【伝蔵荘日誌】

2010年11月10日: 再びアンチエイジングについて考える。 GP生

 今日の新聞に「ミトコンドリア力に脚光」と言う記事が掲載されている。 細胞に含まれるミトコンドリアが老化や認知症に深く関わっていることが最近の研究で立証されつつある、と言う内容である。

 ミトコンドリアとは、細胞内に存在してエネルギー産生を受け持つ、一万分の1ミリ程度の大きさの小器官である。 ミトコンドリアは遙か昔、核を持つ真核細胞に寄生した原核生物と言われている。 ミトコンドリアは自身で遺伝子を有しているが、足らざる遺伝子は宿主の遺伝子を利用する代わりに宿主細胞にエネルギーを提供する共生関係にある。 いわば宿主はミトコンドリアのエネルギーを利用したからこそ人にまで進化できたと言える。 人体の細胞では活動量の大きい肝細胞一つに数千のミトコンドリアが存在する。 勿論、脳内の神経細胞にも存在する。

 記事によると、「認知症の人の脳を調べてみると、健常者に比べて神経細胞内のミトコンドリアの量が少ないことが判ってきた。 パーキンソン病の患者にも同じ事が言える。 また糖尿病もミトコンドリアの機能の低下から始まる。」のだと言う。 ミトコンドリアのエネルギー産生システムは、「クレブスサイクル」と呼ばれATP(アデノシン3リン酸)を産生し、更にリン酸を外す反応を起こし、このとき発生するエネルギーによって栄養物質の吸収、生理活性物質の合成、神経や内分泌による調整、筋肉の収縮、不要物の排出、生体防衛、体温などの恒常性の維持、と言った生命活動の営みに利用されている。  老人の動きや身体能力の低下を考えれば、加齢に従ってミトコンドリアの働きが弱ってくる事は想像に難くない。 記事には、ミトコンドリアを働かせるために「持久力系の運動、寒いところで寒さを感じる、空腹を感じてエネルギーの枯渇状態を作る習慣」が大事とある。

 確かに人体は使わなければその部分は衰える。 僅か一週間程度の入院生活を終えて外を歩いた時、自分の身体とは思えないほどにふらふらした頼りなさは、誰しも経験するところだ。 入院中はほとんど使わない足の筋肉に栄養を回すより、トラブルを起こした臓器や修復材料を産生する器官に栄養物質を集中させるという、人体の合目的性に従った結果だ。 病院の低タンバク食ゆえ、当面必要性の薄い足の筋肉からタンバク質を引き抜き、必要部に充当したことも一因かもしれない。

 記事の趣旨は、「ミトコンドリアが活性化するように人体を仕向けろ」、と言うことだろう。 持続的な運動をすれば、エネルギーを産生するためにミトコンドリアは活性化されるし、数が不足すれば分裂して数を増やそうとする。 また体内のブドウ糖や脂肪酸の消費が促進される。 脳内のミトコンドリアは「好奇心を持ち、学習し、考える生活」を継続すれば活性化されるはずだ。 ミトコンドリアが有効に働ける栄養条件を無視すれば、老化は逆に進行してしまう。 エネルギー源の炭水化物や脂質を分解するのは酵素であり、クレブスサイクルの複雑な反応系をコントロールするのも酵素である。 酵素はアミノ酸や各種ビタミン・ミネラルから細胞内で作られる高分子タンパク質だ。 ミトコンドリアを十分働かせるためには、タンバク質・ビタミンを主体とした必要十分の食物が体内に供給される事が不可欠なのだ。

 コエンザイムQ10と言ういわば助酵素様の物質がある。 これはクレブスサイクル上で重要な役割を担っており、こりが不足するとエネルギーが産生されない。 従って、人体は細胞でQ10を産生している。 特に、肝臓内でコレステロールは何段もの酵素反応を経由して作られるが、この過程こでQ10が作られる。 コレステロールが高いと、医者にスタチン系のコレステロール産生阻害剤を飲まされる。 この薬はQ10産生の少し前で反応を止めてしまう。 この薬の常用者は元気と活性を失うのが常だ。 60歳を過ぎるとQ10の産生が低下するのでサプリで摂取することが視野に入ってくる。 通常Q10は腸での吸収が極めて悪いので、酵素処理により吸収率を高めたものを少量ずつ回数を多くして飲むのが基本となる。 ミトコンドリアの活性化はまた活性酸素スーパーオキサイドの発生を増加させる。 対策として日常、ビタミンE、Cの摂取が視野に入る。 コエンザイムQ10も抗酸化力が極めて高いことが知られている。

 ミトコンドリアは母系遺伝で、父方のミトコンドリアは遺伝しない。何故か? 射精された精子は卵子めがけて一斉に尻尾を動かして泳ぎ出す。 この生存競争に勝利するに必要なエネルギーを得るため、精子のミトコンドリアは尻尾にしかない。 受精と同時に不要になった尻尾が外れてしまうため、母系遺伝になってしまう。 男にとって少々悲しい話ではある。 実生活でも元気な母親を持った子供はおおむね元気で長寿の様だ。 親から貰った遺伝子だけに頼らず、ミトコンドリア活性を高める生活を心がけることは、高齢者の至近の課題ではなかろうか。                

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