【伝蔵荘日誌】

2008年5月11日: 田原総一郎のサンデープロジェクトを見る。 T.G.

 遅い朝食を済ませてテレビを点けたら、田原総一郎のサンデープロジェクトをやっている。 20周年特別企画だそうで、「我が青春に悔いなし」というタイトルで、“激動の日本を生き抜いてきた政治家”3人、中曽根康弘、土井たか子、不破哲三に話しを聞くという内容である。 3人ともすでに現役を退いているから、建前論を排した本音が聞けるかと期待したが、長年の政治家としての生業がすっかり染みついているのか、思ったほどの本音は聞けなかった。 それでも言葉の端々に興味深い話が出てきた。


 感心したのは元共産党書記局長不破哲三氏である。 日本共産党のドン、宮本顕治の後を引き継いで共産党を長らく支えてきた大物政治家だが、5年前に議員を引退し、後任の志位和夫に道を譲っている。  田原が「1991年にソビエト連邦が解体し、共産主義は否定されたが、」と誰しもが聞きたい問いかけをする。 どう答えるかと耳をそばだてて聞いていると、「マルキシズムは間違っていない。 レーニンやスターリンが誤った解釈で共産主義を実行しただけのことで、われわれはいずれ行き詰まると見ていた。 市場原理万能の今の資本主義はサブプライム問題などで行き詰まっており、何らかの抜本的な体制変革が必要である。 マルキシズムが何らかの解を与えるだろう。」と、何の外連味もなく言い切っている。 さすがは筋金入りの共産主義者、へなちょこマルクス学者にはとても言えないセリフである。

 ソ連崩壊以後、資本主義と自由経済が最良の体制と長らく信じられてきたが、ここに来ておかしくなった。 サブプライム問題を手始めとするアメリカ経済の混乱や中国のいびつな経済成長が世界を混乱させ始めている。 サブプライムローンなんて、とてもまともな金融商品とは言えぬ、壮大な詐欺に過ぎない。 市場原理主義の行き着く先がこんないかがわしい世界だとは誰も知らなかった。  不相応な石油価格の高騰は、市場原理そっちのけのヤクザまがいの国際ファンドが意図的に吊り上げた結果に過ぎない。 共産主義を堅持したまま経済だけ資本主義化した中国は、手段を選ばぬ金と資源の獲得競争に血道を上げる。 世界秩序などどこ吹く風のいびつな中国経済は、巨大化するに連れほころびが目立ち始め、世界中に混乱と恐怖をまき散らしている。 今回のチベット騒動も、世界中が感じ始めた中国というおかしな国に対する不信感、えもいわれぬ不気味さの裏返しなのだろう。 世界全体を覆うアメリカ式グローバル経済の行き詰まりは、多少の制度改革では正常化しそうにない。 このまま進めば、必ず破局に突き当たる。 その破局は、アフリカ、ラテンアメリカをも巻き込み、第三次世界大戦に匹敵する甚大な被害をもたらしそうだ。 今さらマルキシズムの出番はないだろうが、不破氏のいうように、マルキシズム式のコペルニクス的転回が必要という見解には十分説得力がある。

土井たか子氏は相も変わらぬ単純な護憲派オバサンで、言っていることに何の面白みもない。 彼女の話を聞いていると、社会党が駄目になった理由がよく分かる。 よしんば9条命というなら、それによって日本や世界にどのような影響を与え得るかというグローバルな視点を示せなければ駄目なのに、そう言う次元の話は皆無である。 社会党党首として何を勉強してきたのか。
 やりとりの中で不破氏は、「共産党の若い人達にヨーロッパを視察させると、どこの国も今までの体制では駄目となことに気付いていて、いろいろ抜本的な体制変革の試みを始めている。 日本の政治、経済にはそういう認識がまったく欠けている。 政治家はそういうい大局的見地に立った政治を行うべきだ。」と今のだらしない政界に鋭い苦言を呈した。 土井氏にはそういう大局観はまったくない。 いまだに護憲、護憲と馬鹿のひとつ覚えである。 共産党と社会党のしぶとさの違いだろう。 歴史観に富んだ不破氏の話の続きを聞きたかったが、田原氏が強引に話の腰を折ってしまった。 テレビ向きの、実に軽々しいジャーナリストだ。

 中曽根康弘氏には失望した。 唯一の首相経験者だというのに、いまやただの耄碌ジジイに過ぎない。 不破氏が国会で歴代首相に日本の戦争責任について問うたら、日中国交回復をした田中角栄まで「その評価は歴史家に委ねる」と逃げたが、中曽根だけが、「あの戦争は英米に対しては正しい戦争だったが、中国やアジアに対しては悪い侵略戦争だった」と答弁したという話が出た。 持ち上げられたと錯覚したのか、得意満面である。 明らかに不破氏に軽い政治家だと揶揄されたのに気づかない。 他のしたたかな首相達は不破氏の誘導尋問をうまくかわしたが、単細胞の中曽根だけが引っかけられただけのことだ。 学者ならいざ知らず、一国の首相たるものが、自国を侵略戦争をした悪い国などと、軽々しく貶めるものではない。 教科書や靖国問題で中国の反日が盛んになったのは、中曽根内閣以来である。 首相就任直後に創価学会の池田大作が、「あれは坊やだ、どうってことはない、放っておけ。」と評したと言う話が頷ける。  極めつけは、不破氏が二世議員、二世首相の跋扈が日本の政治を駄目にしていると切り込んだら、まったくその通りだと尻馬に乗る。 自分をクビにした小泉や福田を暗に非難しているつもりだろうが、自分だって息子に地盤を継がせて二世議員にしていることを都合よく“失念”している。 ここまでぬけぬけと恥知らずなことを言われると、白けて言葉も出ない。 老人性記憶喪失と願うばかりだ。      

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