【伝蔵荘日誌】

2010年6月8日: 次期菅政権の危うさ T.G.

 三日前から自作しているパソコンがうまく動かない。 電源投入するとBIOSが起動し、ひとまず動き始めるのだが、Windowsのインストールを始めると、途中でブルースクリーンが出て止まってしまう。 いわゆる“死のスクリーン、BSoD(Blue Screen of Death)”である。 脂汗をかきながら夜中の3時まであれこれ試してみたが、どうにも動かない。 もう疲労困憊。 匙を投げて翌朝パーツを購入した店へ持ち込んだ。 今はその結果待ちであるが、鬱として気が晴れない。 こんな憂鬱な気分は久しぶりである。 経済学部出の営業マン、S君でさえ軽々出来たのに、理学部でパソコン会社エンジニアの当方がうまく出来ない。 せっかく意気込んで最新のCPUやマザーボードを買い揃えたのに、いささか落ち込んでいる。

 そういうさなか、民主党の代表選挙が行われ、予定通り菅直人氏が選ばれた。 まさしく予定調和そのものである。 代表選には樽床とか言う聞いたこともない、みょうちくりんなオッサンが対立候補に立ったが、見え見えの田舎芝居。 有権者を馬鹿にするにもほどがある。 ほかに総理大臣やりたい奴はおらんのか。 どうした岡田! どうした前原! オザワに潰されるのがそれほど怖いのか! オザワに「9月までの選挙管理内閣」と多寡をくくられて怯んだのか! いざというとき戦わないのなら、政治家なんか辞めてしまえ! パソコンでいらいらしていたので、よけい腹が立つ。

 国民も相変わらず愚かである。 事後の世論調査によると、民主の支持率は急上昇し、鳩山内閣発足時に近くなったという。 おかしいではないか。 中身が何も変わっていないのに。 管はハトヤマ内閣の重要閣僚だったし、新閣僚のほとんどが従来からの横滑りだ。 枝野と仙石を幹事長、官房長官に据えたのはいくらか新鮮みがあるが、脱オザワの看板に使われているだけで、彼らがオザワの影響を退けて、物事をきちんと進められるか未知数だ。 つまり新内閣は旧来と中身が何も変わっていないのだ。  宇宙人ハトヤマの愚行を追認してきただけの連中が、のうのうと生き残っていて、何が新内閣だ。 こういう目くらましにだまされるのは国民が馬鹿だからだ。 故事に言う朝三暮四そのものだ。 世論調査でころころ意見を変える国民は、狙公にたぶらかされた猿と同じだ。 日本はこういう低次元の世論調査政治をいつまでやっているのか。  先進国が聞いて呆れる。 これなら中国の共産党一党独裁の方がマシだ。

 日本の政治システムは議院内閣制である。 世論調査の風向きでころころ総理大臣や内閣を変える必要はない。 よほどの失政でもない限り、次期総選挙まで続ければいい。 今回がその“よほどの失政”だったとすれば、首のすげ替えではなく、本来は解散総選挙であるべきだった。 そうでないなら、ハトヤマはいくら支持率が下がっても、総理大臣の椅子を投げ出す必要などなかったのだ。 信念に従い、淡々と政治を行えば良かったのだ。 普天間県外と思ったのなら、千万人といえども我征かん。 堂々と進めれば良かったのだ。 彼の信念であるアメリカの抑止力を必要としない安全保障を進めれば良かったのだ。 地方政治はともかく、そもそも中央政治は国民目線や市民目線でやるものではない。 常に大所高所から物事を考え、国家トータルの最適解を求めるのが役目だ。 国民や市民は大所高所のことなどまったく考えていない。 自分のことしか考えていない。 世論調査の数字などに一喜一憂する必要はない。 国民もそのつもりで投票すべきなのだ。 一度選んだら、多少のことはあっても4年はアンタに任せると。 それでうまくいかなかったら自己責任だと。

