【伝蔵荘日誌】

2010年9月28日: 尖閣諸島の憂鬱 T.G.

 政府が中国の恫喝に怯んで、中国漁船の船長を処分保留のまま釈放した24日以来、新聞を読む気が起きない。 尖閣諸島事件の処理に対する日本政府のあまりの腰砕け、不甲斐なさに、紙面を追う気が失せた。 テレビのニュースも、尖閣が出てきたらチャンネルを変える。 コメンテーターの、どいつもこいつも“犬が西向きゃ尾は東”みたいな、腑抜けコメントなど聞く気にもならぬ。 市民活動家上がりの左翼政権が、無能力でだらしないことは先刻承知。 そんなこと、とうの昔に諦めている。 この国家観の欠落した小児病的政権なら、いつかはこうことが起きるだろうと、覚悟はしていた。 そうなったまでのこと。 しかしながら、これほど屈辱的な目に遭わされても、肝心の日本人が一向に怒り出さないことの方が、不可解を通り越して気力喪失に輪をかける。 やはりもう日本はお終いなのかと。

 政権と同じく緊張感に欠けた国内ジャーナリズムは、この期に及んでも国家観が欠如し、一向に核心に迫らない。 まったくもって参考にならない。 見聞きするだけで目や耳が頭が劣化する。 だから読まない、見ない、聞かない。 海外の報道には目を通す。 内容の正否、愉快不愉快は別として、世界が日本とこの問題をどう見ているかのリトマス試験紙になる。 おおむね日本のだらしなさを蔑み、哀れみ、中国の粗暴な領土的野心を危ぶむ論調だ。 当たらずといえども遠からずだろう。 インドやオーストラリアにまで哀れまれる日本。 とうとうここまで落ちぶれたか! 勝負事と同じで、国家も哀れまれるようになったらお終いだ。

 当の中国の論調は相変もわらず。 馬鹿の一つ覚えのように、どこを切っても反日愛国一色の金太郎飴状態。 共産党一党独裁の面目躍如である。 だから同じくまったく参考にならない。 北朝鮮の国営放送と同じ、言論統制と論調の頑なさは一昔前の軍国日本よりはるかに酷い。 こういうおかしな国と隣り合わせの不幸がこの先永遠に続く。 それを考えると脱力感がいや増す。 出来ることなら遠くへ引っ越したい。 どこかに神様はおらんのか。

 インターネットで「大紀元」という中国系ネット新聞を読んでいたら、「中国人が見る中国=「船長の釈放:日本の勝ち 中国の負け」と言うユニークな記事を見つけた。 日本好きで日本旅行を計画中の姪御さんから、日本のビザ申請手続きを頼まれた李宗徳さんと言う方が書いている。 それによると、今回の件で中国のネットでは反日感情一色のように日本では伝えられているが、実際はそれと同じぐらい政府への不満が沸き上がっているらしい。 国家総理まで乗り出して日本に船長釈放の譲歩をさせたことについて、中国当局のメンツが救われたというのが一般な理解であるが、昨日多くの掲示板に転載されて話題を呼んだネット発言では「完全に日本の勝ち、中国の負けだ」と主張していると言う。

 この発言者は今回のことで「日本が勝った」理由を5つ挙げている。

▼アメリカに態度表明をさせた点で成功した: 米政府は釣魚島(尖閣諸島の中国名)は日米安保体制の管理範囲であると発言し、日本の同島に対する現在の管理権を認めた。
▼中国のボトムラインを見定める意味で成功した: 中国政府の釣魚島問題に対する態度とボトムラインが前面に押し出されたおかげで、その後の解決案を日本人はうまく把握することができた。今回の事件後、中国の外交辞令が硬くなっただけで、大使を日本から召還するという発言もなく、激しい行動もとっていない。 中国内部の意見の足並みが揃っていないことを浮き彫りにした。
▼釈放された船長を日本側が飛行機を飛ばして中国に戻したのではなく、中国が飛行機を飛ばして迎えに行った。 しかも船長を釈放したのは日本の地方の検察庁であり、日本政府ではない。 つまり、最終的に、日本の国内司法問題として片付けられ、外交問題として扱っていない。 外交上では日本の勝ちであった。
▼船長釈放の当日、日本国内では大規模のパレードが行われ、日本政府の黙認で反中感情を扇動した。(事実ではないが中国国内ではこのようなうわさがあった−筆者李宗徳)
▼中国当局が民衆の抗議デモを禁止したことは、国外には弱気だが、国内では強気である無能な政府であることを、日本側に示した。

 また「中国が負けた」理由を4つ挙げている。

▼(漁船衝突後)即座に立場を正しく表明しなかった。領土主権侵害の場合、国際慣習では、大使を召喚し、外交関係を断ち切る。 どうしてそうしなかったのか、勇気がないからだ。
▼即座に経済を切断し、制裁しなかった。 日本人に中国の弱気を気付かせた: 一旦経済が影響されると、中国政府も配慮することだろう。民衆が失業したら矛先は政府に行くだろう。 中国政府が恐れているのは、自国民、社会が不安定になることだと日本人に表明した。
▼即座に国内の与論を動員しなかった。 それは政府が国民を信頼せず、国民も政府を支持せず、民心が離れていることを表明している。 これは日本人に、中国という国家には、奴隷は存在するが、国民は存在しないこと示している。
▼日本に謝礼させず、中国が自分の飛行機で船長を迎えに行ったことは、全くの失策だ。 気骨がある人は、名誉が正されなければ釈放されても簡単に帰らないだろう。

 同じ問題について、立場の違う両国民がまったく違うとらえ方をするのは当然のことだが、こういう中国国内の政府批判発言は日本にはなかなか伝わらない。 伝わっても中国様ヨイショのリベラル御用マスコミは書かない。 この掲示板の発言者は文末で、「この発言はきっと削除されるだろう」と付け加えたそうだが、予測通り、李宗徳さんがこの発言を見かけた際には、すでに多くの転載先からリンクが削除されていたという。 中国の情報統制は凄まじい。 尖閣はともかく、それだけ中国国民の独裁政権への不信、不満は高まっているのだろう。 だからこそ、中国政府はこの問題で一歩も後へ引けない。 いっそう頑なにならざるを得ない。 さあさあカン君、センゴク君、どうするどうする。 今となっては、内閣総辞職でもして、日本の覚悟を中国に示すのが一番の良策か。

 李宗徳さんが、姪御さんに今回の事件で日本に対する印象が変わったかどうか聞いたところ、「あれは政府のアリバイで私たち市民と関係ない。 日本製品不買と言いながら本当に実行する人はいるの? いい国産品があれば教えて。 粉ミルク? それとも地溝油?」と、20代初めの姪はさらりと答えたそうだ。 コキントー君も大変だね!        

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