【伝蔵荘日誌】

2010年10月21日: 日本の凋落を嘆き合う。 T.G.

 昔勤めていた会社の人たちと銀座で飲む。 東京に出るのは久しぶりだ。 このメンバーとは半年に一回集まって情報交換している。 メンバー5人の在職中の主たる職歴は、企画部、研究所、技術管理部、営業部とシステムエンジニア部門の小生。 最近開催されたCEATEC Japanが話題になる。 日本最大のIT、エレクトロニクス展である。 以前はコンピュータ、家電など、業界ごとに独立した催しに分かれていたが、景気が低迷し、集客が芳しくないので一つにまとめられた。 かっては5兆円企業で鳴らした我々の会社は、経費節減で出展していないという。 その体たらくを嘆きあっているうちに、話が日本そのものに及んだ。

 研究所が嘆く。 我が社はともかく日本が危ない。 このまま行くと3年後には積もりに積もった国債がデフォルトし、日本そのものが沈没しかねない。 それに対しSE部が補足する。 10年先は分からないが、3年は大丈夫だろう。 しかし民主党政権になってから、バラマキで国債発行額が激増している。 これを止めないと沈没が早まる。 しかしこの期に及んで政権支持率が50%近くあるところを見ると、どうやら国民はそれでいいと思っているらしい。 愚かな国民は何も考えず、レミングのように断崖絶壁に向かってまっしぐらだ。

 技術管理部が問題提起する。 その前に日本の低落を何とか止める方法はないものか。 営業部が言う。 極めて難しい。 低落を止めるには一義的に経済成長させ、GDPを増やすしかない。 しかし、そのために必要な、起業し、働き、富を増やす意欲をすべからく国民が失っている。 我が社の低迷もその一例だろう。 研究所が頷く。 確かに昭和20〜60年代の若者は働きに働いた。 今の若者達はそこそこにしか働かない。 勉強もしない。 最近のノーベル賞の研究成果はすべて昭和20〜40年代のもの。 20年先、教育レベルの下がった日本ではノーベル賞は取れなくなるだろう。 日本の成長を支えた技術革新も生まれなくなるだろう。

 企画部が問題指摘する。 そもそも経済は成長しなければならないものだろうか。 少子高齢化で就業人口減少が避けられない今、低成長前提の社会にうまく移行出来ないものだろうか。 営業部が付け加える、 確かにその通りだが、低成長社会にソフトランディングするには生活レベルを今より下げる必要がある。 一度味わった生活水準を下げるのは難しい。 老人はともかく、贅沢に慣れた若い人たちは耐えられないだろう。 研究所がさらに付言する。 確かに無理だ。 一度憶えた甘い蜜の味は忘れられない。 思考停止で、行くところまで行って、ある日突然クラッシュ。 日本人のメンタリティではその可能性の方が高い。 戦前もそうだった。 その繰り返しになりそうだ

 このあたりで矛先は若者達に向かう。 研究所は言う。 国債乱発した金は回り回って国民に還元されている。 その借金で太った親のすねを若者が囓っている。 子供の時から贅沢をし、22歳過ぎまで一切働かず、働いても長続きせず、辛い仕事は避け、中には働かずに親に食わせてもらうニートも少なくない。 昔なら飢え死にしていた。 国債は孫子への借金の先送りなどではなく、今現在の子供や孫の安逸な生活の原資になっている。 国の借金で愚かな親は子供を甘やかし、子供は働かず贅沢を楽しんでいる。 減らしたら暴動でも起きるのではないか。 少なくとも内閣がつぶれることは確かだ。 政治家はそれが怖くて何も出来ない。 やらない。 人気取りのバラマキしかできない。

 技術企画部が言う。 誰かこの先の日本のグランドデザインが描ける人が出てこないものだろうか。 少なくとも今の政治家には見あたらない。 政治経済の劣化は国家、国民のレベルと比例している。 SE部が問題提起する。 成長が見込めない日本の未来像はヨーロッパに倣ったらどうか。 例えばオランダ、ベルギーと言ったたそがれ国家。 成長が止まっても、今しばらくそこそこの生活水準と社会秩序を保っている。 あんな風にソフトランディング出来たら、低成長も悪くない。 営業部が指摘する。 ヨーロッパは過去数百年の蓄積があるからそれが可能だが、蓄積のない日本には無理だ。 彼らの家は何百年保つ作りだが、日本の家屋は20年で粗大ゴミになる。 彼らと同じようには出来ない。

 企画部が付言する。 日本の周辺には中国とか朝鮮とか、未成熟な訳の分からぬおかしな国が取り巻いている。 ヨーロッパと違い、その地政学的危うさが日本のもう一つの問題だ。 戦前満州生まれの営業部が言い添える。 かって辺境民族の地、無人の荒野だった満州に日本が鉄道を敷き、工場を建て、数万の開拓農民を送り込んで畑を耕したら、後から無関係の漢人が千万人単位で押し寄せてきて権益を主張し、そこら中で悶着が起きた。 業を煮やした関東軍が攻め込んで満州事変が起き、挙げ句の果てに日本国が滅びた。

 SE部がさらに補足する。 今もまったく同じ状況だ。 支那(中国)は昔も今も「俺のものは俺のもの。 お前のものも俺のもの」が原則の国。 チベットもウイグルもその論法で手に入れた。 尖閣も、周辺海域に石油があると知ったら、途端に俺のものと言い出した。 もう後へは引かないだろう。 昔の満州とそっくり。 今も昔も、日本にとって中国は鬼門だ。 経済問題はさておき、こういうおかしな国ときちんと渡り合える政治家が出てこないものだろうか。 戦前もいなかったけどね。

 営業部が言う。 その中国も危うい限り。 無理を通して道理を引っ込めるような高度成長で、国内に矛盾と緊張が充満している。 人民解放軍が武力で押さえ込んでいるが、そう遠くない内に破綻するだろう。 統一中国ではなく、旧ソ連のようにいくつかの国に分裂するかも知れない。 その過程で内戦が起きる。 そうなったら日本も大波を被る。 SE部が付け加える。 危ないと言えばアメリカやヨーロッパも同じだ。 インチキな金融工学で大失敗したアメリカ経済は二度と立ち直れない。 経済も軍事力もシュリンクせざるを得ない。 覇権国の地位は保てないだろう。 普通の国に成り下がるだろう。 ヨーロッパはEUが無理すぎる。 ドイツだけが稼いで、その金で他の国は遊んでいる。 ドイツ人は怒り始めている。 共通通貨ユーロはそのうち破綻するだろう。

 そうだとすると、欧米日中のうち、どこが先に破綻するのだろう。 いずれにしてもどのみち展望が開けるわけではないし、日本の先行きが暗いことには変わりない。 もう我々死んでしまうのだから、20年、30年先のことなどどうでもいい。 くよくよしても始まらない。 そうはいっても、子や孫が苦労するのは忍びないな。

 こんなところで七賢ならぬ我々5人の竹林の清談は終わり、お開きとなった。 いつもなら業界話や最近のIT技術など、もう少し元気の良い話題が中心だったのに、珍しくこういう話に終始したのは5人とも歳をとったと言うことか。 半年先にも皆元気で再会出来ますように。       

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