【伝蔵荘日誌】

2009年5月1日: 孫娘とディズニーシーへ行く。 T.G.

 息子から電話があり、ディズニーランドに行かないかと誘われた。 嫁と孫二人を連れて行くが、下の子がまだ5ヶ月なので乗り物に乗れない。 その間見ていて欲しいという。 まあ体のいい子守である。 でも孫と1日遊べるならと、家人と連れ立って出かけることにした。 最近出来た新しいディズニーシーである。 昔仕事でアメリカに出張したとき、本場フロリダのディズニーランドには行ったことがあるが、東京ディズニーランドは初めてである。

 10時開門のゲートにすでに大勢並んでいる。 我々も入場券を買って並ぶ。 3歳半の孫娘はもう大喜びで、前に来たとき買ってもらったシンデレラの髪飾りをママに付けてもらってはしゃぎ廻っている。 入場して広場へ進むと、ちょうどショウが始まるところだ。 着ぐるみを着たディズニーのキャラクター達が演奏に合わせて歌い踊る。 人だかりで背の低い孫には見えないので肩車してやる。 大好きなミッキーやミニーがすぐ前で歌い踊るのだから、肩の上の孫娘はもう大喜び。 踊りに合わせて手を振ったり叩いたり歌ったり。 すっかりショーに感情移入している。 この後、昼食を挟んで約6時間、幾つかの乗り物に乗り、ショーを見たが、孫娘がはしゃぎ廻る様を見ていたらこちらも楽しくなった。 一人約6000円の入場料で家族が丸1日楽しめる。 この不況の中で、東京ディズニーランドだけが興行成績を伸ばしている理由が分かった。

 客層の大方は子供連れと思ったが、案に相違して8割以上が成人男女だけのグループである。 中にはお年寄りや年配の夫婦もいる。 遊園地は子供を遊ばせるところと言う固定観念はもはや通用しないらしい。 気になったのは、こんな幼児レベルの出し物や施設に大の大人達が喜ぶ様である。 いい歳をした大人の男女が、ミッキーやドナルドなどキャラクター達のショーを見て歓声を上げる。  着ぐるみキャラクターと写真を撮るコーナーでは行列が出来ている。 孫が大好きな人魚姫アリエルの列に一緒に並んだが、行列のほとんどは大人達。 何が面白いのか。 自分の場合は可愛い孫が喜ぶ様を見るのが楽しかったが、ショーや施設自体はレベルが幼稚すぎて何の感興も湧かない。 孫が一緒でなかったら、頼まれても行く気にならない。 大人があんな幼稚なショーを見て何が面白いのか。 3歳半の孫娘と精神年齢が変わらないではないか。 日本人がここまで幼児化しているのかと、いささか心配になる。

 最近至る所で日本人の幼児化傾向を見かける。 典型的なのはテレビ番組だ。 ろくに芸も持たないお粗末な芸人達を大挙して登場させ、馬鹿げたギャグや振る舞いを演じさせる。 とても大人の鑑賞には堪えない。 面白くもおかしくもないから、サクラの観客が動員され、ディレクターの合図で一斉に拍手したり笑ったりする。 昔ならさしづめ木戸銭返せと言われるところだ。 ニュース番組は何の知見も見識もない芸能人をコメンテータに使う。 当然愚にもつかぬコメントしかできない。 キャスターやアナウンサーも原稿の棒読みか、子供じみた声色のアナウンス。 聞いていてこちらが恥ずかしくなる。 外国でテレビのニュース番組を見て、こんな子供じみたアナウンスは聞いたことがない。 退化した日本人の精神年齢にテレビ局が合わせているのか、はたまたその逆なのか。 おそらくその両方だろう。 必然テレビが面白くなくなり、視聴率が落ち、CM料激減でテレビ会社経営が危うくなっていると言う。 自業自得というか、自分で自分の首を絞めているわけだ。

 もう一つ感じるのは若者向け音楽の幼児化だ。 最近の日本のロックやポップスはおしなべてレベルが低い。 これはと思える曲を聴いたことがない。 ハーモニーなど無視した単調なメロディ。 歌い手も得てして音痴だから、それに合わせて狭い音階の単純な旋律を壊れたレコードのように繰り返させる。 音程を譜面通り正確に出せないので、音を引きずらせて誤魔化す。 さらに気になるのは小学生の作文のような稚拙な歌詞。 それを男女を問わず、拗ねた子供みたいに、口の中でこね回すような歌い方をする。 女の子はまだ可愛いとしても、突っ張りスタイルの男の歌手にこれをやられると気持ち悪くなる。
 こんな子供じみた曲で喜んでいる日本の若者達は、音楽性が退化しているとしか思えない。 ロックにしろポップスにしろ、欧米のものはもう少し程度が高い。 歌手の歌唱力も、曲のメロディーやリズムもレベルが高い。 所詮日本人の西洋音楽は、いつまでたっても下手くそな物まねに過ぎないのだろうか。

 最近の小中学校の音楽教育環境は、我々の子供の頃とは比べものにならない。 どんな田舎の学校にもピアノや楽器が揃っている。 ピアノが弾ける先生も必ずいる。 自分が小学生だった頃、学校にピアノなど無く、オルガンがやっと弾ける先生しかいなかった。 初めてモーツァルトを聴いたのは高校2年生の時、安物の5球スーパーラジオから流れてくるNHKの音楽放送だった。 ひどい音質だったが、初めて聞くアイネ・クライネ・ナハトムジークはこの世のものとは思えないほど美しかった。 今はモーツァルトでもベートーベンでもバッハでも、生演奏や高性能オーディオでいつでも聴ける。 それほど音楽環境が向上したのに、今の若者達の音楽趣味レベルがこれほど低い理由を思いつかない。 音楽性の退化、幼児化としか思えない。

 遊園地やテレビ番組やポップス音楽の幼児化はまだお笑いぐさで済む。 しかしこれと同じレベルで政治や報道をやられたら堪らない。 国内政治は政策など度外視。 本質から外れたスキャンダルで左右される。 それをテレビが煽る。 外交は幼児化したオボッチャマ政治家や官僚が諸外国のしたたかで老獪な連中にいいように転がされる。 最近の日本の政治や社会劣化は、幼児化したテレビ新聞の報道に影響されている部分が少なくない。 政治家やマスコミ、ジャーナリズムが退化した日本人の精神年齢に迎合しているのか、逆に意図して国民の幼児化を企んでいるのか。 幼稚園レベルのディズニーショーに歓声を上げるいい歳をした大人達を見て、つくづく考えさせられた。             

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