の瀬である。 昭和20年の終戦の年以来、最も見通しが暗い年の瀬と言ってよい。 そのことにほとんどの日本人が思いを致していないことが尚更暗い。

 報道によれば、民主党政府は来年度の一般会計予算、92兆4116億円を閣議決定した。 年明け国会の予算審議で大揉めに揉めるだろうが、民主党に過半数の議席を与えている以上、大筋はこれで決まりだろう。 この予算金額は過去最大である。 なおかつ新規国債発行額は実に44兆2980億円に達し、これも戦後の最高額であった今年度よりわずかに千億円少ないだけ。 見込まれる税収、40兆9270億円を3兆円も上回る。 今年度に引き続き、国債発行額が税収を大幅に上回る異常事態が2年続くことになる。 後2年民主党政権が続けば、この異常状態も同じだけ続く。 日本国は破滅の崖っぷちにまっしぐらだ。

 この国家観に欠けた政党は、子供手当や農家の個別保証など、バラマキ公約で政権を取った。 それに必要な原資は、無駄の排除と埋蔵金掘り起こしでどうにでも出来ると豪語した。 やってみると、鳴り物入りで始めた事業仕分けでわずか6千億円しかひねり出せず、最大の金づると見込んでいた公務員給与2割削減も、支持母体の労働団体にどやされて腰砕け。 埋蔵金はあらかた掘り尽くしてしまった。 もうどこを掘っても出てこない。 頼みの綱の消費税も遠くへ逃げてしまった。 来年度はともかくとして、再来年度の子供手当ははどうするつもりだろう。

 原資がないならバラマキをやめればいいのだが、支持率低下が恐ろしくてそれも出来ない。 何も減らさずバラマキをすれば、予算が膨れあがるのは、足し算しかできない小学1年生でも分かる。 かくて92兆円という、財政規律もへったくれもない巨大バラマキ予算となった。 野田財務大臣は、「今年度の国債発行額を1000億円下回った」と大威張りらしいが、発行総額のわずか0.002%。 このガスメーターの検針員上がりのアホ大臣は小学生以下だ。 国債依存の予算編成は自民党時代から続いて来た。 それでも財政規律とプライマリバランスを意識していたから、小泉をはじめ歴代総理はなんとか30兆円以内に抑える努力をしていた。 民主党政権はそんなことお構いなしである。

 今の日本の最大の危機は北朝鮮の核や膨張する中国ではない。 ましてや日米離反でもない。 最も恐れるべきは国債のデフォルトだ。 来年度予算の44兆円で国債発行残高は668兆円に膨らむ。 地方債など他の借金と合わせると公的債務はとうとう900兆円の大台を超す。 減り続けるGDPの倍近い金額である。 44兆円借りても、利払いに当てる国債費だけで21兆円が消える。 借金の元本は雪だるまのように膨らんでいく。 世界に例のない天然記念物のような借金国家になりつつある。 いつ潰れてもおかしくない。

 国債残高が増えても、現時点ではなんとか返済(償還)が出来ている。 しかし返済が滞るようになれば誰も日本国に金を貸さなくなる。 つまり国債を買わなくなる。 いわゆるデフォルト、日本国の破産である。 国債デフォルトの破壊力は原爆などの比ではない。 国家予算はもとより日本経済そのものが壊滅し、国民の資産は雲散霧消し、終戦直後のような悲惨な社会状況に陥るだろう。 あの時と唯一違うのは、この60年間に蓄えた道路や鉄道、ビルや工場、住居など、豊かな社会インフラが残っていることだ。 しかしそう言うストックはあっても、フローである企業収益や個人所得は激減する。 金融機関は破綻し、企業は倒産し、生産は停滞し、失業者が溢れ、インフラもまともに動かせなくなる。 人々は飢え、病み、病院にもかかれず、多くの弱者が亡くなるだろう。 社会秩序は乱れに乱れるだろう。 そうなれば、現在の不況や就職氷河期なんておとぎ話のように聞こえるに違いない。

 問題はいつデフォルトするかだ。 ギリシャはGDP比で日本よりはるかに少ない国債残高でクラッシュしかけた。 ドイツなどが慌ててユーロをつぎ込んで押さえた。 そうしないとEU全体が共倒れになるからだ。 近隣との同盟関係に外交努力をしてこなかった日本の場合、そう言う助けはまず来ない。 助けるにしても、あまりに日本経済が巨大過ぎる。 おそらくアメリカも助けないし、助けられない。 助けてもらうには、少なくとも日本が持っている数百兆円の米国債をチャラにさせられるだろう。 国土やインフラの一部を譲り渡すような犠牲を伴うだろう。 尖閣や沖縄はおそらく中国あたりに取られるだろう。

