【伝蔵荘日誌】

2009年9月17日: 鳩山内閣新閣僚の記者会見 T.G.

 昨夜NHKのテレビで新鳩山内閣の閣僚記者会見を中継していた。 見始めたら面白くて、夜中の2時まで付き合ってしまった。 お陰で今朝は眠い。 何が面白かったかというと、脱官僚で役人が作ったペーパー使用禁止令が出ていた会見で、どう話すかなと言う興味である。 これまでの歴代の閣僚会見は役人の操り人形で、面白くもおかしくもなかった。 万年野党で行政の細部に通じていない新大臣達が、ペーパーに頼らず、自分の知見だけで語るというのは容易なことではない。 どこかでずっこけるのではと言う野次馬根性である。 結果から言うと、そう言う破綻はほとんど見られなかった。 ひとまずは及第点である。

 ほころびが出なかった理由は幾つかある。 政権交代のご祝儀で、記者連中がきわどい質問を控えていたことがその一つである。 マスコミはこれまで反自民、親民主の報道を続けていたから、にわかに手のひらを返せなかったのだろう。 しかしこういうヨイショ報道をいつまでも続けていたら、ジャーナリズムの使命が泣く。 ジャーナリズムは常に反権力でなければならない。 308議席はもはや権力そのものなのだ。 こういうご祝儀会見はこれを最後にしてもらいたい。

 もう一つは、厳しい質問が出ると、どの大臣もマニフェストのせいにして逃げられたことだ。 聞く方も聞かれる方も、まるでマニフェストをご神託扱いしている。 現実問題はそのマニフェストの実現可能性にあるのだが、どの大臣もそれには一切言及しなかった。 記者も追求しなかった。 正直言ってあのマニフェストで実現出来そうなものは半分もない。 鳩山政権は今後どうするつもりだろうか。 国民が忘れてくれることを当てにしているのだろうか。 マスコミもそれを良しとするのだろうか。

 ほとんどの閣僚が馬鹿のひとつ憶えのように“脱官僚政治”で話を始めた。 それしか言えないお粗末な大臣もいた。 確かに新政権に唯一、最も期待したい点ではある。 これが出来たら、ほかの公約はすべて反古にしてもいい。 いや、むしろ反古にしてくれた方がいい。 ろくなことが書いてない。 肝心の経済、安全保障政策は空っぽだし。 国民のほとんどは読んでいないし。 まあ一度読んでみて下され。 くだらなさが分かるから。(「民主党政策インデックス2009」

 しかしその脱官僚実現には一山も二山もあるだろう。 見果てぬ夢になる可能性大だ。 今まで官僚主導政治でやりたい放題だった海千山千の役人達が、にわかに従順になるとも思えない。 行政の政治主導と簡単に言うが、日本は法治国家。 それを担保するのは法律である。 役人が自分の手足を縛る新たな立法に進んで協力するわけがない。 面従腹背、あれこれ画策するだろう。 強引に迫ればサボタージュもある。 行政が停滞するだろうが、役人どもには屁でもない。 新米大臣はなすすべがない。 駆け込み天下りについて聞かれた赤松農水大臣が、「ただちに差し止めは法的には無理だが、そういう団体は予算で締め付ける方法もある」、と答えていたのが唯一具体策らしかったが、はたして農政オンチの赤松に出来るかな? 前途多難ですな。

 ご祝儀相場はともかく、マスコミ記者連中の程度の低さには呆れた。 司会者に質問を促されても、パラパラとしか手が上がらない。 やっと質問しても、内容は犬が西向きゃ尾は東。 下らんこと聞くなと怒鳴りつけたくなる。 その上時間だからと質問を打ち切ろうとすると、途端に大声挙げて無理矢理割り込んで質問する。 そんなことなら最初から手を挙げろ! テレビで見るホワイトハウスの大統領記者会見のスマートさとは大違い。 あいつら何を勉強してきたのか。

 もう一つ呆れたのは、新政権が政治主導のために各省内記者クラブでの事務次官会見を禁じたことへの抵抗である。 朝日か毎日の女性記者が、報道の自由侵害だとか、言論統制だなどと金切り声でしつこく質問(抗議)を繰り返していた。 語るに落ちるとはこのことである。 そもそも記者クラブは大手マスコミだけの仲良し倶楽部で、悪しき慣習として役人達の世論操作に使われてきた。 都合の良い情報を意図的に限られた者だけにリークする。 特ダネをもらった記者は喜んで書き立てる。 安部、福田、麻生政権はこれで潰された。 事務次官であろうと、組織の人間が上司の許しもなく内部情報を勝手にしゃべるのが言論の自由であるわけがない。 かって多母神航空幕僚長がプライベートな場で持論を述べたとき、マスコミは一斉に非難、封殺した。 言論統制の最たるものだ。 それを忘れたのか。 役人が仕事内容を勝手にしゃべるのは法律で禁止しても良い。 閉鎖的な記者クラブ制度は撤廃した方がいい。

 平凡な会見の中で、唯一千葉とか言う法務大臣のオバサンがエキセントリックだった。 元社会党系でガチガチの死刑廃止論者らしいが、法務大臣の重要な責務である死刑執行について聞かれて、“自分の信条から慎重に取り扱う”と答えていた。 つまりやる気はないということらしい。 よくこんなおかしな主義者を法務大臣にしたものだ。 小沢の西松事件と鳩山の献金問題に絡めて指揮権発動について質問が出たら、なんと「恣意的にはやらないが、視野には入れている」とほざいた。 女だてらに、いざとなったら発動するぞと凄んで見せたわけだ。 こんな剣呑なこと、普通なら就任会見では絶対口にしない。 小沢の意図を忖度した上での東京地検に対する恫喝に違いない。 おそらく小沢がその目的で入閣させたのだろう。 自民党政権ならさしずめマスコミが騒いで内閣が吹っ飛ぶところだ。 それなのに今朝のテレビ新聞ではどの社もそのことには一切触れていない。 政治と同じく日本のマスコミの劣化、鈍感さは目に余る。

 気がついたことだが、壇上に掲げられている国旗にきちんと敬礼していたのは、平野官房長官のほか、前原国交相、川端文科相、中井国家公安委員長の4人だけ。 後の連中は無視、素通り。 千葉氏を含めて旧社会党の左派系閣僚多用が原因だろう。 彼らは根っからの日の丸嫌いの確信犯。 こういう連中が日本国の大臣とは世も末だ。 どうやら小沢一流の参院選挙向けシフトらしいが、民主党主流の保守勢力との軋轢が増すだろう。 特に沖縄問題や安全保障政策に関して閣内不一致の不協和音が出るだろう。 その上、社民党のようなお花畑政党と連立を組んで、はたしてうまくやっていけるのだろうか。 オボッチャマの鳩山が、この振れ幅の大きい閣僚達をうまくコントロール出来るだろうか。 うまく行かないと闇将軍小沢がしゃしゃり出る。 二重権力が見え見えになれば、鳩山人気はもたない。 そうなれば面従腹背の役人どもがほくそ笑むだけだ。 彼らは内閣なんかどうでもいいのだから。 どうかリベラル+オボッチャマ政権が長続きしますように。                 

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