【伝蔵荘日誌】

2010年10月25日: アンチエイジングについて考える。 GP生

 不老長寿は始皇帝の昔より人間の夢だ。 オギャーと生まれた赤子から出発して人は死に向かって進む。 その途中には長い老化促進の時が続く。 若い頃は老化は遙か彼方にある、自分とは無縁の概念だった。 老化は子孫を残す生殖能力を失い、生物としての存在意義を失った個体に対する当然の結果かも知れない。

 昨今の研究結果では「活性酸素」が老化の主因にされている。 色々な原因で発生する活性酸素が遺伝子を傷つけたり、コラーゲンを酸化したりしてブリッジを造り、皺を発生させたり、動脈硬化を起こしたり、脳神経細胞を傷つけたりする。 結果として身体の部品機能を低下させ、老化を進行させる。 年齢を重ねれば重ねるほど活性酸素にさらされる時間が長くなるので、次第に年老いていくのは当然のことだ。

 活性酸素の害をある程度防ぎ、老化促進を遅延させることは可能だ。 もう一つの老化の原因として、人体が代謝を繰り返しながら動的平衡を保ちつつ生命を維持するために、体内で作られる各種の物質の産生低下の問題がある。 体内で作ることの出来ない必須アミノ酸やビタミン・ミネラル類は食物を通して摂取することになるが、身体自体が産生する物質は対象外にされてきた。 しかし60歳を過ぎると、必要とされる物質の産生量が著しく低下し、細胞レベルでの代謝に支障を来し、老化を促進させることになる。

 その中で重要な物質に「核酸」がある。 核酸は細胞核の中にあるDNAの構成物質で、塩基と糖質とリン酸とから構成される。 このユニットをヌクレオシドと呼んでいる。 塩基は4種類(チミン、シトシン、アデニン、グアニン)あるので、4種類のヌクレオシドがある事になる。 これらが組み合わさってDNAの二重螺旋構造を作っており、ヌクレオシド3個で一つのアミノ酸を意味している。 アミノ酸の繋がった物質がタンバク質であるから、DNAにはタンパク質の構造情報が書き込まれていることになる。 1つのDNAを延伸すると2メートルにもなるそうだが、その中で意味のある遺伝子情報は人の場合30,000個と言われている。

 タンパク質を合成する時、DNAの二重構造が開き、核内にあるヌクレオシドがDNAの指示通りの配列で繋がり、核外に出て細胞内のアミノ酸と結びついて指示されたタンパク質を合成する。 細胞分裂の場合にももう一組のDNAを構成するので、核内にそれに対応するヌクレオシドが必要になる。 これらの代謝が60兆あると言われる細胞で同時進行的に生じていることを想像するのは容易なことではない。 人間は身体に700グラムの核酸を持っており、このうち2〜3グラムが体外に排泄される。 排泄された分は、肝臓で合成された核酸と食物由来の核酸で補充されると言われている。 加齢により肝機能が衰えると核酸は不足気味となり、細胞内に保持されているヌクレオシドも減少してしまう。 その結果、新陳代謝が衰えるが、生命維持機能に関係ない髪の毛や爪に真っ先に影響が出る。 白髪や禿頭もこの結果と言えるかもしれない。

 新陳代謝の激しい皮膚・小腸・骨髄等は、ヌクレオシドの消費が激しい細胞と言える。肝臓での核酸産生の衰えを補うためには、食物を通して核酸を積極的に摂取する必要がある。 核酸の含有量が多い食べ物には、いりこ・鮭白子・ふぐの白子・ビール酵母・鰯・鰹節・はまぐり・牡蠣・のり・豚のレバー・大豆などがある。 核酸を濃縮した「核酸ジュース」が市販されているが、高価格なのが難点だ。 このジュースはガン患者が愛用していると言う。

 代謝のスタート時には核酸が要求されるが、次のステージではアミノ酸やビタミン・ミネラルが必要になり、これらが不足すれば代謝は完結せず、目的とするタンパク質の合成や必要な立体構造が出来ない。 そのため老化が更に進行することになる。 アンチエイジングには、細胞レベルが要求する栄養素を、ジャストインタイムで必要とする場所に提供することが必要だ。 自動車でも、1つの部品がジャストタイムに届かなければ車は完成しない。   

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