 さてその恐怖の国債デフォルトはいつやってくるのか。 民主党政権の杜撰な予算編成と財政運営で早まりそうだ。 いろいろな説があるが、10年以内という見通しや論調を最近よく見かける。 例えば、BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「日本の財政は10年もたない」と、1年前の鳩山政権時代に警告を発している。 彼の理論では、国債デフォルトにいたる前に、国債の引き受け手がなくなり、激しい金利の上昇が起こり、結果として日本経済はクラッシュする。 10年以内にそうなる確立は80%だと言う。 天気予報なら、ざんざん降り間違いなしだ。

  評論家の野口悠紀雄氏は、「日本国債のDoomsday(終焉の日)はいつ到来するか?」 と言うダイアモンド誌の記事で、同じく9年後という予測をしている。 彼の理論を要約するとこうだ。 国債の引き受け手(買い手)は金融機関である。 日銀もその一つだが、日銀の国債買い入れはその分だけ1万円札を刷って市場にばらまくことを意味する。 インフレ懸念が強くて、金額は限られる。 必然主たる買い手は銀行など民間の金融機関と言うことになる。 個人国債などもあるが、金額は微々たるもので、ほとんどは銀行引き受けである。

  銀行の国債買い付け資金は預貯金残高である。 以前は家計の預貯金が主役だったが、1990年代に入ると家計の預貯金は減り始め、国債買い入れには廻らなくなる。 日本人の資産は1500兆円もあるから心配ないという俗論があるが、その多くは換金性の低い不動産や株だ。 残る預貯金もほとんどは国債や米国債などに振り向けられていて、国債買い入れ資金にはならない。 やむを得ず、企業への貸し付けを減らして国債買い入れ資金に充当し始めた。 いわゆる貸しはがしなどの問題もここから起こった。 2009年度の民間金融機関の貸出残高は700兆円ある。 そのうち貸しはがしの出来ない個人の住宅ローン分を差し引くと、残りわずか540兆円。 このうち毎年60兆円を企業から貸しはがして国債、地方債買い入れに回したとしても、9年しか保たない。 つまり遅くとも9年後には国債の買い手がいなくなる、つまりクラッシュすると言う計算だ。

 これは単純計算の理論値であって、実際問題として企業への融資がゼロに近づけば、経済活動そのものがシュリンクして、デフォルト以前に日本経済は立ち行かなくなる。 あの手この手で幾分の延命措置を図るにしても、景気の急速な好転でもない限り、原理的には銀行引き受けによる国債消化が10年以内に立ちゆかなくなる現実に変わりはない。 今のところ日本の国債はほとんどが国内で消化されているが、その頃になると、今にも潰れそうな日本の国債など、国内はおろか世界市場でも誰も買わなくなっている。 日本のギリシャ化だ。 国家経営能力皆無の民主党に任せていたら、間違いなくそうなる。

 もう一つ例を挙げよう。 東京三菱UFJ銀行の竹中正治氏が「日本丸は確実に沈没しつつある」と言う日経ビジネス記事で次のように書いている。 「もはや日本の財政は経済成長だけでは再建出来ない。 成長だけに頼れば年率12%以上と言うあり得ない名目成長率が必要だが、どうあがいても2〜4%がやっとだ。 さらに自国通貨建ての国債はデフォルトしないと言われてきたが、それは違う。 明日や明後日はともかく、10年のタイムスパンで考えたら、国内投資家(銀行)が日本国債を見限って投資の海外シフトを始める可能性は十分にある。 そうなればデフォルトは起きる。」 さらに付け加えて、「財政再建の基本は消費税増税を中核に据えるしかない。 しかし民主党にはそう言う政策能力がまったく欠けている。 一刻も早く新たな連立政権を樹立し、骨太な改革を断行しないと、日本丸は沈没するだろう。」と言い切っている。

 参議院と違い、衆議院には解散総選挙という仕組みがある。 国民がその気になればいつでも政権は変えられる。 しかしもう手遅れなのかも知れない。 その証拠に、日本国民はこの期に及んでも民主党に政権を任せている。 下がったとはいえ、支持率は依然として自民党を上回っている。 個別補償や子供手当など、杜撰なバラマキを喜ぶ連中も多い。 もうしばらく民主党にやらせてみたい。 民主が駄目なことは分かったが、だからといって自民には戻りたくない、などと意味不明のたわ言を言う連中も少なくない。 だから少なくともあと2年は民主党政権が続くだろう。 その間に日本は窒息するだろう。 歴史には、ここで引き返さなければ正しい道に戻れないターニングポイントがある。 戦前は支那事変の拡大、ハルノート、ミッドウエイ海戦などの時点がそれだと言われた。 ここを過ぎたらもう引き返せない。 8月15日の破滅へ向かってまっしぐらだった。 もしかすると、今年あたりが第二のターニングポイントだったのかも知れない。

 10年先、自分は80歳。 生きていたとしても棺桶に片足突っ込んでいる歳だからどうと言うことはないが、可愛い孫達が悲惨な目に遭うのが忍びない。    

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