【伝蔵荘日誌】

2008年4月6日: 花粉症と靖国

 3年前に発病した花粉症が治らない。 この季節、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの三重苦の毎日だ。 市販の鼻炎薬を飲めば一時収まるが、すぐに効き目が失せてげんなりである。 何とかならぬものか。

 花粉症と同じく、げんなりする鬱陶しいニュースが報じられている。 中国人が作ったドキュメンタリー映画「靖国、YASUKUNI」の上映中止に関するものだ。 映画館が右翼の街宣活動を怖れて次々に上映を取りやめた。 憲法に定められた思想、信条、表現の自由を冒涜するものだと、NHKを始めマスコミが非難の総攻撃を続けている。 上映開始に先だって、国会議員が試写会を行ったのは表現の自由に対する政治弾圧だと言う論調も出ている。 しばらくなりを潜めていた靖国問題が、マスコミによって新たな火種にされ始めている。 いつまで続くのか、花粉症のような鬱陶しさだ。

 表現の自由の侵害とは穏やかでないと事実関係を調べてみると、一方的なマスコミの報道にいささかの疑問を感じた。 マスコミは右翼の街宣活動の非道さばかり取り上げて、この映画がどのような人物により、どのような経緯と意図で作られたものか、ほとんど報じない。 これまでこの種の問題で繰り返されてきた、馬鹿のひとつ覚えのような偏向報道である。 此処で言うマスコミとは、朝日、読売、毎日の三大紙とNHKなどテレビ放送のことである。

 この映画は日本人一人を含む8人で作られた。 うち7人は中国人であり、監督の李纓氏も中国人である。 配給、宣伝は「アルゴ・ピクチャーズ」と言う日本人の会社が行っているが、実質的には中国製ドキュメンタリー映画と言ってよい。 作られた経緯や意図は中国のwebサイト、「北京週報」を見ればよく分かる。 監督の李纓氏は63年生まれ。 84年に中山大学文学部を卒業した後、中央テレビに入ってドキュメンタリー映画の編集・監督の仕事にたずさわる。 89年に日本に留学し、93年にプロデューサーの張怡氏と一緒に東京で竜影映画テレビドラマ制作会社を創設した。 日本のテレビ局のドキュメンタリーフィルムの制作に参加するほか、中国のドキュメンタリー映画も手がけている、と言う。 撮影には数人の日本人スタッフも加わえたと言うが、基本的に反靖国をテーマにした中国映画である。  おそらく中国政府のバックアップもあったのだろう。 李監督はこの中国サイトのインタビューに答えて次のように言っている。

 「歴史問題で具現されている中国と日本の文化の違いは何か?」
 「中国は近代にお化けや神の伝統を打破したが、日本はまだ祭祀に対して畏敬の念を保っている。 多くの日本人学者は、彼らの伝統はずっと続いてきたものであり、中国のそれはたえず中断し、頻繁な王朝交替の過程で多くのものが消え失せてしまったと見ている。 彼らは天皇の存在を強調し、自分の国は神の国で、神の国は不滅であり、天皇は最高の象徴であると考えている。 これも日本文化の自己優越感の潜在的なエッセンスである。 問題の複雑性はほかでもなくここにあり、彼らは靖国神社の祭祀は天皇の尊厳と儀式であり、簡単にこの伝統を否定すれば、日本の最も重要な儀式はなくなっってしまうと思っているため、それを受け入れない。 彼らは戦争の問題と戦争の責任の問題を冷静に持ち出して考えることを知らないのだ。」

 これまで繰り返されてきた中国政府の靖国非難の代弁そのものだ。 この映画の日本での上映がまったく問題にならないとしたら、むしろその方がおかしい。 どこに外国勢力を使って自国非難をさせて喜んでいる国があるか。 ましてや靖国は当の中国との不協和音の象徴なのだ。 靖国については日本国内にも賛否両論がある。 映画上映を攻撃する右翼団体の軽挙妄動も困ったものである。 しかし、中国政府の反日の代弁をする映画を、マスコミがこぞって擁護し、実態を報道せず、政治問題化するのは肯けない。 表現の自由を謳うのなら、他方この映画の性格も併せてきちんと報道すべきではないか。 それがマスコミの使命だろう。 放送法には賛否両論を報道すべしと定められている。

 朝日新聞は、自民、公明、民主、社民、共産の政治家80人を集めて3月12日に行われた試写会を政治家の横やり、弾圧と非難する。 この試写会が行われたそもそもの動機は、この映画に対し、文化庁が750万円の補助金を出したことの妥当性を見極めるためのものだった。 映画の中で南京事件の写真が使われていることなどから、客観性を欠く反日映画ではないかと言う週刊誌報道があり、政府出資の基金から助成金が出ていたことが問題視された。 このどこが憲法19条の思想信条の自由を侵害するものなのだろう。 むしろ外国の反日映画作成に政府の補助金を出したことの方がはるかに問題だろう。 その上、日本国憲法まで持ち出して擁護するとは、お人好しにもほどが過ぎる。 数年前、左翼運動家達が行った従軍慰安婦への性暴力対し天皇を有罪とした模擬裁判を放映したNHK番組の欺瞞性に似た軽薄さである。 教科書書き換え問題や靖国問題で、絶えず外国勢力を利する報道を続ける日本の大手マスコミにはうんざりする。 花粉症と同じで、日本のマスコミの悪弊は死ぬまで治らないのだろうか。  

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