【伝蔵荘日誌】

2010年11月16日: 高齢者講習を受講する。 T.G.

 近くの自動車教習所で高齢者講習を受ける。 しばらく前、断りもなしに突然この制度が出来て以来、70才以上の受講が義務づけられた。 受講しないと免許の更新が出来ない。 内容は20分ほどの座学、同じく20分ほどのビデオ視聴、10分ほどの実車テスト、簡単な視力検査、シミュレータによる反射動作テストなどで、休憩時間を入れて延べ2時間半ほどのカリキュラムである。 受講料は5800円。 内容に比べていささかエクスペンシブである。 この程度の内容なら、せいぜい2000円がいいところだ。 70才以上の人口を仮に2千万人として、そのうち免許保持者は千万人いるとして、4年に1回の更新人口は250万人。 しめて150億円の上がり。 パチンコと同じく、まことに美味しい警察利権に違いない。

 前々から思っていることだが、運転免許更新制度は要らない。 即刻廃止すべきだ。 ましてや高齢者講習においておや。 その理由はこの二つの制度とも、免許取り消しの強制権を持たないことだ。 運転免許は国民の権利だから、申請した更新希望者にはよほどの理由がない限り免許を与えなくてはならない。 よほどの理由とは、完全失明か、交通違反の累積点数が15点以上、もしくはひき逃げなどの重度の交通違反に限られる。 運転などしたこともないペーパードライバでも更新出来る。 怪我で両腕を失っても、今時の補助機能付きの車なら免許が与えられる。 刑務所に服役中の犯罪者でも、出所したら直ちに運転出来る。 と言うことは、申請者には無条件で更新免許が与えられると言うことだ。 更新と言いながら、実態は現状追認に過ぎない。 そんな無意味な手続きに、国民から毎年数千億円もの大金を巻き上げる。 多大な労力を費やさせる。 そんな馬鹿げた更新制度などやめにして、いったん与えた免許は一生有効にすればいい。 それで何の不都合も起きない。 フランスなどはそうしている。 それで彼らは何も困っていない。 やめて困るのは、更新手続きが巨大権益になっている日本の警察官僚だけだ。

 免許更新、高齢者講習に意味があるとすれば、安全運転に対する受講者の意識改革だろう。 しかし、たかだか20分程度の、ありきたりの講習やビデオを見せられていかほどの効果があるかと、経験者なら誰しも思うはずだ。 百歩譲って幾らかはあるとしても、数千億円もの巨額出費に見合うものではなかろう。 そんな大金を掛けるなら、もっといい方法がほかにいくらもあろう。 免許証が本人確認のIDに使えるメリットもよく聞く話だが、先進国はどこでもやっている国民総背番号制の“中途半端な代用品”でしかない。 こんな馬鹿げた免罪符的制度はやめにして、年金や医療、徴税など、国民生活すべてに役立つ総背番号制を導入すればいいだけのことだ。

 今回受けた講習内容で、唯一有益だったのは視力検査である。 歳をとって最も気がかりなのは視力の衰えだ。 運転はなんと言っても視力である。 耳が聞こえなくても、目が見えれば運転出来る。 若い頃は運転しながら漫然と前を見ていても見えた。 70才を過ぎた今は意識していないと見落とす。 いわゆる動体視力の衰えである。 今回の視力検査は、普通の静止視力、動くものを見る動体視力、視野、夜間視力の4点である。  自分はこのいずれも高得点だった。 元々両眼とも視力1.0以上で目はいい方なのだ。 特に視野は両眼で180度あり、20〜30歳台の平均以上だった。 70歳台の平均は150度だそうだから、かなりいい方なのだろう。 前に緑内障の検査をやったことがあるが、このときもまったく問題なかった。 視野の狭まりは運転に大いに差し支える。 150度ということは、運転中真横がまったく見えていないと言うことだから、これも危うい。

 もう一つ興味深かったのは夜間視力検査である。 両眼で明るい照明を30秒見させられた後、突然真っ暗になり、その状態で前方の薄暗い丸印が何秒後に見えるかという視力回復テストである。 小生は12秒。 70歳にしては上出来と試験官は言う。 20歳ぐらいの若者だと、8秒を切るという。 一緒にテストを受けていたご老人達は皆30秒前後、中には55秒というご老人もいた。 こういう人は夜間運転は差し控えた方がいいのだろう。

 小生の目が実年齢よりいいのは、元来の視力もあるが、日常努めてサングラスを掛けるようにしていることによるものだろう。 老人の視力低下のほとんどは白内障の進行による。 暗いところで細かい字が読めないのは、老眼より白内障の影響の方が強い。 白内障は老化により水晶体が濁ることが原因で、誰でも年相応に度が進む。 強い日光や紫外線は白内障の大きな原因である。 サングラスを常用すると進行を遅らせることが出来る。 運転中は明るい前方を直視し続けるから、特にサングラス着用は必須である。

 隣席のご老人は傑作だった。 小生より二つ三つ年上と見たが、大型や特殊車両の免許も持っていると自慢する。 2年前まで10トントラックを運転していたが、今はもっぱら軽自動車だという。 幾分耳が遠く、名前を呼ばれてもなかなか気が付かない。 実車走行体験があって、もう一人女性を含めて3人で廻った。 代わる代わるコースを同乗試験官の指示に従って走る。 小生もご婦人も、毎日やっていることなので難なくこなす。 ところがくだんのご老人。 さぞかし運転上手と思ったら、S字カーブで縁石に乗り上げるは、クランクではすべてのコーナーの縁石を踏み越えて走るは、挙げ句に車庫入れで後ろの壁にぶつけるはで、もう目茶苦茶。 呆れた試験官に途中で止められた。 それでも何が悪かったのか、本人は分かっていないらしい。 こんなもうろく爺さんがしばらく前まで10トントラックを乗り回していたと聞くと、背筋が寒くなる。 こういう爺さんにも、求められたら免許を与えなくてはならない。 免許更新制度の無意味さをあらためて実感させられた。

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