【伝蔵荘日誌】

2010年11月12日: 生活保護と就職面接会の記事 T.G.

 今朝の新聞の二つの記事を見て、それぞれに考えさせられた。 一つは読売の「大阪市、生活保護費が過去最多の2714億円」、もう一つは産経の「大学4年、必死の就職活動 東京ビックサイトで面接会」という記事である。

 それによると、大阪市の2009年度普通会計決算見込みは、税収が前年度対比マイナス33%の大幅減にもかかわらず、生活保護費の支出が2714億円と過去最高で、歳出総額1兆6698億円の16%にも達するという。 この不況下で税収の落ち込みは分かるが、それにしても生活保護費が歳出の16%とは驚きだ。 大阪市は以前から杜撰な生活保護行政が指摘され、その甘さにつけ込んで、外国人の不正受給受給者の市街からの流入が問題化している。 それにしても税収を生活保護費の方が上回っているとは、異常としか言いようがない。

 大阪市の人口は約267万人、市の人口としては全国で3番目の大都市である。そのうち、生活保護受給者数は約14万人、うち外国人受給者が7%を占めるのだという。 割り算すると、一人あたりの平均受給額は約194万円である。 平均でこうだから、もっと高額受給者も大勢いるに違いない。 この金額はまじめに年金保険料を納付した国民年金受給者より多い。 まさに生活保護天国だ。 年収200万円は、若いフリーターや派遣労働者と変わりない。 これではまじめに働いて年金保険料を納めようと言う気にはならなくなる。 これで、日本は弱者に冷たい、世界に冠たる格差社会だと、民主党やマスコミやリベラル知識人が声高に言うのが信じられない。 日本は世界で最も弱者に優しい(優しすぎる)国なのではないか。

 この大阪市の2714億円から、人口比で日本全体の生活保護費に単純換算すると、12兆円強になる。 いくら大阪市政がいい加減だったとしても、給付が全国平均をめちゃめちゃ大幅に上回ることはないだろう。 仮に5割増しだったとしても、日本全体の生活保護給付は年間8兆円に達することになる。 同じく今日の読売の記事によれば、2008年度の日本の社会保障給付費総額は過去最高の84兆円だったという。 主なものは年金、医療、介護で、いずれも納められた保険料に対する給付である。 納付の見返りでない純粋給付である生活保護8兆円は、現在の苦しい国の台所を鑑みれば、いくらなんでも多すぎるのではないか。

 大阪市の場合、市の財政はほとんど国からの交付税と特別起債(借金)で、税収は生活保護費のわずか3分の1、1034億円しかないのだという。 つまりほとんどは国の一般会計からの給付と言うことになる。 これでは穴の空いた鍋に水を入れるようなものだ。  国民目線がうたい文句の民主党ポピュリズム政権は、これでも不足だと、あれやこれやとバラマキを画策している。 基礎年金を消費税でまかなうなどと言って、年金と生活保護の境界を曖昧にしようとしている。 尖閣、四島を失う前に、日本が禁治産国になりそうだ。

 もう一つの記事についてである。 「大学3年生の就職活動が本格化する中、まだ内定が取れていない4年生や既卒者を対象にした合同就職面接会が行われている」とある。 氷河期ゆえ、4年生の就職面接会はさもありなんと思えるが、3年生の就職活動本格化とは考えさせられてしまう。 本格化というのだから、勉強や授業はほったらかしで、あちこち会社周りをしているのだろう。 いったい彼らは大学生なのか。 大学は就職予備校なのか。

 13年前のうちの息子の時も第一次氷河期だった。 のんびりしていて幾分出遅れた息子が就職活動を始めたのは3年生の終わり頃。 4月に入ってエントリーシート(我々の頃はこんなおかしなものはなかったな!)を集め出した頃は、すでに手遅れ気味で、早いところはどんどん内定を出し始めていた。 その後の息子の就職活動は、はた目で見ていて、可哀想になるほど過酷だった。 毎日徹夜でエントリーシートを書きまくり、毎日入社試験や面接に出かけ、挙げ句に落とされる。 その繰り返しが3ヶ月続いた。 まるで罰として神から無限の苦行を与えられたギリシャ神話のシジフォスのように。 もし自分だったら、とても耐えられなかっただろう。 投げ出していただろう。 あの息子の忍耐強さと精神力は今でも多としている。 努力の甲斐あって6月末頃に内定通知をもらったときは、息子以上に安堵した。 今はその会社の中堅社員として国内外を飛び回っている。

 我々の頃の大学は2年生まで教養課程で、3年になって専門課程に進んだ。 その3年生の半ばから勉強ほったらかしで就職試験に明け暮れるとは、いくらなんでもおかしくはないか。 それでは大学の意味がないだろう。 自分の経験でも、3年生になって初めて本格的な学問に触れた気がした。 数学という深遠な学問の世界を垣間見て、大学生の実感がわいたものだ。 それが今頃はやれエントリーシートだ、企業訪問だ、面接だと、3年生の半ばから、大方の時間を無為に費やす。 おおむね大学生がこうだとすると、すでに日本の大学教育は崩壊している。 もはや学問の府などではあり得ない。 民主党の管内閣は雇用、雇用と馬鹿の一つ覚えのように繰り返すが、その前に日本の国力の基礎になる大学教育にもう少し思いを致すべきだ。

 就職活動が忙しくて、まるで勉強をしない大学生が企業の支えになるわけがない。 最近の大手企業は、出来の悪い日本の学生を諦めて、外国の学生を採用する方向だそうだが、おかしいではないか。 学生をいたぶって勉強させなかったのはお前らではないか。 米倉とか言う老いぼれジジイの経団連会長が、「TPPで国を開いて、外国から労働者を」などと利いた風なことを言っているが、その前にやることがあるだろう。 学生に勉強させないで、日本の大学教育を破壊したのはお前らだろう。 少なくとも経団連加盟企業は4年生の半ばまでは絶対に採用活動をしないという自主規制をしてからものを言え。

 書いているうちにだんだん腹が立ってきた。   

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