２０１０年１月２４日： 小沢一郎の闇 Ｔ．Ｇ．
昨日、小沢一郎が東京地検の聴取を受けた。 告発にもとづく刑事事件の聴取だから、被告発人の立場として黙秘権付きの取り調べである。 事情はともあれ、与党の“最高権力者”が被疑者として取り調べを受けるというのは尋常ではない。今まで同じ様な状況に陥った政治権力者達はたくさんいたが、彼の師匠であるロッキード事件の田中角栄も、佐川急便事件で“勇名”を馳せた金の延べ棒の金丸信も、リクルート事件直前は総理間違いなしと言われていた藤波孝生元官房長官も、党籍を離れたり、議員辞職したり、姿勢を正した上で裁判を争った。 金権政治家の権化のような彼らでも、三権分立の日本の政治制度を尊重していたのだ。 それなのにこの小沢と言う男は、しれっとした顔をして幹事長を続けるという。 「信無くば立たず」という政治家の美学、資質がこの男にはまったく欠けている。 今の政権は事実上この男の操り人形だから、政治犯罪被疑者の身で今後も日本国の政治をやり続ける。 世も末である。
反小沢と見られていた枝野議員までもが、「有罪判決が出るまでは推定無罪」と、訳知りの顔の法律用語で小沢をかばった。 弁護士上がりの彼を、気骨がある議員と買っていたが、見損なった。 そう言う次元の話ではないだろう。 一体全体「推定無罪」とは、弱者である一般市民が巨大司法権力と戦う際に与えられる権利、対抗手段であり、司法権力さえ支配下に置く最高権力者に当てはまることではない。 検察庁を含む三権のトップにある鳩山総理は、事実上彼の操り人形なのだ。 ここは角栄など、彼が信奉してきた諸先輩に倣って、少なくとも幹事長は辞任して姿勢を正すべきだ。 その上で検察と戦うべきだ。 このまま推移して夜郎自大な小沢天下が続けば、日本の政治も司法も真っ暗闇である。 国の最高権力者は、政治も司法も意のままに出来ると、国民は思いこむだろう。 もはや民主主義国家とは言えない。
そもそも今回の疑惑の本質は贈収賄である。 民主党議員等が声高に言うように、政治資金規正法違反などと言う形式犯罪ではない。 一般的に詐欺と受託収賄は立件が難しい。 裁判は確たる物証がないと公判維持出来ない。 詐欺罪は、金をだまし取るという意図があったことを立証するのがきわめて難しい。 “意図”は心の内の問題だから、物証がない。 そんなつもりは無かったと言われればお終いだ。 受託収賄も同様である。 金をもらっただけででは駄目で、対価として便宜を図ったという証拠がなければ立件は出来ない。 特に当時の小沢は野党にいたから、表向きダム工事発注の権限がなかった。 にもかかわらず西松も水谷建設も献金という形で賄賂を送った。 当人等がそうだと言っているのだから、状況証拠として確かだ。 しかし物証がない
政権与党にいなくても、隠れた権力があれば便宜供与は出来る。 小沢擁護の検察批判を繰り返す達増岩手県知事は、小沢学校の優等生だと言うし。 何より西松建設など土建会社が、おかしな政治団体を作って彼を取り巻いていたことがその証拠だ。 政権交代しても変わらぬ、日本の公共事業の闇である。 しかし便宜供与の物証を見つけるのは容易でない。 ７６年のロッキード事件の時は、アメリカ側が物証や証言を山ほど与えてくれたので立件出来た。 今回は西松や水谷建設など贈賄側の自白だけで、それを裏付ける証拠がない。 贈賄には銀行取引などの物的証拠が残らない裏金を使う。 角栄や金丸の失敗を間近でつぶさに見てきた小沢一郎は、秘書達に指示してその辺はぬかりなく“身辺整理”したのだ。 しかしながら状況証拠は誰がどう見ても真っ黒け。 無いのは物的証拠だけ、と言うのが今の状況だろう。
