【伝蔵荘日誌】

2008年6月4日: 後期高齢者医療制度 T.G.

 後期高齢者医療制度の評判が悪い。 やれ姨捨山だとか、老人の切り捨てだとか、罵詈雑言の嵐である。 野党は明日の参議院でこの制度の廃止を議決するそうである。 当方もあと幾ばくもなく後期高齢者の仲間入りをする身だから、関心がないわけではない。 新聞、雑誌の解説記事を努めて読むようにしている。 しかしながら、いくら読んでもこの制度のどこが悪いのか分からない。 あの厚労省が作った制度だから、どこかにインチキがあるやもしれぬと、眼光紙背に徹して読むのだが、どこが悪いのかさっぱり分からん。 あのクソ役人どもに騙されているのだろうか。 当方の頭が悪いのだろうか。 後期高齢者というネーミングは確かに感心しないが、制度自体は悪いところが見つからない。 野党やマスコミは、なぜこの制度をこうも嫌うのだろう。

 現在の健康保険制度が少子高齢化で行き詰まっていることは確かだ。 同じ厚労省が労働法をさんざん改悪して、労働者派遣制度を野放図に緩めたので、巷には組合保険の傘には入れない非正規社員であふれかえっている。 このことも我が国の医療保険制度を大いに圧迫している。 それにも増して問題なのは、医療費を食いつぶす“後期高齢者”の爺さん婆さんが増え続けていることだ。 このままでは、10年と経たず日本が世界に誇る国民皆保険制度が破綻するに違いない。 この破滅的状況を打開するために、厚労省の役人達が無い知恵を振り絞って(?)作った制度が、今回の後期高齢者医療制度なのだろう。

 この制度は老人医療費負担を若い世代に押しつけないため、75歳以上を分離し、別制度にする。 それだけでは給付に見合う保険料が徴収出来ないので、半額を税で補うという、まことに有り難い制度だ。 文句を付ける余地がない。 制度変更だから、細かく計算すれば、個人個人の保険料負担も変わる。 幾ばくかの損をする人も出てくるだろうし、得する人もいる。 損と言っても大した金額ではない。 老人切り捨てなどと、金切り声を上げるほどの金額ではない。 今日のニュースでは、厚労省の調査でおおむね7割以上が得するそうだ。 半分を税でまかなうのだから、当然のことだろう。 損をする人の大半は、収入がありながら会社勤めの子供の扶養家族になっていて、保険料が免除されていた老人だ。 収入に見合う保険料負担をせず、若い世代の組合保険の寄生虫になっているのと同じで、同情は出来ない。 これを姥捨て山とは、言う方がおかしい。

 それにしても、この制度に対するマスコミの非難は異常を通り越して感情的ですらある。 いったい彼らは何が目的で、こうも悪態をつくのだろう。。
 3日付の産経新聞の「ゆうゆうLife]と言う特集記事で、神奈川県の71歳の二人暮らしの夫婦の例が載っている。 夫が障害者なので、75歳前にこの制度に移行したのだと言う。 国保だったら夫婦共々59万円で済んだ保険料負担が、新制度では夫の後期高齢者医療保険が34万円、妻の国保料が50万円、差し引き25万円の負担増になったと言う。 こういうケースをあげて老人イジメと非難しているつもりだろうが、よくよく考えればおかしな話だ。 記事によれば、この夫は厚生、企業年金収入が年609万円もあり、妻は国民年金40万円+不動産収入があるのだという。 妻の不動産収入の金額は伏せてあるが、彼女の国保料が上限に近い50万円に達しているところを見ると、少なくとも600万円を越える年収があるはずだ。 夫婦合わせて1300万円近い高収入で、今どきの年寄り夫婦にしてはなはだリッチである。 だとすれば、国保加入の場合の保険料試算59万円は上限値であって、年収に比べて低すぎる負担である。 仮に妻が年40万円の年金収入しかなければ、保険料は高々2、3万円で、夫と合算しても従来より20万円以上安くなるはずだ。 産経新聞はこれを老人切り捨てと言いたいのだろうか。 高齢者だからと言って、保険料負担を不当に安くする必要はない。 十分すぎるほどの収入があれば、それに見合った保険料負担をするのが当然のことだろう。

 1200兆円に達する国民資産の大半は60歳以上の年寄りが持っているという。 今どきの老人はお金持ちなのだ。 それなのに医療保険負担まで安月給の若い人達に押しつけて、医療保険制度を破綻させるのは大間違いだ。 老人の中には低収入者もいるだろうし、生活保護を受けている人もいるだろう。 今回の制度は、そう言う人達から阿漕に高額の保険料を取り立てるわけではない。 彼らにしたって、半分を税で補うのだから、おそらく今までの国保制度より低負担になっているはずだ。 今回の制度が、今までに比べて年寄りに過酷だという論理的な説明を聞きたいものだ。 この制度を取りやめて、国民皆保険制度がちゃんと維持出来るという、納得出来る説明を是非聞きたいものだ。 ねえ、マスコミ諸君、野党の皆様。  

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