【伝蔵荘日誌】

2009年8月12日: 伝蔵荘でのマニフェスト議論  T.G.

 会社の同期の仲間が伝蔵荘を気に入ってくれて、時々泊まりがけでゴルフをやる。 今回も8月6、7日と連チャンで楽しんだ。 おきまりのコースは麓の佐久リゾートGC。 伝蔵荘が出来て40年近くになるが、こんな近いところにゴルフ場があるなんて最近まで知らなかった。 プレイ費が安い上、コースの手入れもなかなか良いので皆気に入っている。

 今回のメンバーは7人。 プレイが終わると小屋に戻って酒盛りだ。 選挙が近いので、自然と話題はそれに集中する。 自民、民主のマニフェストが俎上に上がる。 聞いているとほとんどが民主党支持のようだ。 自民に対する反感が根強い。 「これまで自民がやってきた政治はひどすぎた。 あの連中に任せておいたら日本は駄目になる。 民主も頼りないところがあるが、一度やらせてみよう。 民主党の連中だってそれほど馬鹿ではない。 政権を取ったら今までのような非現実的なことは言わなくなるだろう。 一時期混乱はあるかもしれないが、日本をそれほどまずい方向に引っ張っていくことはないだろう。」、と言うのが、自分を除く6人の意見の公約数だ。 6対1で民主圧勝である。 大企業で40年勤め上げた平均的サラリーマンOB7人の政治意識がこうだから、民主党政権誕生はほぼ確実だ。

 マニフェストの内、ばらまき政策に関しては自民、民主、どっちもどっち。 ばらまきの対象が少し違うだけで、低次元の人気取り政策である点は五十歩百歩だ。 少しぐらい無駄があろうと、お門違いだろうと、ばらまいた金は日本の中で使われる。 マクロ経済効果は大差ない。 問題があるとすれば財源だが、無い袖が振れるわけでもなし。 いつもと同じ、ちょっとした公約違反になるだけのことだ。

 ここまでの認識は自分も同じなのだが、民主党の安全保障政策について疑念を提起したらみんなから総スカンを食った。 「何が心配だ。 アンタは考えすぎだ。 民主党だって日米安保は認めている。 沖縄の米軍基地を減らせと言っているだけだ。 昔と違って今の時代、日本に攻めてくる国なんてありはしない。 中国がや韓国が攻めてくるわけがない。 北朝鮮に至っては問題外だ。 そう言う時代に自主防衛力なんて必要ない。 ましてや核なんてとんでもない。」と寄ってたかってやっつけられた。 それでも言いつのると、「アンタは右翼だ。」と相手にされない。 多勢に無勢、それ以上言うのを諦めた。

 見解の相違はともかく、この辺りが平均的日本人の国家安全保障観であることは確かである。 議論を通じて痛感するのは、日本人に対する憲法9条の影響力の強さだ。 安全保障に関するすべての発想のベースになっている。 9条を規範として善し悪しを考える習慣が付いている。 これから一歩でも外に出ると、ただちに拒否反応を示す。 大学出のインテリビジネスマンの平均的認識がこうだとすると、憲法第9条は法律と言うよりもはや宗教に近い。 日本人は9条の呪縛から逃れられなくなっている。 民主党の政策以前に、そのことの方が心配になる。 (こんな事を言うとまた怒られるかな?)

