【伝蔵荘日誌】

2010年6月20日: 最近見た面白い映画 T.G.

 52インチの大画面液晶テレビを買った。 年寄りの暇つぶしである。 家人はもっぱら韓国ドラマを見て喜んでいる。 少し前評判になった「冬のソナタ」以来、最近のテレビ番組は韓国ドラマが実に多い。 放映料が安いのだろう。 韓国ドラマはどれも筋書きが単純で、ファッションで着飾った美男美女しか出てこない。 ヒロインはもとより、ウエイトレスからお手伝いさんに至るまで、不自然なほどドレスアップしてギンギンに化粧している。 周りのセットも、洒落た町並み、瀟洒なレストラン、近代的なオフィス、豪華マンションのオンパレードである。 仕事でソウルに行ったことがあるが、東京を少し貧弱にした感じの町並みで、あんな作り物のステレオタイプの風景は見たことがない。 家人にはそれがいいらしい。 現実逃避というか、一種のおとぎ話的感覚なのだろう。 韓国の人たちはこういうリアリティのないテレビドラマを見てカタルシスを感じるのだろうか。

 テレビを買い換えたついでに、スターチャンネルに加入した。 3チャンネルある映画専門チャンネルで、24時間ぶっ通しで映画を放映している。 本数は月に数百本にのぼるが、実際は古いB級映画の再放送がほとんどで、新しい作品は滅多にお目にかからない。 それでも時々面白い映画が放映されて、年寄りの暇つぶしにはもってこいだ。 ハイビジョン映像で、音声はは5.1チャンネルだから、52インチ大画面液晶で見ると迫力満点である。 映画館に行く必要がない。 最近の映画館はシネマコンプレックスとか言って、狭い客席でスクリーンも小さい。 これならリビングで見る52インチテレビと大差ない。

 最近見た映画で面白かったのは、名優ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンが共演した「最高の人生の見つけ方」である。 原題は“Bucket List”(棺桶リスト)。 末期ガンで余命半年と宣言された年寄りの大金持ちと自動車修理工が、偶然同じ病室で隣り合わせになる。 気晴らしに自動車修理工(モーガン・フリーマン)が、ふざけ半分で死ぬ前にやりたいことを羅列した“棺桶リスト”を作る。 それを大金持ち(ジャック・ニコルソン)と二人で金に糸目をつけず実行に移す、という筋書きである。 リストは、エベレスト登山とか空中ダイビングとか、ピラミッドのてっぺんでスコッチを飲むとか、サファリのライオン狩りとか、普通は想像するだけで誰もやらないか、出来ないことばかりである。 結局最後は診察通り半年で二人とも死ぬのだが、そこに至るまでの経過と二人の心境の変化、家族とのやりとりが泣かせる。 こういう映画を面白いと感じるのは歳のせいなのだろうか。 棺桶リストの中でもっとも傑作なのは、「世界一の美女とキスする」である。 なぜ傑作かは、映画を最後まで見ないと分からない。 ハリウッドは、こういうウィットとペーソスに富んだ娯楽映画を作るのが実に上手い。

 モーガン・フリーマンは好きな俳優の一人である。 落ち着いたいぶし銀のような黒人俳優で、どちらかというと脇役が多い。 役柄はこの映画のような善良な市民から、悪役、神様など、幅が広い。 彼が神様役を演じた「ブルース・オールマイティ」は、駄作のB級映画だが、彼の存在感と演技力でもっている。 他にも「ショーシャンクの空に」とか、最近ではアカデミー賞を取った「ミリオンダラーベビー」などにも出演している。

 もう一人の好きな俳優はニコラス・ケイジである。 渋い性格俳優で、彼が主役を演じるアクションものは、他とはひと味違う。 98年に制作された「スネーク・アイズ」は、普段はやくざから賄賂をせしめている悪徳警官N.ケイジが、国防長官を狙撃したテロリストを追いつめるアクション映画だが、冒頭ボクシング会場で、延々10分以上の長い演技を、移動カメラでワンカットに納めたシーンが印象的である。 こういう演技は大根役者には出来ない。  彼は「ゴッド・ファーザー」で有名なフランシス・コッポラ監督の甥で、伯父さんの七光りを嫌って、わざわざ芸名をコッポラからケイジに変えたのだという。 同じくスターチャンネルで見た、「月の輝く夜に」も味のある映画だった。 片腕のパン焼き職人(N.ケイジ)と中年の未亡人とのロマンチックコメディだが、ブルックリンのイタリア系社会の日常がユーモラスに描かれている。 87年に制作されたこの映画で未亡人役を演じたシェールは、アカデミー主演女優賞を受賞している。

 もう一人、面白いというか、妙に印象に残るアップツーデイトな俳優にトミー・リー・ジョーンズがいる。 なぜアップツーデートかというと、サントリーの缶コーヒーCMのとぼけた演技である。 このCMにはいろいろなバージョンがあるが、彼が主演したSFコメディ映画、「メン・イン・ブラック」を見たことのない人には、意味がさっぱり分からない。 家人など、このCMのどこが面白いのかと、いつも不思議がる。 でもこのCMがいまだに放送されると言うことは、メンインブラックを見た人がよほど多いのだろう。 T.L.ジョーンズは決して美男とはいえない、いかつい顔の男優だが、ハーバードを優秀な成績で出たインテリ性格俳優なのだそうだ。 93年の「逃亡者」で冷徹な連邦保安官役を演じ、アカデミー助演男優賞をもらっている。 モーガン・フリーマンと同じで、脇役が多い。

 昔はポール・ニューマンが一番のお気に入りだった。 これぞ渋い演技派俳優の代表である。 いまだに彼を超える演技派俳優はいない。 最初に見た映画は66年の「動く標的」。 仙台の学生時代の話だ。 ニューマンがタフな私立探偵を演じるハードボイルド映画で、この俳優がいっぺんに好きになった。 その後、70年、新入社員の頃公開された「明日に向かって撃て」は、今まで見た中で一番面白い映画である。 そのポール・ニューマンも一昨年亡くなってしまった。 ああいう味のある性格俳優はもう出てこないのだろうか。

 ここまで書いてきて、女優の名前が一人も思い浮かばない。 どうしたことか。 

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