【伝蔵荘日誌】

2008年1月22日: 東証の株価暴落 T.G.

 今朝の読売新聞が、「22日の東京株式市場は前日の欧州市場の急落を受けて大幅に下落し、日経平均株価(225種)は一時、2年3か月ぶりに1万3000円の大台を割った。」と報じている。 サブプライム問題で欧米市場が続落した影響だという。 日経新聞によれば、サブプライム関連で多額の損失を被った中国銀行株が上海証券取引所で売買停止になり、大幅続落を続けるインド・ムンバイ証取が取引停止を発動したという。 著名投資家ジョージ・ソロス氏によれば、「世界は第2次大戦以後最悪の金融危機に直面しており、米国はリセッション(景気後退)入りする可能性がある。 状況は第2次大戦終結以後どの経済危機よりも深刻だ」という。

 日本の株価下落については、識者の間に「アメリカ経済に組み込まれた日本経済は、サブプライムで躓いたアメリカとの共倒れは避けられない」という悲観的見方と、「日本の株価水準は実体経済や企業競争力、配当からみて不当に安く、今は市場の気分で情緒的に下げているがいずれ買いに転じ、近い将来2万円を超えるだろう」という楽観的見方がある。 どちらが正しいか時間の経過を待つしかないが、昔から経済学者と株屋の言うことが当たった例しがない。 だからどちらもにわかに信用しがたい。

 欲が絡んだ株屋は論外として、経済学者の理論と未来予想のお粗末さには常々あきれ返っている。 経済評論家はもとより、古来どんな偉い先生の学説も当たったことがない。 近いところでは、20年前のバブルとその崩壊を誰一人として予測出来なかった。 こんないい加減な学問がまかり通っているなんて、我々理系の人間には信じ難いことだ。

 史上もっとも壮大なお粗末はマルクス経済学だろう。 全巻読み通した人が世界中に一握りしかいないというほど膨大で緻密な著作「資本論」を、1989年にベルリンの壁が崩壊するまで百年近く、少なくとも世界人口の半分以上が信奉してきた。 「資本主義は矛盾しており、歴史の一段階としての資本主義社会は崩壊し、それに代わる社会主義社会の成立は必然である」と言う理論と予測を、多くの人が信じ込んで来た。 1991年にマルクス理論の実践であるソ連邦が突如瓦解したとき、騙されていたと世界中が気がついた。 日本の大学、特に東京大学経済学部もマルクス一色だったが、いまだにどの学者先生からも反省の弁を聞いたことがない。 よほどばつが悪かったのだろうが、彼らお偉い先生方が戦前戦後の日本社会をずいぶんミスリードし、混乱させてきたのだから、一言あって然るべきではないか。

 この世の中はすべて経済原理で動いている。 最近識者の間でしばしば次のような相反した近未来予測が取り沙汰されるが、経済学の神様がおられるならその正否を聞いてみたいものだ。

 予測その1:
サブプライムローンの大失敗とイラク戦争による疲弊で、ドルは間もなく基軸通貨の地位を失い、アメリカ経済は没落するだろう。 アメリカ一極主義の時代は終わり、代わって中国が超大国として台頭するだろう。 現在でも中国の外貨準備は世界一であり、アメリカ国債の最大の買い手である。 アメリカのみならず、すでに日本を含めた世界中が何らかの形で中国経済の影響下にある。 アメリカの軍事力はもはや中国の覇権主義を止められない。 原子力空母を核とするアメリカ第7艦隊は、進化した人民解放軍の潜水艦を察知出来ず、台湾海峡の制空権を確保出来ない。 近い将来、必ず起きる中国の台湾侵攻を阻止出来ない。 中国の台湾吸収と北朝鮮の植民地化により、東アジアのパワーバランスは一変するだろう。 近い将来、日本はアメリカと中国のいずれかを選ぶ究極の選択を迫られるだろう。」

 予測その2:
「年率10%近い高度成長により、中国GDPは間もなく日本を抜き、世界第2の経済大国となる。 しかしながら中国経済は近い将来行き詰まり、下手をすると国家そのものが瓦解しかねない。 中国元の為替レートは不当に安く、大幅切り上げが避けられない。 日本は高度成長期に円のレートが360円から90円まで4倍に切り上げられたが、技術開発力と国際競争力でそれを克服した。 しかし、技術開発力が伴わない中国にはそれが出来ない。 中国の経済成長は外国資本と技術開発力不要のコピー製品で成り立っている。 元レートが50%でも切り上げられたら、安い労働力が唯一の競争力である中国経済は壊滅する。 外国資本は逃げだし、輸出競争力は失われ、世界の工場の地位を失う。 無理に無理を重ねた経済躍進で環境が極度に破壊され、貧富の差が極端に拡大している。 この状態のまま経済クラッシュしたら中国社会は大混乱に陥る。 かろうじて国家をまとめてきた共産党一党独裁が揺らぎ、国が分裂する可能性が高い。 世界の工場を任じてきた中国崩壊は世界中に大混乱を巻き起こすだろう。 アメリカはもとより、中国にのめり込んだ日本経済も多大な影響を受けるだろう。」

 どちらの予測も日本にとって暗い。 日本にとってもっと明るい第3のシナリオはないものか。  

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