2009年3月1日: 団地の火事 T.G. ![]() この家人とのやりとりにはわけがある。 3年前、頼まれて団地自治会の建築協定委員長を引き受けた。 住人回り持ちの役目だが、市の建築課に成り代わって団地内の増改築の図面審査をする、けっこう気疲れする仕事である。 40年近く経つ団地なので、最近は取り壊して建て替えるケースが増えている。 平均50坪前後の敷地だから、どのお宅も最新工法で目一杯大きな家を建てようとする。 必然団地で決めた建築協定を逸脱しがちで、審査に当たる委員会との間でしばしば悶着が起きる。 O氏とのトラブルはその典型だった。 協定では禁じている三階建てを強行しようとするO氏と委員会とのやりとりが次第にエスカレートし、委員長である当方を裁判に訴えるという騒ぎになった。 O氏があくまで“屋根裏”だと主張する部分は居住に使わないと一札入れてもらって何とか審査を通したが、その間ずいぶん不愉快な思いをさせられた。 家人はそのことを言っているのである。 この役目を引き受けたとき、建築基準法はおろか団地の建築協定もよく知らなかった。 仕方なく市の建築課に出向いていろいろ教えを請うた。 お役目の1年間に10件の改築工事を審査したが、それぞれに問題を含んでいていろいろ勉強になった。 特に痛感したのは建築基準法の問題と矛盾についてである。 当団地は建築基準法に言う第二種住宅専用地域にある。 この緩い基準のままだと乱雑な町並みになってしまうので、より縛りが強い建築協定を団地自治会が自主的に定めている。 例えば基準法のままだと敷地の境界線ぎりぎりまで建てられるが、協定では境界線から1m以上離さなければならない。 協定が及ばない団地の外は両隣の壁が接するような無秩序な建物ばかりが目につく。 必然宅地価格は団地の中より低くなると言う。 協定は制約がきついが、その分町並みが整然となり、結果として不動産価格も維持されるというメリットがある。 基準法ベースだと階数の制約はないが、協定では二階建てまでと押さえられている。 O氏とのトラブルはここから起きた。 提出された設計図面は、誰がどう見ても三階建てである。 二階の上にさらに階があり、窓まで付いている。 これをO氏は屋根裏だと言い張る。 よく見るとその部屋の中間ぐらいの高さに点線が書いてあり、屋根裏の天井だと主張する。 天井がある屋根裏なんて聞いたことがない。 屋根裏の上にさらに屋根裏があることになる。 O氏が主張するには、しばらく前の基準法改正で「天井の高さが1.4m以下の場合、階とは見なさない」と定められたのだと言う。 そんなことも知らずに協定委員をやっているのかとえらい剣幕である。 「図面上天井だけが点線で書かれているのは不自然」、「なぜ屋根裏に窓が必要なのか」と指摘しても、それはこちらの勝手と譲らない。 ![]() それ以外にも建築基準法改正についてはおかしなことが沢山ある。1年間の素人のにわか勉強でも分かる。 一時騒がれた耐震偽装問題もここから生まれた。 平成10年の改正でそれまで自治体が行っていた建築確認・検査が民間業者に開放された。 その結果杜撰極まる検査が横行し、あの大惨状を引き起こした。 検査に人手が足りないと言う“三分の理屈”はあろうが、業者向けの改正(改悪)であったことは起きた現実が示している。 建築基準法に限らず、お役所のやることが本当に国民の利益を考えているのか大いに疑問だ。 それにしてもO氏はお気の毒だ。 あの“天井と窓付き屋根裏”はどうなったのだろうか。 銀行にお勤めだったとか聞くが、退職金をはたいて、建築協定委員長と大喧嘩してまで、せいぜい大きな家を建てようと頑張ったのに。 もし自分なら意気消沈して何もする気が起きなくなるだろう。 正直大いに同情する。 いくら家人にからかわれても。 |