【伝蔵荘日誌】

2010年2月3日: トヨタの大ピンチ T.G.

 日本経済の屋台骨、トヨタが大ピンチである。 一昨年の金融危機で一挙に売り上げが落ち込み、数千億円規模の赤字決算からやっと立ち直りかけたところへ、再び襲った2度目の災厄である。 もしかすると、これがトヨタの凋落の始まりかもしれない。 日本経済の牽引車であるトヨタの凋落は、そのまま日本の凋落につながりかねない。 供給サイドを軽視する民主党政権の経済政策も足を引っ張って。

 今日の朝日新聞が伝えるところによると、アメリカ政府がトヨタのリコール対応の遅れに関し、制裁金を検討中という。 自動車製品には珍しくないリコールに、一国の政府が課徴金を貸すとは穏やかでない。 ましてやトヨタの金城湯池であるアメリカの政府が言い出すとは、経済疲弊で自国産業保護に傾くアメリカとの経済摩擦の再燃といえよう。

 今回のリコール問題の原因はアクセルペダルの不具合である。 当初アメリカで、高級車レクサスの暴走事故が頻発し、調べたところ、厚手の運転席マットがアクセルペダルに引っかかり、アクセルオフにならないことが原因とされた。 その後他の車種でも同様の事故が頻発し、調べてみると、採用した米部品メーカー製のペダルに問題があることがわかった。 車本来の機能でなく、外装、内装など、見てくればかりにコストをかける伝統的トヨタ車の欠点が裏目に出た。 結局リコールは6車種、230万台にのぼり、トヨタ車の信頼性を大いに損なった。 それだけにとどまらず、総額数千億円のリコール費用がかかるらしい。 カウントダウンでやっと立ち上がったボクサーに再び見舞った強烈なパンチ。 はたしてよれよれトヨタは立ち上がれるのだろうか。

 それに追い打ちをかけるように、今度はトヨタのドル箱であるハイブリッド車プリウスのブレーキに問題があることがわかった。 報道によれば、アメリカではすでに102件のクレームが寄せられ、日本でも同じような症状が多発しているという。アクセル問題は海外だけで、日本製部品を使った国産トヨタ車には不具合がない。 しかしプリウスのブレーキ問題は日米共通である。 考えようによっては、トラブルの原因としてはこれの方が罪が深い。 その上もしかすると、今後の普及が見込まれるハイブリッド車や電気自動車に共通する、より深刻な問題なのかもしれない。

 プリウスの問題は、ブレーキのききが悪く、前の車にぶつかったり、横断歩道の前で止まれなかったりする症状だという。 考えられる原因は、油圧ブレーキと回生ブレーキの切り替えの問題らしい。 プリウスは燃費を上げるために動輪の回転エネルギーを電力に変換して蓄積する回生ブレーキと、通常の油圧ブレーキを組み合わせている。 この切り替えはセンサーを介したコンピュータ制御で行う。 その際のタイムラグがブレーキの効きに影響しているらしい。 タイムラグは1秒程度だと言うが、時速40キロの車はその間に10m以上走る。 車としては致命的な時間である。 ある意味、コンピュータの塊のようなハイブリッド車には避けられないトラブルだ。

 パソコン利用者なら誰でも知っているが、コンピュータのソフトウエアには必ずバグがある。 バグは英語で“虫”のことだ。 バグは潰しても潰しても次から次へと現れる。 バグのいないソフトなどこの世に存在しない。 昔のプログラマが言うのだから間違いない。 Windowsの惨状を見ればそのことがよく分かる。 プリウスのトラブルもおそらく制御ソフトのバグだろう。 プリウスの制御プログラムは、Windowsほどではないにしても、かなり複雑な大規模ソフトである。 バグはほぼ永久になくならない。 大袈裟に言えば、プリウスのようなコンピュータの塊は、いつバグが現れるか分からない。 そのバグが何をしでかすか分からない。 その恐怖を覚悟の上で乗らねばならない。 今後主流となると見込まれるハイブリッド車や電気自動車の宿命だ。

 プリウスほどではないにしても、昨今の自動車は大幅にエレクトロニクス化されている。 エンジンや足回りはほぼコンピュータ制御である。 一昔前の車のエンジンには機械式キャブレータが付いていた。 ガソリンを気化してシリンダーに送り込む装置である。 アクセルを踏むとキャブレータの弁が開いて気化されたガソリンが送り込まれる。 アクセルの角度でガソリン量が調整され、エンジン回転数がコントロールされる。 今の車はキャブレータではなくすべて電子燃料噴射装置が使われていて、ガソリン噴射量も電子制御である。 アクセルを踏むとその情報がコンピュータに伝えられ、燃料噴射が行われる。 このドライブ・バイ・ワイヤと言われる機構は、機械的にアクセル角度を伝えるキャブレータと違って、間にコンピュータが入る分、ダイレクトなアクセルワークが出来ない。 今乗っているスバルのレガシィもそうだ。 280馬力のターボエンジンなのに、低速トルクが弱く、信号スタートで軽自動車においていかれる。 設計者の意図でそういうかったるい設定にしてあるのだろう。

 これまでの機械式自動車は、エンジンや部品の絶え間ない改良、摺り合わせで性能や品質を上げてきた。 長年の経験とノウハウの蓄積がなければ成り立たない産業であった。 中国やインド、韓国など、後進国がなかなか追いつけない分野であった。 しかし電気自動車は違う。 パソコンと同じで、タイヤとモーターとコンピュータと電池さえあれば誰でも作れる。 今ではパソコンはアメリカや日本ではほとんど作っていない。 おおかたが中国、台湾製である。 車も程なくそうなるだろう。

 そういう迫りくる危機に対処するために、トヨタはせいぜいハイブリッド車で頑張っていた。 それなのに、その看板車種が大ピンチ。 もしかすると、物作り日本のピンチなのかもしれない。 それなのにハトぽっぽ政権は、やれ子供手当だ、事業仕分けだ、需要サイドだと、極楽とんぼの経済運営。 今日のニュースで福島瑞穂消費者担当相は、「プリウスのトラブルについては然るべき処置をとる」、と啖呵を切っていた。 大企業の天敵のようなこの社民党党首は、さぞトヨタに辛く当たるのだろう。 日本の終わりの始まりか。                  

目次に戻る