【伝蔵荘日誌】

2009年11月22日: 事業仕分けとスパコン開発 T.G.

 今朝のテレビ朝日サンデープロジェクトで民主党が鳴り物入りでやっている事業仕分けが取り上げられていた。 司会の田原総一郎氏の意地の悪い誘導尋問に枝野議員が苦し紛れな弁明をする。 小沢にいびられ、無任所でやりたくもない仕事を押しつけられて、この人も辛い立場だろう。 彼がせっかく破綻のない受け答えをしているのに、横から蓮鳳とか言う馬鹿な女性タレント議員が愚かな合いの手を入れる。 黙っておればいいものをこれではぶちこわし。 せっかくの枝野氏の巧みな言い訳が水の泡だ。 女性特有の愚かさの典型である。

 先日この女性議員が先頭に立って、仕分け作業でこれ見よがしにスパコン予算を廃止した。 その時の彼女の、「なぜスパコンは世界一でなければならないのか。 世界第二でなぜいけないのか。」と言うセリフが話題になっている。 この実に愚かな発言には、さすがに各方面から批判が続出して、おそらく民主党も内々困っているらしい。 さっそく管国家戦略担当大臣が考え直すと言いだしている。 理系出身のこの大臣は科学技術担当でもある。

 世界第二では意味がない分野はいくらもある。 代表的なものは軍事技術である。 第二の兵器は第一のそれにまったく勝てない。 戦えばこてんぱんに負ける。 無意味である。 スポーツもそうだ。 金メダルと銀メダルでは天と地の開きがある。 世界記録保持者のことは誰でも知っているが、二番目は知らない。 誰でも金メダルが取りたくてオリンピックを目指す。 その切磋琢磨で世界記録が生まれる。 なぜ銀メダルでいけないかなどと馬鹿なことは誰も言わない。 科学技術競争の世界もその典型だ。 第一でなければ革新を生み出せないし、経済や関連技術発展の牽引役にはならない。 第二に甘んじていたら進歩から取り残される。

 20世紀の科学技術開発競争を振り返ればそのことがよく分かる。 代表的なものは核開発だ。 世界最初の核爆弾開発を目指して、当時最強の軍事国家アメリカとドイツがしのぎを削った。 最初に開発に成功したアメリカがその後の世界の支配者になった。 もしドイツが先んじていたら、20世紀の世界史は別なものになっていただろう。 原爆開発のマンハッタン計画には巨額の資金が投じられ、無理を通して道理を引っ込めるようなことをやった。 無茶苦茶さもかけた金額も今のスパコン競争の比ではない。 それでも二番でいいなどと誰も言わなかったし、現実問題として二番目が無意味なことを誰でも知っていた。

 こんなエキセントリックな例だと核アレルギーの日本人には理解してもらえそうもない。 もう一つ分かりやすい例を上げるなら、今の世の中を支えているIT技術がそれだ。 ITは2番目では意味がない典型的な技術分野である。 一番が市場を席巻し、二番以下は生き残れない。 今のIT市場を見ればそのことがよく分かる。 ITには根幹をなす幾つかの技術がある。 コンピュータの基本原理、オペレーティングシステム、半導体、集積回路、インターネット、などである。 それ以外は付け足しと言ってよい。 1950年代からアメリカを中心とした開発競争が始まり、結果としてアメリカの一人勝ちに終わった。 前述した根幹技術のすべてにおいてアメリカが世界第一の座を獲得し、日本を含む第二の技術に甘んじた国々はすべて敗退した。 アメリカはITで巨額の利益を獲得し、冷戦終結後の疲弊したアメリカ経済を支えた。 アメリカの二番煎じ、クソ真似しか出来なかった日本やヨーロッパのコンピュータはほとんど売れなかった。 作れば作るだけ、アメリカに利益を吸い取られる構造になった。 今のパソコンやインターネットがその典型である。

 IT競争の世界でスパコンは別の意味を持っている。 必ずしもアメリカが抜きんでていないし、技術革新の梃子になる可能性がある。 前述したようにコンピュータの基本原理、基礎技術はすでに確立している。 その意味においては世界第一であるべき理由は薄いが、世界最高速でしのぎを削る競争の先に、技術の新たな地平線が見える可能性を多分に含んでいる。 それがIT分野なのか、別の分野かは分からないが、最初に地平線を見たものが、そこで見つけた新しい宝物を独占することは間違いない。 インドへ行くつもりだったコロンブスがアメリカを発見したのと似ている。 怪我の功名でアメリカを見つけたスペインは、それによって得られた富で当時の世界の覇権を握った。

 スパコンが何に役立つかという議論で、宇宙開発とか環境シミュレーションとか遺伝子工学とかいろいろ言うが、そんな次元の話だったら世界第二でも第三でも構わない。 世界第一である必要はさらさらない。 そうではなく、スパコン競争の唯一最大の御利益は、誰にも予測出来ない新たな世界を見つけられる可能性、その一点に尽きる。

   コロンブスのアメリカ発見と同じように、アメリカがIT技術で世界を席捲出来たのは結果であって、アメリカが最初からIT分野の一人勝ちを目標にIT開発を行ったわけではない。 アメリカのIT開発の出発点はほとんどすべて軍事目的である。 目的は唯一ソ連に勝つこと、ただそれだけ。 コンピュータも集積回路もインターネットもすべてそうだ。 国防省が金に糸目をつけず無茶苦茶をやった結果、コロンブスと同じくITという新しい大陸を見つけ、富を独占出来た。 最先端の技術開発はすべて同じである。 こういう分野は企業努力だけではどうにもならない。 国家が身を乗り出す必要がある。 国は第一人者の意見を聞いて黙って予算を出すべきだ。 アメリカという国にはその度量がある。 日本にはない。 技術の何たるかも分からぬタレント議員風情が、「そんなことをして何の役に立つ」など愚かなことを言う。 予算を潰して鬼の首を取ったように偉そうにする。 聞けば総予算はたったの1000億だという。 役立たずの八ッ場ダム のわずか5分の1だ。 四の五の言わず黙って出せ!

 サンデープロジェクトで田原氏に皮肉たっぷりに突っ込まれた蓮鳳議員は、「“スパコン開発の重要性を明確にするため”に、第二でなぜいけないかとあえて挑発的な質問をしてみた。 それに対して的確な回答が帰ってこなかった」と言い訳じみた発言をしている。 予想外の批判を浴びて内心しまったと思っているのだろう。 いい加減なことを言うな。 嘘も休み休み言え。 もしそうならもう少しきちんとした議論したらいい。 今からでも遅くはないよ!

  宗教裁判所の聖職者達は、ガリレオが地球が動いていることを“彼らに分かるように説明出来なかった”ので牢獄に閉じこめた。 最初から天が動いているという予断に支配されていたからだ。 その結果、当時科学技術で世界最先端だったイタリアは、その後鳴かず飛ばずの二流国に落ちぶれた。 経済と言い、科学技術と言い、民主の馬鹿議員に任せておくと21世紀のイタリアになりそうだ。                            

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