【伝蔵荘日誌】

2008年1月18日: 反捕鯨騒動 T.G.

 南氷洋の反捕鯨がかまびすしい。 アメリカの環境保護団体シー・シェパードの活動家が航行中の日本の捕鯨船に勝手に乗り移り、人質にされただの、暴行を受けただのと自作自演の騒ぎを起こして世界中に宣伝している。 日本のささやかな抗議など届かない。 反捕鯨の急先鋒であるオーストラリア労働党政権もさすがに放っておけなくなり、先ほど巡視船を差し向けて二人の活動家を引き取ったようだ。

 この団体の母体であるグリーンピースも過激な行動で知られるNGOである。 最近は環境保護で手段を選ばぬ行動に出て、エコ・テロリストと呼ばれることもある。 もともとは反原子力を謳っていたが、最近は環境保護に傾き、今回の反捕鯨分派まで生み出した。 大方の勢力は欧米系の白人で、活動テーマはともかく、やり口の傲慢さ、身勝手さに白人至上主義の臭いがする。  彼ら自身が19世紀から20世紀前半にかけて鯨を乱獲し、絶滅の縁まで追いやったことを棚に上げ、愚にもつかぬ論理でささやかな日本の調査捕鯨を非難する。 身勝手と言うほか無い。

 気になるのは、今回の反捕鯨騒動を含め世界中に何やらもやもやとした反日の空気が蔓延しつつあることだ。 捕鯨は日本だけではない。ノルウェーもやっているし、30カ国以上が賛成している。 なのに彼らは矛先を日本にしか向けない。 当初は愚にもつかないNGO活動だったが、今では反捕鯨が反日の様相を呈し、オーストラリアをはじめ、政府レベルの広がりを見せている。 ほかにも中韓のプロパガンダに過ぎなかった従軍慰安婦問題が、今頃になってアメリカやカナダ、オランダなど欧米各国政府で続々と非難決議されている。 拘束力は無いというものの、日本人にとって不愉快極まりない話である。 昨年あたりから、南京虐殺をテーマにした書物や映画が欧米各地で出版、上映され始めている。 本家中韓の反日の空気はとどまる気配がない。 これら一連の状況を70〜80年前の再現のように感じるのは取り越し苦労だろうか。

 日清日露あたりを契機にして、アメリカで日本を対象にした黄禍論の空気が漂いはじめた。  1919年、第一次世界大戦後のパリ講和会議で国際連盟設立を議論する際、戦勝国日本が意気揚々と「人種差別撤廃条項」を提案すると、アメリカ大統領ウィルソンが有無を言わさずひねり潰してしまった。 1924年、アメリカで排日移民法が生まれる。 貧しかった日本は行き場を失い、大陸に進出し満州国を作った。 その頃の満州は、清朝政府の支配も及ばぬ一種の無政府地域で、日本に限らずロシアや欧米帝国主義国が勝手なことをやっていた。 にもかかわらず、日本のプレゼンスにロシア欧米は神経をとがらせ、あの手この手の嫌がらせをはじめる。 挙げ句の果てに、蒋介石や毛沢東に武器兵器を与え、日本と戦わせる。 極めつけはABCD包囲網による石油禁輸だ。 自由貿易の今では考えられない白人国家の横暴、非道である。 日本人ははじめのうちこそ努めて理性的に振る舞おうとしたが、いたぶられているうちに次第に苛立ちが嵩じ、反欧米感情が鬱積し、真珠湾で爆発した。 欧米側はそれを待っていた節がある。

 そもそもアメリカという国は昔から無原則な国である。 ダブルスタンダードを平気でやる。 無原則は実利主義である。 敵の敵は味方という乱暴な論理を平然と使う。 仇敵イラン、ソ連の敵であったイラク、アフガニスタンに武器を与えて支援しておいて、都合が悪くなると叩きつぶすようなことを平気でやる。 冷戦時、日米共同の敵国であった中国がソ連から離れると途端に国交回復し、今では日本より中国という空気である。

 それに対し、日本人は苛立ちを感じ始めている。 昨今の反捕鯨、従軍慰安婦決議、南京虐殺のプロパガンダが、70年前のような日本人の反発や反欧米感情を醸しだしはじめている。 インド洋給油活動停止への拍手喝采がそれを示している。 いくら説いても、中韓はもとより欧米も日本の理に耳を傾けようとしない。 金持ち日本をキャッシュディスペンサーのように扱い、金が出なくなると途端に手のひらを返す。 最近のアメリカの無原則な北朝鮮への擦り寄りや、ヒラリー次期大統領候補の日本無視や、サブプライム問題での対応にそれが現れている。 アメリカの次期民主党政権はさらに日本に冷たく、ますます中国寄りの姿勢を示すようになるだろう。 日本の理屈に耳を貸さなくなるだろう。 はたしてそのことに日本人は耐えられるだろうか。 70年前のように、苛立ちが嵩じて、日本の側から日米安保の手を切る日が来るかもしれない。 真珠湾とまでは行かずとも、戦後60年の安寧の日々が終わりを告げることは確かだ。

 取り越し苦労だろうか?        

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