【伝蔵荘日誌】

2010年10日: 痛風の定期検診 T.G.

 病院でいつもの定期検診を受けて帰宅した。 3ヶ月に1回の痛風検査である。 血液検査も尿検査も問題なく、今回も無罪放免である。 この年になるとこれが何より有り難い。 今夜の酒はさぞ美味かろう。

 6年前、エベレストトレッキングの出発直前、突然左足親指の付け根が腫れ上がり、痛くて歩けなくなった。 翌日近くの医者に診せると、立派な痛風だと言われた。 もともと尿酸値が高い方だったが、ヒマラヤ行きのトレーニングで汗をかいた後、寝しなにスコッチの水割りを飲んだのが引き金になったらしい。 アルコールの利尿作用で、血液中の尿酸値濃度が一気に上がったのだ。 一晩寝たら炎症は収まったが、ヒマラヤの山中で足が腫れたりしら一大事である。 歩行不能、ヘリを呼ぶしかない。 おそるおそる医者に、ヒマラヤへ行ってもよろしいかと聞いたら、どうぞどうぞと言う。 歩いたり運動したりするのは、むしろ痛風の体質改善に良いのだという。 以来病院で定期検査を受け、尿酸値を下げる薬を服用しているので、一度も発作は起きていない。

 よく痛風は美食が原因で、王侯貴族がかかる贅沢病だと言われる。 あれは嘘だ。 自分の場合、まるで当てはまらない。 食は細い方だし、体も痩せている。 グルメではないから外食はほとんどしない。 食事のバランスには気をつけている方だし、貧乏だから贅沢なご馳走など滅多に食べない。 病院で控えるように言われた高級食材もほとんど食べない。 通風に最も悪いと言われるビールも好きではない。 それなのに通風になる。 美食が原因ではなく、生まれつきの体質なのだ。 若い頃から会社の健康診断でいつも尿酸値が高いと言われていた。 その頃でも常時6.0ぐらいあったが、発作が出た直後は7.3もあった。 尿酸値の正常範囲は、2.0〜7.0である。 今は尿酸値を押さえる薬を服用しているので正常値である。 今日の検査では4.3だった。 尿酸値が正常なら、全く問題ない。

 痛風になってにわか勉強したのだが、痛風は血液中に含まれる尿酸が原因で発症する。 血液中の尿酸は尿で体外に排出されるが、何らかの原因で一定濃度を超えると体内で結晶化し、悪さを引き起こす。 ほとんどの場合、足の親指の付け根に出る。 親指の関節で結晶化し、炎症を引き起こす。 痛風の最も一般的な症状である。 面白いことに、必ず片方で、両足に同時に発作が出ることはまずないと言う。 自分の場合もそうだった。 最悪のケースは腎臓で結晶化することだ。 痛風は痛いだけで、命に関わることはないが、腎臓で結晶化すると腎臓が機能不全に陥り、透析が必要になる。 体に負担がかかるし、旅行にも出かけられない。 透析をしないと一ヶ月で死ぬ。 義父がこれで亡くなったが、最後は悲惨だった。 痛風の激痛は、風が吹いただけで痛いといわれるが(それで痛風という名前が付いた)、あれは全くの嘘だ。 自分の場合、ちょっと捻挫した程度の痛さだったし、顔をしかめるほどではなかった。 ベッドで寝返りをうっても目が覚めなかった。 世の中嘘が多い。

 尿酸はプリン体から作られる。 プリン体はすべての食材に含まれている。 特に多いのは、レバー、エビ、アンコウの肝、ウニ、白子、鰹、、鰯、魚の干物、干し椎茸、大豆、ビールなどである。 つまり納豆も枝豆も駄目と言うことだ。 面白いのは魚や椎茸は干すとプリン体が増える。 逆に少ないのは、乳製品、かまぼこ、ちくわ類、野菜、鶏卵、ソーセージなど。 肉類は多い方ではないが、ハムやソーセージに加工するとより少なくなるらしい。 卵はプリン体の塊のように思われがちだが、含有量はほぼゼロ。 通風には理想的な食材である。 プリン体は細胞の核に含まれるから、プリン体の量は細胞の数に比例する。 卵は単細胞なのでプリン体はゼロに近い。 レバーやアンコウの肝やウニや白子が悪いのは細胞の数が多いからである。 通風に最も悪い食事は、エビ、蟹、アンコウの肝、枝豆などを肴にビールを飲むことである。 最近の研究では、食物から摂取するプリン体はわずか6分の1で、ほとんどの6分の5は自分自身の体が作り出すのだという。 要するにご馳走を食べて通風になるのではなく、原因のほとんどは体質によるのだそうだ。

 通風は悪いことばかりではない。 この病気で死ぬことはないし、3ヶ月ごとに病院の定期検診を受けるので、健康管理に大いに役立っている。 尿検査と血液検査では100項目ぐらいののデータが調べられる。 検査料はわずか2000円である。 これでレントゲンと心電図を取ったら、人間ドックと同じだ。 データに何か変化があると、かかりつけの医師が適切な処置をとってくれる。 一病息災を絵に描いたようなもの、侍医がいるのと同じだ。 あるとき血清アミラーゼの数値が少し高いので、エコー検査を受けるように指示された。 担当してくれた女医さんに何を調べているのか聞いたら、膵臓炎、もしくは膵臓癌の検査だという。 その場で結果を聞いたら、「異常なし。 あの先生、いつも少し大袈裟なのよね」とオフレコで話してくれた。 大袈裟大いに結構。 膵臓癌は最も発見が難しい癌と言われる。 もし初期発見できなかったら、手遅れで今頃死んでいたかもしれない。 確か昭和天皇がこの病気で亡くなられた。 痛風様々のこの頃である。     

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