だってそうだろう。 贈賄側の企業関係者は、何の得にもならないのに、口を揃えて金を渡したと言う。 小沢本人は、家族の銀行預金４億円の札束にして１０年以上自宅金庫に置いてあったなどと、不自然極まりないことを言う。 バブル崩壊後とはいえ、銀行取り付けのおそれもなく、定期預金金利が５％もあった時代に、銀行から引き出してタンス預金にする理由も合理性もない。 ４億円を５％の複利で１０年据え置いたら、金利だけで１億円近くなるのだ。 その上ご丁寧に、土地購入の直前に銀行から金を借りたなどともっともらしい言い訳をする。 誰がどう見ても賄賂の裏金のマネーロンダリング工作以外の何物でもない。 世間常識のある国民なら、誰だってそう思っている。
そもそも裏金というものはすべて現金である。 証拠が残る銀行振り込みで賄賂を送る馬鹿はいない。 百戦錬磨の贈与側企業がそんな愚かなことをするはずがない。 そこそこの企業の経理部門には、裏金（札束）作りの専門家が必ずいる。 以前勤めていた会社にもいた。 あの当時の相方は、もっぱら故竹下首相だった。 小沢と同じ角栄の舎弟で、金に汚い政治家だった。
もらった裏金はロンダリング（洗浄）しなければ表金として使えない。 特に取引の証拠が残る不動産売買では絶対条件である。 小沢の大きな金庫には、右から“家族資産と称する”表金の札束が入り、左から裏金の札束が入る。 これをシャッフルして、不動産買い付けには家族資産を使ったことにし、残りの怪しい金は証拠が残らない事務所経費などの使途に使えばいい。 金に色が付いているわけではない。 銀行から引き出したはずの現金は、とうの昔に別目的で使い果たしていたに違いない。 賄賂の裏金が正々堂々小沢名義の不動産に姿を変える。 この男は同じ手法で十数カ所の不動産を手に入れている。 ヤクザも真っ青の絵に描いたようなマネーロンダリングだ。 この資産はいずれ子供や奥さんに遺産として残る。 個人名義であっても権利は陸山会にあるなどと、いい加減な覚え書きを作ったらしいが、法的根拠はまったくない。 悪知恵の最たるものだ。 残念なのは、そう言う悪巧みの証拠がないことである。 小沢がいまだに突っ張れるのはその自信があるからだろう。
素人考えで憶測すれば、もし小沢が立件逮捕されるとしたら、受託収賄ではなく、民主党が形式犯罪と非難する政治資金規正法違反か、脱税だろう。 長年無申告で４億もの贈与を繰り返していたのだから、立派な脱税である。 いわゆる形式犯罪による別件逮捕だが、それでも小沢一郎という権力亡者の政治生命を絶つには充分だ。 政治資金規正法は連座制だから、秘書の犯罪としても小沢本人の公民権は５年間停止され、被選挙権を失う。 議員辞職しかない。 歳を考えれば彼の政治生命は終わる。 マフィアの親玉アルカポネは、殺人、麻薬取引、売春、賭博などありとあらゆる凶悪犯罪を犯したが、結局捕まったのは脱税容疑で、刑務所で獄死した。 別件逮捕の見本、それと同じだ。 証拠隠滅が可能な権力者の犯罪を裁くには、別件逮捕大いに良しなのだ。
それとは逆に、これほど真っ黒けの男を、もし東京地検が無罪放免するようなことがあれば、日本の民主主義は終わるだろう。 司法や行政はその程度のものかと国民は思ってしまうだろう。 三権分立の民主主義政治は有名無実になる。 夜郎自大な陸軍が、恫喝の果てに分不相応な権力を握り、日本の政治を壟断した１９３０年代と似たようなものになるだろう。 いつも賑やかな民主党の議員連中が、寂として声もないのが不気味である。 何か分からぬが、この小沢という男の、暴力団の影もちらつく“得体の知れぬ暴力”がよほど恐ろしいのだろう。 小沢独裁の始まりか。 そうとしか思えない。 ひどい政権だ。