 中央政府の主たる役割は、経済財政運営、外交、国家安全保障の3点に尽きる。 それ以外の、教育とか農政、道路、医療、福祉などはほとんど地方自治に任せればいい。 あえて中央でやる必要はない。 今の地方分権の流れである。 この国政の3点について、ハトヤマも危うかったが、カンはそれ以上に危うい。 彼の出自は市民運動家である。 基本的に反米、反安保、護憲である。 その姿勢が変わった気配はない。 彼の常々の言動を見ると、相変わらず市民運動家の域から出ていない。 市民運動家にはエイズは裁けても、外交、安全保障は無理だ。 そもそもそういうテーマに関して政治哲学も信念も持っていない。 なんと言ってもハトヤマは基本的に憲法改正論者であり、自主国防論者だった。 その意味で、カンとは正反対のスタンスである。 普天間国外移設もその延長線上にあった。 そそっかしいから順序を間違えただけだ。 カンは違う。 基本的に日米安保、改憲、自主国防を否定している。 だからハトヤマが現実性のない普天間国外移設を唱えたとき、反対も諫めもしなかった。 のんきに御神輿を担いでいた。 そういう左翼のへたれ男が、政権欲しさに日米合意尊重へ鞍替えする。 ご都合主義以外の何者でもない。 そうならそうと最初から言え。 後出しジャンケンをするな。 そんな底の浅い男に誤魔化されて拍手喝采する有権者は、馬鹿としか言いようがない。

 外交については、彼はまったく舞台を踏んだことがない。 外交は場数と哲学だ。 彼の言動を見ていると、日本の外交について思いを致した形跡がない。 外交哲学があるようには見えない。 外交に関する彼の考え方を耳にしたことがない。 彼には外交はまず無理だ。 次善策として、海千山千の外務官僚の力を使った方がいい。 間違っても政治主導などと、利いた風なことを言わない方がいい。 国を誤る。 誰か志のある策士を付けた方がいい。 でもハトヤマをたぶらかして、普天間国外移設をさんざん吹き込んだ寺島実郎氏のような政治ゴロを選んではいけない。 もっと危うくなる。

 経済財政に関してはもっと絶望的だ。 彼の口からまともな経済政策、財政政策を聞いたことがない。 多分何も分からないのだろう。 最近になって消費税を言い出しているが、財政規律や経済運営全般を睨んだ話ではない。 単にバラマキ財源確保のための増税論に過ぎない。 民主はよく増税の前に無駄の排除と言うが、それよりバラマキ排除の方が先決だ。 金額の桁が違う。 そのことはちまちました見せ物事業仕分けでよく分かった。 それにもまして彼の経済音痴は度を超している。 藤井の後の財務相として国会で答弁したら、“乗数効果”の意味が分からず、立ち往生した。 庶民はいざ知らず、財務大臣たるもの、乗数効果はイロハのイの字である。 そんなことも分からん経済音痴が総理大臣だと。 気が遠くなるよ。 オザワならずとも、9月の代表選で消えてくれることを祈るばかりだ。

 幹事長に選ばれた枝野幸男氏は、民主党で数少ないひいきの議員である。 自分と同じ大学出身という身びいきは割り引いても、確固たる政治姿勢、見識、理路整然とした語り口など、なかなか見所のある人物と常々思っている。 いくぶんリベラル左翼的傾向があるのが欠点だが、彼なら君子豹変できるだろう。 ぜひ一度、総理大臣をやらせてみたい人物の一人である。 欠点は理路整然が過ぎて、多分に理屈っぽいところ。 ディベートなどやらせたら抜群だが、組織を仕切ったり、人をうまく操るのは下手だ。 その意味で、今回の幹事長職は彼にとって最も不向きなポストである。 それが分かっていて管は彼を幹事長にした。 反オザワの看板代わりに使われたのだ。 そのことは彼もよく分かっているだろう。 これからは豪腕オザワの陰に陽にの嫌がらせが始まる。 親衛隊、オザワボーイズ、ガールズの面従腹背が待っている。 7月の参院選まで多いに苦労するだろう。 うまく取り仕切れなかったら、彼の政治生命は終わる。 反対に、ここを乗り切ってオザワやカンの鼻をあかしたら、次期か次次期総理の椅子が待っているだろう。 オザワは消えて無くなるだろう。 政治家枝野幸男の正念場だ。 大いに頑張ってくれたまえ。 応援しています。

 こういう話をすると、お前はそんなに自民党が好きかと友人達にからかわれる。 年寄りの因業じじいの、悪代官みたいな連中ばかりの自民党が好きなわけではない。 二世議員や族議員が跋扈する自民の体質は大嫌いだ。 しかし、プライマリバランスを念頭に置いた財政運営、憲法改正、自主国防を、とりあえずの基本方針にする自民党は、中央政府としては民主よりはるかにマシだ。 プライマリバランスなんて民主では死語に近い。 だから平気で子供手当なんてバラマキが出来る。 おそらくカンはプライマリバランスなんて考えたこともないし、意味も分からんだろう。 経済、外交、防衛は自民にやらせ、それ以外のちまちましたことは、“市民目線の民主”にやらせる、ってのはどうだろう。 名案だと思うが、誰も賛成しないだろうな。                    

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