【伝蔵荘日誌】

2010年7月7日: にわか消費税騒動 T.G.

 今日は七夕。 4日後の参院選に向けて、思いもかけず消費税騒ぎが起きている。 発端は「消費税10%」という菅総理の軽口から始まった。 その影響で内閣支持率が下がり、民主絶対有利だった参院選の雲行きが怪しくなっている。 民主党は大あわて。 発言の取り消しに躍起になっている。 前総理の普天間もそうだったが、どうやらこの政党の党首はマニフェストにも書いていないことを軽々に口にする悪い癖があるようだ。

 そもそも総理大臣たるものは、国家安全保障と税制に関して、思いつきでものを言ってはいけない。 十二分に思索した上で、なおかつ慎重に言葉を選ぶべきである。 それなのにこの寄せ集めの出来損ないの政党のトップ達は、いとも軽々と思いつきを口にする。 前総理は確たる見通しもないのに「沖縄の人たちに思いをいたし、普天間を県外移設する」などとと、女学生レベルの妄言を吐いて失脚した。 財政音痴の現総理は、脈絡もなくいきなり消費税10%をぶち上げた。 何のために上げるのか、何に使うのかの説明もなしに。 これには国民も野党も、民主党自身も驚いた。 殿ご乱心である。 おそらく財務官僚に言わされているのだろう。 ばらまき財源を事業仕分けでひねり出すと大見得を切ったが、わずか6千億円しか出てこない。 どうにもならなくなって財務官僚に泣きついたら、「消費税という手もありますよ」と耳元で悪魔のささやき。 それに乗っただけのことだ。 それにしても支持率急上昇で世の中を舐めたとしか思えない。 実に軽薄な党首だ。 民主党が次期参院選で目標の54議席を下回ったら、彼の責任間違いなしである。 そうなると小沢が息を吹き返す。 どちらにしても憂鬱な話だ。

 消費税アップ自体はかねてから自分も賛成だ。 出来るだけ早い時期に10〜15%程度に上げ、税の不均衡を是正し、安定した税収を確保すべきだ。 しかしそれを実現に移すには、はっきりした目的と財政運営の見通しがなければならない。 たとえば税に関する直間比率改善とか、福祉目的税化とか、増税による財政収支の改善などなどである。 菅総理の唐突な発言にはそのいずれも含まれていない。 単なる思いつきである。 あげくに選挙後に野党と協議したいなどと無責任なことを言う。 自分が内閣総理大臣であることを忘れている。 総理たるもの、国の根幹である税制に関しては、自ら道を示し、野党に先んじて国民に意を問うのが筋だろう。 この市民運動家上がりの左翼政治家は、総理大臣が何たるか、いまだに分かっていない。

 よく言われる消費税の福祉目的税化は賛成できない。 そもそもいかなる税も目的税化すべきでない。 硬直化して、時間がたつと税体系や財政運営がいびつになる。 ガソリン税の道路特定財源化がそのいい例だ。 60年近くも昔に、田中角栄議員が時限的な臨時措置法として立法したものだが、いまだに硬直化の悪影響を排除できない。 いったん目的税化すると権益化し、財政運営の自由度が失われるのだ。 目的税といっても、金に色が着いているわけではない。 本来福祉に当てるべきだった予算を別の目的に振り向けるだけのこと。 言葉の綾に過ぎない。 ずる賢い為政者がしばしば用いる騙しの手口である。 賢明なる有権者は騙されてはいけませんよ。

 長年の懸案であった消費税増税は、百年に一度の税体系の抜本改革である。 福祉とか子育てとかちまちました対症療法に使うのではなく、国政全体の財政規律の改善と、それに伴う経済活性化に向けるべきだろう。 それによって成長を促し、国の活力を増し、税収を上げ、回り回って福祉や子育てに資するべきだろう。 よく言うではないか。 「金は天下の回りもの」ってね。 貧すれば鈍するで、今の日本はそういう骨太さに欠ける。 国民はすべからく目先のことしか考えない。 政治家はそれを悪用する。 だから福祉目的税なんて甘い言葉に騙される。 子供手当でホクホクする。

 今の日本の焦眉の急は、国家安全保障の基盤整備と、財政運営の健全化だろう。 この二つの解決なしには、何をやってもうまく行かない。 その証拠に、冷戦終了後、世界第二の経済大国が20年の長きにわたり沈没したままだ。 前者については前ハトヤマ総理の大失政を見ていて、国民も少しは勉強した。 後者についてはまるで分かっていない。 なぜか知らぬが国の借金が増え続けていると、風の噂で聞いているが、自分には無関係のよその世界の話に聞こえている。 借金でバラマキされて喜んでいる。

 日経BPに小宮一慶氏が「国の経常収支は10兆円の赤字」というレポートを書いている。 それによると、今年度のプライマリバランス(国債費を除いた実収入と実支出の差)はマイナス24兆円。 この大幅増は財源のない子供手当などのバラマキによる。 仮にプライマリバランスをゼロにしても(今の日本にはそれ自体がすこぶる困難なのだが)、国債残高が現状のままだと利払い費で10兆円の財政赤字が続く。 プライマリバランス改善と財政赤字解消には二つの方法しかない。 一つは経済成長による税収増、もう一つは財政支出の削減だ。 今の低成長時代、多少消費税を上げても税収の大幅増はあり得ない。 消費税1%で約2兆円、5%アップでわずか10兆円。 プライマリバランスはもとより、24兆円の収支不足解消にもほど遠い。 だとすると後は支出削減しか道は残っていない。 乗数効果も定かでない子供手当のようなバラマキなんてもってのほかなのだ。

 現在、国、地方併せておよそ74兆円の税収があるが、その8割に当たる60兆円が議員報酬や公務員給与で消える。 つまり国民は役人の給料を払うために税金を納めているようなものなのだ。 非正規雇用を含め、低成長時代の民間の給与水準は経済原則に従い自律的に低下しているが、公務員給与は成長期の高水準のままだ。 これを放置して財政再建はあり得ない。 公務員数とその給与を少なくとも20%程度下げ、過剰な財政支出を減らさなければ財政健全化は出来ない。 日本の自律的成長もあり得ない。 今の日本国と国民は、返せる見込みのない借金依存で年24兆円もの分不相応の贅沢をしているのだ。 今の経済状況で財政支出を削減するのはきわめて困難だが、日本国が永続するためには他に道はない。 消費税アップはそういう枠組みの中でとらえるべき課題なのだ。

 バラマキで国民に媚びを売ることしか念頭にない政党には、消費税議論は10年早い。    

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