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2010年12月6日: 大腸内視鏡検査を受ける。 T.G.

 ひょんなことで大腸内視鏡検査を受ける羽目にになった。生まれて初めての経験である。A君らと高尾山トレッキングから帰宅した翌々日、ひどい便秘に悩まされた。もともと便秘体質ではない。知人から柿をもらい、大好物なので毎晩たくさん食べていたのが悪かったのか。柿渋は便秘を引き起こすと聞いたことがある。とにかく苦しくて、七転八倒。あれこれ悪あがきした挙げ句、やっとこさでひねり出したはいいが、肛門の内側を傷つけたらしく、ペーパーに血が滲んで止まらない。誰しも血を見るとパニくる。慌てて病院に駆け込んだら、この機会に一度大腸内視鏡検査をやりましょうと言うことになった。たかが便秘ぐらいで内視鏡検査とはと思ったが、生来医者の言うことは素直に聞くたちである。さっそく予約を入れた。

 大腸内視鏡検査とは、先端に内視鏡カメラを取り付けたスコープを肛門から腸内に送り込み、大腸と小腸のつなぎ目まで届かせて、小腸の一部と大腸、直腸のすべてを目視で調べる検査である。その途中、ポリープなどが見つかれば、その場で切除する。この技術のおかげで、よほど進んだ癌でもないかぎり、開腹手術は要らなくなった。実に大した医療技術である。以前は苦痛を伴う大変な検査だったらしいが、技術の進歩で今は楽になっている。小生の場合の手順はこうだ。

 検査の前の晩から流動食に切り替え、寝る前に緩下剤を飲む。翌朝一番で病院へ行き、2時間かけて腸の洗浄をする。 洗浄にはマグコロールという下剤入りの洗浄液を使う。2時間以内に1.8リットル飲まされる。ポカリスエットとそっくりな味で、飲みにくくはないが、さすがに大量なので人によっては苦痛という人もいる。自分はそれほどでもなく、時間通りに飲み切った。しばらくするとおなかがごろごろし始め、何度もトイレに駆け込む。便が次第に水様便に変わり、色が薄れたら洗浄終了。喉から尻の穴まで、消化器すべて洗い流したわけだ。少しでも便が残っていると、それに隠れて腸壁の異物を見落とすらしい。

 診察ベットに横たわると、看護師さんが腸の痛み止めのブスコパンを注射してくれる。その後、肛門にグリスを塗り、ファイバースコープが挿入される。入れるときにやや痛みがあるが、入れた後は感じない。腸に空気を送り込んで風船のように膨らませながら、スコープを延ばしていく。腸が膨らむときにやや違和感を覚える。大腸の湾曲部を通過するあたりで少し痛みを感じるが、我慢出来ないほどではない。小腸の入り口まで送り込んだ後、少しずつ引き抜きながら、ライトで照らして腸壁を調べていく。時々便の残存物があると、水で洗い流す。一部始終のライブ映像がテレビ画面に映し出されていて、医者と一緒に見ることが出来る。自分の腹の中のライブ映像を見るのは、いささか不思議な感じがする。ピンク色で艶々していて、きれいなものだなと言うのが第一印象である。医者に「きれいな腸ですね」と言われた。こんな場所で医者がお世辞を言うわけないから、多分きれいなのだろう。文字通り“腹黒い”腹もあるのだろうか。

 途中、横行結腸の中程にポリープが見つかる。ポリープと言っても小さな膨らみで、医者にこれですよと教えてもらわないと素人には分からない。画面では大きく見えるが、聞くと2〜3ミリの大きさだという。良性のもので放っておいてもいいが、ついでだから取っておきましょうという。シート状の電極を腿に貼り付け、スコープの元から差し込んだワイヤの先端でポリープの付け根を縛り、高周波電流を流して焼き切る。電流が流れるときに小さなショックがある。切断された後は白っぽい傷口になっている。うっかり指輪など金属製のものを身につけていると、そこも焼き切れてしまうらしい。どうやるのか、切断したポリープは一瞬で手元に戻ってくる。多分腸内の水分と一緒にスコープで吸引するのだろう。テレビ画面を見ながら、スコープ一本でこういう複雑な操作をいとも簡単にやってのける。後はスコープを引き抜いて検査終了。その間に要した時間は約30分である。

 70過ぎたら癌の一つや二つあってもおかしくない。正直言って内心冷や冷やものだった。前の晩はなかなか寝付けなかった。そう言う剣呑なのは見つからず、ほっと一安心である。直後は傷口から出血のおそれがあるので医者に禁酒を言い渡されているが、そうでなかったら祝杯でも挙げたい気分だ。

 内視鏡検査の目的は癌の検診にある。痔の検査ではない。医者も一応癌を疑いに入れたのだ。この検査の一番の苦痛は、大量の下剤やスコープ挿入の痛さなどではなく、結果が分かるまでのいたたまれぬ不安感だろう。何しろ癌の有無が文字通り一目瞭然なのだ。判決を言い渡される被告の心境である。インターネットで調べると、ポリープは一種の老化現象で、年を取ると誰でもある。内視鏡検査では40%の人に見つかるという。ほとんどのポリープが良性で、癌化することはないらしい。たまに悪性のものが見つかるが、切除すればその部位が癌化することはないとも言う。ポリープは切らずに放っておいてもいいという説もあるが、見つかったポリープの切除は癌の予防になっている。内視鏡検査の最大目的と効果は癌の予防にある。歳をとったら一度受けてみるといい。費用も一回のゴルフ代程度で済む。

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