【伝蔵荘日誌】

2008年1月7日: 見知らぬ方からの便り T.G.

 年明け早々、見知らぬ方からメールを頂いた。 文面から察するに30代のお若い方のようで、この日誌の愛読者だそうである。 以下はそのやりとりである。 見知らぬ方とこういうコミュニケーションが出来るのもインターネットの御利益か。
(A.S.様、 無断引用、まことに申し訳ありません。 投稿用アドレスをお使い頂いたことに免じて、平にご容赦のほど)

 伝蔵荘主人様
 明けましておめでとうございます。 見ず知らずの者からおめでとうなどと言われるのは驚かれるかと思います。 私はコンピューター会社での会社員をしておる者です。 いつも、伝蔵荘日誌を楽しみにしております。 いつ頃からかもう覚えてもおりませんが、時折訪ねては日誌を拝見させて頂いています。 小生、登山を少し嗜んでおりますのでその辺から来たと思うのですが…
 何度かメールを出そうと思いつつも、時がもう大分過ぎておりまして、今年こそは新年の折にでもご挨拶を兼ねて出して見ようかと考えた次第です。

 私は只今働き盛りの独身男で、これからの人生を如何に生きて行くか、この先の時代をどうやって見通して生きて行くべきかを考えております。 長いこと会社生活をしているのですが、ここ数年は仕事も充実し生活にも困っていることもありません。 ただ、このままで良いのか自分の将来はどうなってしまうのかと考える時に、色々、日本の将来はどうなってしまうのかなぁと(大袈裟ですね)思いを巡らせ、この先も幸せに暮らしていけるのかと考えてしまいます。
 よく時事ニュースなどを見るほうでして、ふむふむなるほど等と自分では理解しているつもりなのですが、ご主人の切り口は全く違うことが多く、日誌を読む度にこのような見方・視点があるのかと感心している次第です。 私にはまだ、このような視点が持てず、受け売りしか出来ない。 物事の本質を見極める目が無いのだなぁと、これは人生の経験値の差なのかなと思っています。 格差社会の話しなどは、ニュースだけ見てたらそのまま刷り込まれてしまいますね。 昔の経験がある人で無いとそれが正常なのか、今が甘やかされた異常な社会なのか分かるのでしょうが…。
 何が言いたいのかと言いますと、私も30代に入り(少子化に貢献してますね)、根拠の無い自信だけは付いて来ておりまして、これからは自分で起業をしたい。 嫁さんも貰って子供も育てたい。 そして自分の人生を成功させたいと言う気持ちがあるのですが、自信とは裏腹にどうしても踏ん切りがつかないのです。 多分、大人になり切れていない。 人生に対する覚悟と言うものが未だ出来ていない人間なのだと思います。(この年で遅すぎますが…)  ここ数年仕事では成功しているものの、どうしても会社と言う保護膜を抜け出すのに勇気が足りません。 人間は最後には自分しか自身を助けられないと考えているのですが、どうすれば覚悟が付くものでしょうか? また、この先の日本はご主人の目から見てどのようになって行くのでしょうか?
 突然のことで甚だ不躾ではございますが、ご主人様の経験からのお話しやアドバイス程度で構いませんので、ご教示頂ければ幸いです。

 読み返すと、なんだか凄く固い内容ですね。 お返事はご主人の気が向いたらで結構です。 気楽に受け取って下さい。 これからも伝蔵荘日誌続けて下さい。 楽しみにしてますので。 最近は政治・時事ネタが多いので、「団地の自治会」や「公園で遊ぶ子供の歓声」のような日誌があるとうれしいです。 ではお身体を大切になさって下さい。
                                2008年1月3日 A.S.

返信: A.S.様
 伝蔵荘日誌ご覧頂いているとの由。 汗顔の至りです。 仲間内のHPのつもりでおりましたが、ほかにも読者がおられることに驚いております。
 充実した日々をお過ごしのご様子、羨ましい限りです。 私どもの世代はおおむね生きることに精一杯で、あれこれ迷う余裕や選択肢はありませんでした。 多少の不満はあっても、脇見も出来ず馬車馬のように働き続けるしかありませんでした。 お仕事が順調に進んでいても、さらなる飛躍を求め、いろいろ模索をされる。 本当に羨ましい限りです。

 40年勤めた会社を退職した今になっても、時々繰り返し同じ夢を見ます。 就職試験に内定したのに、単位が足りなく大学を卒業出来ない。 もうどこの会社も採ってくれない。留年したら仕送りもない。 明日からどうやって暮らして行こうか。 目の前が真っ暗になり、冷や汗をかいて目が覚める。 ああ夢で良かったと胸をなで下ろし、布団の中で苦笑い。 トラウマが夢になるほど、私どもの昭和30年代は貧しかったのです。
 我々の時代には望むべくもなかった選択肢や可能性、それを実現出来る豊かさや社会環境が今ならある。 ぜひ一歩踏み出されたら如何でしょう。 陰ながら応援させて頂きます。
 人間、最後は自助しかないとのお考え、まったくその通りと思います。 付け加えるなら、“人間は他者との人間関係で生きる動物”でもあることです。 人生の充実は、人間関係の充実でもあります。 そのことは、仕事に失敗し、意気消沈しているときにはじめて気がつきました。 充実した人間関係には、連れ合いや子供も含まれます。

 私と同じ、コンピュータ関係のお仕事をされているとの由。 日誌にも書きましたが、日本のIT産業はずいぶん道を誤りましたね。 今までもこの先も、日本は物作りと技術革新でしか生きる道はありません。 アメリカや中国のように、マネーゲームや人の褌で相撲を取るようなやり方では国が立ちゆきません。 ぜひお若い方々で日本のIT産業の立て直しをお計り下さい。
 ひとつ生意気を言わせて頂くなら、若い方々がもうすこし歴史に関心を持たれたら、よりよい世の中に向かうのではないかと常々思っております。 今の混迷の世の中、何が正しく何が間違いか、見極める座標軸がありません。 マスコミやジャーナリズムは混迷の張本人であり、座標軸たりえません。 “バランスの取れた歴史観”だけが最良の座標軸になり得ると思っております。
 身の程をわきまえず、差し出がましいことを申し上げました。 一層のご発展をお祈りいたします。
                                 2008年1月5日 伝蔵荘主敬白

再返信: 伝蔵荘ご主人様
 早速のご返信誠にありがとうございました。 この新年を機に精進を重ね、少しづつ前進して行く勇気を頂けたと思っています。  ご主人様が、同じコンピューター業界だったとは存じ上げませんでした。 日誌を拝見した際には随分とお詳しいなとは思ったのですが。
 歴史に学ぶ。 とても大事なことだと思います。 人間は経験によって学ぶものではありますが、予め歴史を知っておけば人生の色々な局面にも応用出来ると思っています。 もちろんそれだけでは無く、失われた公の心を、日本と言う国を愛する気持ちを人々も取り戻すことが出来るのかも知れません。 私もまた然りです。 肝に銘じるつもりです。 まずは自分の可能性を信じ、これからの飛躍に繋げて行こうと思います。 また、迷い道に差し掛かった折には、勇気を頂ければ幸いです。
 では、お身体にお気をつけて今後も伝蔵荘HPの運営を頑張って下さい。
                                   2008年1月6日  A.S.  

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