【伝蔵荘日誌】

2007年10月2日: 自国通貨の支配力について T.G

 昨日から始まったマイクロソフトと産経新聞の共同ニュースウェブで、「自国通貨の支配力」に関するコラムを読む。 主要通貨の実力である実質実効為替レートは2000年頃にはほぼ拮抗していたが、その後円が下落を続け、今ではドル、ユーロ、人民元より20〜30ポイントも低くなっているという。 デフレ、円安、ゼロ金利などで経済力が低下し、国家として自国通貨を支配出来なくなっていることが原因だという。 現在円の為替レートは日本以外の海外の金融市場で決められている。

 同記事によれば、昨年度の日本のGDPシェアは世界の9.1%で10年前の半分。 同じく中国は5.5%だが、5年以内に日本を追い越す見通しだという。 外貨準備に関してはとっくに追い越されている。 日本経済は少子高齢化に伴いますます縮退するが、年率2桁の成長を続ける中国の経済力はますます肥大化するだろう。

 60年代末、時の池田内閣が所得倍増を唱え、高度経済成長が始まった。 GDPが毎年2桁増えた。 その頃、月給が毎年3割上がり、3年で倍になったことを憶えている。 40年遅れで中国が同じ状態になっている。 同じ道を辿りながら、日本と中国には相違点が沢山ある。

 経済成長により肥大化した日本経済を押さえつけるため、欧米は85年のプラザ合意で強制的に円高誘導した。 そのためにバブルが起き、はじけ、日本経済は沈没した。 日本は自国通貨をコントロール出来なかったわけだ。
 現在不当に為替レートが低い人民元に対し、欧米は同じことを中国にはしない。 しないと言うより出来ないと言った方が正しい。 中国の対米輸出の上位10社は中国に進出した米企業だという。 企業活動が人質にされていては出来るはずがない。 なぜ日本はそういう風にはならなかったのだろう。

 日本も中国もアメリカ国債の最大の買い手だ。 千兆円を超える日本国民の金融資産の大きな部分は米国債に化けている。 アメリカ経済は日本と中国が支えていると言って過言ではない。 
 バブルクラッシュした後、当時の橋本首相がアメリカ議会で、“米国債を売りたい誘惑に駆られる”と半分本音の冗談を言ったら、アメリカにどやされた。 日本は永久に米国債を売れない。 名目的には日本の金だが、実質はアメリカに分捕られている。
 昨年ワシントンで人民元対中制裁の動きがあった。 中国はそれまで買い足してきたアメリカ国債を突如売りに出た。 米国債の価格が暴落し、米議会はたちまち腰砕けになった。 以来対中制裁の声は聞こえてこない。 

 なぜそういうことが中国には出来て、日本には出来ないのだろう。 日本人は認めたがらないが、最大の理由は安全保障体制の差、つまり軍事力の差だろう。 日本の経済成長は防衛力を犠牲にして達成した。 戦後日本は軍事力にGDPのわずか1%しか割かずに済ませた。 アメリカの傘に入らず、他国と同じように10%近くも割いていたら、経済成長など夢のまた夢であっただろう。

 方や中国は貧しさをじっと怺えて軍事力の増強に努め、自力で国防が出来る体制を作ってから経済躍進を始めた。 軍事力は重要な国力の一部である。 その国力をバックに、中国は自国通貨や市場をコントロール出来ている。 仮に欧米がプラザ合意のようなことを仕掛けたとしても、中国は相手にしないだろう。 米国債を売るぞと脅せば一発で済む。 金正日のオモチャのような核兵器にも独力で対抗出来ない日本には、とても出来ない芸当である。 日本が保有する米国債は、アメリカの核の傘に入れてもらうためのコストに成り下がっている。 米国債を売って金に換えられるのは、アメリカとの戦争を覚悟したときだけだ。

 このまま日本経済の弱体化が進むと、日本円がハードカレンシーでなくなる日も近いかもしれない。 今の日本人旅行者は世界中で一万円札が使えることを当たり前のように思っているが、そんな状況になったのはつい2〜30年前のことだ。 少し前のように、成田でドルか人民元を買って海外旅行する日が近いかもしれない。 こんな予想は当たって欲しくないが。  

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