【伝蔵荘日誌】

2008年6月8日: 男の料理 T.G.

 最近、料理にはまっている。 料理は何と言っても手順とタイミングが命で、複数の処理を同時並行的に行う必要がある。 次ぎに何をすべきか戦略を立てながら進めなければならないので、老化防止にはなはだ効果的だという。 当方の場合、献立はその日飲みたい酒に合わせる。 今晩の酒は日本酒。 福島は二本松の酒蔵「奥の松」の吟醸酒をガラスの器に入れて、朝から冷蔵庫で冷やしてある。 近くのスーパーを覗いたら、今旬の鰹のたたきが格安である。 さっそくこれを仕入れて、金串を刺し、ガスコンロで炙って氷水に漬け、締まったところを刺身包丁でスライスする。 本当は七輪コンロの炭火で焼くといいのだが、昨今そう言う贅沢は出来ない。 前もって水で曝しておいたタマネギのスライスと一緒に大皿に盛る。 タマネギと一緒に、摺り下ろした生姜とポン酢で食する。 ちまちま食べるマグロの刺身と違って、大ぶりな切り身を豪快に頬張る鰹のたたきは、何というか“生理的な美味さ”である。 冷えた「奥の松」の喉越しが実に快適である。 土佐の皿鉢料理などでは、ニンニクのすり下ろしで食すると言うが、しつこいので当方の好みではない。

 男の料理は、どこでも手に入る簡単な食材を使って、手早く簡単に作れなければ意味がない。 その上、酒に合わなければ価値がない。 女性向けの料理本を読むと、なにやらしちめんどくさい調味料や、そんじょそこらのスーパーでは売っていない高級食材をやたら使う。 ああいうのは玄人料理人に任せておけばいいのであって、素人が手を出すものではない。 ちなみに最近試みて、我ながら傑作と思えたレシピを下記にあげる。 当方のオリジナルではなく、大方のヒントは、NHKの「今日の料理」とインターネットから得た。

空豆と豚肉の炒め物
 空豆は今が旬。 皮を剥いて半身に割り、あらかじめフライパンで煎って火を通しておく。 豚肉はロースの薄切りを短冊に切り、日本酒をまぶし、豚肉100gあたり大さじ一杯の醤油につけ、片栗粉をまぶし、油を敷いたフライパンで炒める。 火が通ったら、処理しておいた空豆を加えて少々炒め、皿に盛りつける。 日本酒も合うが、冷えた白ワインとのマッチングが最高だ。 NHKの「今日の料理」のレシピである。 空豆と豚肉がこれほど合うとは想像もしなかった。

トマトと生ハムのパスタ
 トマトは乱切りにしておく。 フライパンにスライスしたニンニクとオリーブオイルを入れ、弱火で煎る。 ニンニクに火が通ったら乱切りトマトを入れ、白ワインをを少々加え、胡椒塩で味付けし、炒める。 トマトの形が崩れてトマトソース状になったら、アルデンテに茹で上がったパスタを鍋から移し、細かく切った生ハムと粉チーズ(パルメザン)を振りかけて、トマトソースと和え、皿に盛る。 粉チーズは食するときにも振りかける。 当然のことながら、冷えた白ワインがぴったりだ。 これしかない。 こつはトマトソースの出来上がりに合わせてパスタを茹で上げるタイミングだけ。 まず失敗がないし、そこいらのイタリア料理屋より美味くできる。

チキンソテー
 フライパンに油を敷き、ネギの青い部分を入れて炒める。 ネギの香りが油に移ったら、焦げた青ネギを捨て、あらかじめ塩胡椒しておいた鶏のもも肉を皮を上にして入れる。 肉の表面が白くなったら裏返して皮の部分を下にし、フライパンに蓋をして弱火でソテーする。 火が通って皮がこんがり焼けたら、短冊に切った白ネギを加え、ネギがしんなりするまで一緒にソテーし、皮を上にしてネギと一緒に皿に盛りつける。 この順序でやれば、誰がどうやっても失敗しない。 酒は、冷酒、赤ワイン、白ワイン、ビール、何でも合う。 インターネットで得たレシピである

魚の切り身の粕漬け
 魚を酒粕で漬けると、タンパク質が変化し、旨味が増してさらに美味くなる。 酒粕は何を使ってもいいが、贅沢を言うなら福島は二本松の酒蔵「大七」。 ここで作られる最高級の吟醸酒の酒粕、「生もと純米大吟醸酒粕」が最高。 ここの酒蔵の最高級吟醸酒は1升1万5千円するが、これが日本酒かと驚く美味さである。 残念なことに、普通の酒屋では手に入らない。 「奥の松」と言い、「大七」と言い、安達太良山伏流水で造った酒はどれも美味い。 話を粕漬けに戻すと、酒粕に味醂とミソを加えて混ぜ、魚の切り身に塗りたくり、切り昆布と一緒にサランラップで包み、冷蔵庫で二晩寝かせる。 酒粕を取り除き、金網で焼いて、「大七」か「奥の松」の大吟醸で食する。 多分、例の“吉兆”あたりの焼き物よりよほど美味い。 魚は新鮮だったらなんでもいい。

 今トライしたいレシピは、白身魚のポアレ。 ニンニク風味で表面がかりっと焼けたのを、冷えたシャルドネで食したら、さぞかし美味かろう。    

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