【伝蔵荘日誌】

2010年10月3日: 分子栄養学事始め GP生

   平成9年7月のある日、近くの本屋で新刊書を何気なく見ていたとき、三石巌著「医学常識はウソだらけ」が目にとまり手に取った。 サブタイトルにある「分子生物学が明かす生命の法則」に惹かれて購入した。 家に帰り読み始めたが、今まで関心も知識もなかった生命の法則に圧倒され一気に読み通した。

 50代半ばまで、病気にも薬にも縁のない生活をしてきて自分は健康であると 信じていたが、それは無知から来る過信であった。 親から貰ったDNAと妻が作る食事、さらに自分の年齢がまだ老境の手前にあり、生活習慣病等の発症に至っていないだけであったことを思い知らされた。 内容のみずみすしさから、著者の三石巌先生がこの本を執筆したときは95歳であったとは信じられない思いであった。 分子栄養学は、DNAの発見以来進歩してきた分子生物学をもとに三石先生が60代後半に体系づけたもので、従来のカロリーベースの栄養学とは一線を画している。

 分子栄養学の基本は「高タンパク」・「メガビタミン」・「スカベンジャー」の三つの要素から成っている。 人体では生命を維持するために、休むことなくDNAを解読してタンバク質を産生している。 タンバク質は20種類のアミノ酸の選択的組み合わせから構成されているが、内9種類は人体では合成できないアミノ酸で、不可欠アミノ酸または必須アミノ酸と呼ばれている。 食したタンパク質は消化器官でアミノ酸レベルに分解されたあと腸管より吸収され、全身に60兆あると言われる細胞に運搬される。 細胞膜を通過したアミノ酸は、細胞核内で解読されたDNAの指示に従って酵素等のタンパク質に合成される。 食物由来のアミノ酸にDNAの指示通りの種類と量が無ければ、筋肉等からタンパク質を引っこ抜いて使用することになる。 入院中に痩せるのは低カロリーだけの問題でなく、低タンパク食による筋肉量の低下が大きい。

 人体が必要とする新品のアミノ酸は体重の1/1000の量で、しかも不可欠アミノ酸全てがバランスよく含有される100で満点のタンパク質でなければならないという。 これらの食品は「プロテインスコアー100」の食品と呼ばれている。 体重60kgの成人では、一日当たり60gのタンパク質の摂取となる。 牛ヒレ100g中のアミノ酸は30gに満たない上、プロテインスコアーは80である。 天然食材でプロテインスコア100を満たすのは「卵」と「シジミ」のみだが、卵内の栄養素だけで完全な個体たる「ひよこ」が誕生するのだから、100点満点のタンパク質であることは当然のことかもしれない。  タンパク食品を組み合わせて「プロテインスコアー100」に近づけ必要量を確保しようとすれば、脂質の過剰摂取が問題になるから厄介だ。 だから高齢者にとって脂質抜きのタンバク摂取は大きな問題で、これの解決のために サプリメントの摂取が視野に入ってくる。

 ビタミンはDNAの指示に従って細胞内でタンパク質が合成される時の共同因子で、ビタミンがないとタンパク質は機能を発揮する立体構造を作れない。 ミネラルも同様の働きをするが、ビタミンほど量を必要としない。 ビタミンの必要量は個人差が大きく、水溶性のビタミンCは1対100、脂溶性のビタミンA・Eは1対10ぐらいの差があるそうだ。 ビタミンCは国の基準では1日当たり50mgの必要摂取量とされているが、これは壊血病を発症させないための十分量に過ぎない。 ビタミンCは二百以上の代謝に関与していることが判っているので、グラム単位の摂取が必要になる。 しかもタンバク質の摂取量と同様毎日のことだ。 これがメガビタミンの考え方の根拠である。

 スカベンジャーとは掃除屋の意味だが、活性酸素の掃除を意味する。 人体は活性酸素に曝されている。 呼吸する酸素の2パーセントがエネルギー産生器官である細胞内のミトコンドリアで活性酸素になる。 ストレスがかかったときにこれに対抗するホルモン産生でも、アルコールが肝臓で分解されるときも、たばこの煙を吸ったときも、紫外線でも、レントゲン線の被爆でも、活性酸素は発生する。 人体は活性酸素に対抗するためにSODと呼ばれる酵素を産生し、無害化に努めているが、残念ながら子孫を残す必要のない年齢の40歳ぐらいからSOD産生量が落ちてくる。 高齢者の激しい運動が危険なのは、運動による酸素量の増加が活性酸素の増加につながるからだ。 運動中の心不全は活性酸素が原因だ。

 自前のスカベンジャーで不足なら食べ物でとるしかない。 ビタミンで言えばA、C、E、その他フラボノイド、ポリフェノール類、βカロチン、キサントフィル、コエンザイムQ10等を含む食べ物を積極的に摂ることだ。 もちろん良質のサプリで摂れば摂取量の管理が容易である。 キサントフィルは卵に含まれている。 話が前後するが、不可欠アミノ酸の一つである「含硫アミノ酸」は卵で摂るのがベターだ。 日光を代謝に利用している植物は、活性酸素の害から自身を守るために葉に大量のフラボノイドを含有しているのは自然の英知と言える。 ただし、除草剤パラコートが発生する活性酸素には植物のフラボノイドでは対抗できず枯死する。

 この本に刺激を受けて以来、入手可能な先生の著作を読むと共に、分子栄養学に興味を持つ同好の士との勉強会も9年目を迎える。 分子栄養学は学ぶことより実践が大事なことは言うまでもないか、妻が毎日の食事に応用してくれることは感謝に堪えない。                            

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