【伝蔵荘日誌】

2007年12月11日: 格差社会とワーキングプア T.G.

 四万温泉の積善館に泊まり、元禄の湯で温泉三昧。 夕食の後、部屋のテレビで「格差社会とワーキングプア」と言うNHKの番組を見る。 コンビニのゴミ箱で漫画本を拾って何とか生きながらえる30才のホームレスとか、 離婚してアルバイトしながら2児を育てる26才のシングルマザーとか、リストラに遭って年収が200万に落ちた50才の男性とか、次々に哀れな生活ぶりが紹介される。 取材キャスターは、こういう格差やワーキングプアは行き過ぎた構造改革の犠牲者であり、政府は一刻も早く対策を立てるべきと主張する。 大学の先生や評論家が登場し、格差はますます拡大し、放置すると大きな社会問題になると主張する。 見ているうちに次第に違和感が生じ、NHKや先生方はいったい何を言いたいのかと疑念が湧いてきた。

 30才のホームレスは、子供の頃両親が離婚し、高校時代はアルバイトに明け暮れた。 友人達が就職試験を受けに行っても、自分はアルバイトが忙しく、そのままアルバイトを続けた。 30才近くなるとアルバイト先も見つからず、やむなくホームレスをしているという。 どう考えても、単なる怠惰としか思えない。 彼の境遇が彼自身の責任ではなく、社会のせいだとはとうてい思えない。 我々が子供の頃、彼と同じ様に怠けていたら、おそらく飢え死にしただろう。 その恐怖があるから、昔は誰もがつべこべ言わず働いた。 今はホームレスでも飢え死にしない。 もっともらしい顔をしてテレビで喋っている。

 コンビニで働いて幼い子供を育てているという26才のシングルマザーは、どんな理由で離婚を選んだのだろうか。 よほどの事情があったのだろうが、手に職のない若い女性が子供を引き取り育てるのは、今も昔もリスクの多いことである。 その覚悟を自らに向けず、社会の責任に帰着させるのは無理があるのではなかろうか。
 彼女と違い、望みもしないのに戦争未亡人にされた自分の母親は、戦後の混乱期、髪振り乱して働いて幼い子供6人を育てた。 過労がたたって52才の若さで亡くなった。 このシングルマザーは夕食だけは子供と一緒にとるようにしていると言うが、自分は母親と夕食の団欒をした記憶がない。 それほどの苦労をしても、母親が自分の不幸をお国のせいにするのを一度も聞いたことがない。 母親程度の不幸は昔は珍しくなかった。 テレビで見るこのシングルマザーが、自分の母親より頑張っているとはとうてい思えない。 この程度の不幸は昔も掃いて捨てるほどあった。 格差社会のせいではない。

 リストラされた50才の父親は、子供を塾へやれない、大学へやれない、と哀れっぽく嘆く。 それに被せて評論家が、格差社会が教育や学歴に格差をもたらしていると警鐘を鳴らす。 しかし昔はもっと激しい格差があった。 今の比ではない。 田舎の中学の同級生150人のうち、高校へ進学したのは半分弱、残りはそのまま家業の農業を継いだり職人になったりした。 大学まで進学出来たのは、勉強が好きで比較的勉強が出来た僅か数人。 金持ちの子など一人もいないから、金のかからぬ公立の学校へ行った。 貧乏人は、“塾へ行かなければ勉強が出来ない程度の子供”を大学へ行かせようなどと夢にも考えなかった。 大事なことは、誰もそれを不幸とは考えず、世の中のせいにもしなかったことだ。

 マスコミや識者は、構造改革によって格差が広がり、固定化しつつあるとしきりに言う。 政府は一刻も早く対策を立て得るべきと言う。 どういう統計数字を根拠に彼らはそう言うことを言うのだろう。 テレビでも新聞でも書籍でも、納得出来る根拠を見せられたことがない。 せいぜいジニ係数とか言うわけの分からぬ数字ぐらいだ。
 我々の子供の頃の昭和20年代に比べたら、今の格差など実感として何ら問題ではない。 プアと言われる人達も飢え死にする心配はほとんどない。 コンビニやスーパーでなんでも買える。 番組に出てきた“プアな人達”も、おしなべてそうしていた。 よほどの理由がなければ健康保険で医者にもかかれる。 不十分とはいえ生活保護制度もある。 多少出来が悪くとも、子供の大半が高校大学へ進学出来る。 平均寿命も世界一だ。

  ひとつ言えることは、今の人達は昔ほど働かないし、堪え性がない。 若い人達は自分のやりたい仕事が見つからぬなどと甘ったれたことを言って、2、3年で会社を辞める。 辛抱して会社に定年までいる気などさらさらない。 誰もがホワイトカラーになりたがり、汗水垂らして働かない。 地味で辛い農業や一次産業を嫌い、低収入を承知の上で都会のサービス産業にしがみつく。 だから地方や農業が衰退し、都会の派遣会社ばかりが栄える。 その挙げ句がワーキングプアだとすると、問題は別の所にありそうだ。 戦後日本は、愚痴も言わず、人のせいにもせず、汗水垂らして働いた日本人が復興させた。 今の甘えた“格差社会”が第二の敗戦を招きそうだ。

 番組の最後に出てきた女性大学教授の、「グローバル化の進展で賃金の安い外国人労働者との競争を余儀なくされても、格差社会是正のために、政府は日本人の賃金水準を一定水準より下げないような法制化をするべきである」、と言うセリフを聴いて腰を抜かした。 バカも休み休み言え。 社会主義国家ではあるまいし、そんなことが出来るわけがないだろう。 もしやったとしたら、競争に負けて日本そのものが潰れる。 こういう愚かな人物が大学教授だというから呆れる。 それを有り難がってコメンテーターに使うNHKもどうかしている。      

目次に戻る