 今朝の産経新聞に、民主党が政権獲得後の安全保障政策の一環として、「国連警察隊」創設を検討しているという記事が載っている。 小沢代表のかねてからの持論である「国連待機軍」のバリエーションである。 それによると、軍民の専門家を“個人単位で”募り、(この個人単位というところがいかがわしい!)、国連の配下で国際紛争解決に当たらせる。 「国連重視」と「対等な日米関係」を内外にアピールすることが目的で、沖縄の米軍基地縮小の跡地に本部を誘致する。 基本理念は、「平和をつくる戦略的発想」と「過度の対米依存からの脱却」にあり、今後の安全保障政策の基本と位置づける。 つまり、「アメリカ依存から国連依存に切り替え、自衛隊戦力の一部を“個人単位で”この組織に移し、イラクのような武力行使を必要とする国際軍事活動に当たらせる。 個人単位とは指揮命令系統は含めないと言う意味である。 その分自衛隊は縮小し、専守防衛に専念させる。 警察隊に派遣された自衛官は、国連の指揮命令の下、武器兵器の使用、武力行使も認める」、と言うことらしい。

 民主党基本政策集「インデックス2009」を見ても、安保政策についてはきわめて抽象的なことしか書いてない。 ただいま鋭意検討中のこちらの方が彼らの本音なのだろう。 こういう馬鹿げたことを言い出すから、民主の安保政策が信用出来なくなる。 馬鹿も休み休み言えと言いたくなる点がてんこ盛りだ。

 そもそもこんな構想によその国が乗るわけがない。 日本以外の国は国際紛争を自力で解決するつもりで軍事力を保持している。 国連とはいえ、他国の指揮官に自国の兵士や装備を委ねるつもりはさらさら無い。 国連軍に参加しても、自国兵士の指揮命令は自国の指揮官がするのが国際常識だ。 憲法で軍事力行使を禁じているいるなんておかしな国は、世界広と言え日本だけなのだ。 語るに落ちるのは、自衛隊員をリクルートして、“個人単位で”参加させるという点だ。 ドンパチやってもいいが、日本国政府は関知しませんよ、と言っているのと同じ。 無責任極まりない。 これではまるで外国の傭兵だ。 国のバックアップが期待出来ない外国での危険任務に、個人レベルの自衛隊員が応じるはずがない。 さらに言えば、米軍基地を追い出して、代わりに国連警察軍本部を置くなんて話をアメリカが了解するはずがない。 時間をかけて説得すると言うが、いくらオバマでも乗りっこない。 下手をすれば日米安保解消につながる。 民主党にその覚悟はあるのか。 その上警察軍とは言え軍隊だ。 仮に実現したとして、論理的には中国やロシアや、北朝鮮の兵士までもが、沖縄基地に駐留することもあり得る。 それを悪夢だとは民主党の連中は考えないのだろうか。 国連がすべからく日本の国益に沿う正義の味方とでも思っているのだろうか。

 この構想の眼目は、国連警察軍に派遣された自衛官に限って、武器使用、武力行使を認める点にあるのだろう。 要するに憲法9条の縛りから逃れる悪あがきに過ぎないのだ。 彼らも国際紛争解決に軍事力行使が必要だとは思っている。 しかし9条があるから出来ない。 国連の指揮命令による武力行使であれば日本国の国権発動ではないから、憲法違反にならないという浅知恵である。 いくら何でもおかしな理屈ではないか。 9条の条文は「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」となっている。 ここで言う国権とは一義的に日本国のことを指すが、理念として「他国もかくあるべし」と言う含意があるはずだ。 自国指揮官の命令では駄目だが、他国指揮官の命令なら許されると言う意味では決してない。 そうでなければ9条は理念もへったくれもない、ただの偏狭なオタク条文に過ぎなくなる。 世界に冠たる平和憲法が泣く。 この構想は9条の縛りをくぐり抜けるご都合主義以外の何物でもない。 こんな卑怯極まりないまやかしは、絶対にやってはいけない。 日本人の精神的背骨が壊れる。 憲法解釈で海外派遣する方がよほどどマシである。

 ほかにも沖縄一国二制度など、民主党の安保政策には怪しげな点が多い。 どう説明したらあの6人は、いや多くの民主党支持者は耳を貸してくれるのだろうか。 民主党の政策にも良いところはある。 しかし、経済運営の失敗程度なら借金が増えるぐらいで済むが、安全保障の失敗は国を潰す。     

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