【伝蔵荘日誌】

2007年9月11日: 「カンブリア宮殿」とグーグル T.G.

 昨夜、テレビ東京の「カンブリア宮殿」を見た。 作家の村上龍が話題の企業トップと対談するスタジオ番組である。 今回の対談相手はグーグル(Google)日本法人の社長村上憲郎氏である。 グーグルは1998年にスタンフォードの同窓生が立ち上げたベンチャー企業。 設立当時は絵に描いたようなガレージカンパニーであったが、今では株の時価総額が18兆円に達する巨大企業に成長した。 番組のキャプションは、「インテル、マイクロソフトも怖れる最先端企業…」である。
 この番組は面白いので時々見るが、娯楽番組の性格上、企業の提灯持ち的脚色が幾分気にならないこともない。 この日も司会者村上龍は一切の批判を避け、単純なグーグル賞賛に徹していた。 作家の批判精神どこへやらである。

 番組の冒頭、有名なグーグルマップでマンハッタンの高層ビル群やヤンキーススタジアムをデモンストレーションで見せ、その後、無償の検索ソフトが如何にして巨大な収益を生み出すか、その仕組みをドキュメンタリー風に紹介していた。 要するに、より高い広告費を払った企業のWebを検索リストの上位に持ってくるという単純なものだが、これが企業の広告宣伝に絶大な効果をもたらすという。 最近のテレビCMはそれほど消費者の購買意欲に結びつかず、広告宣伝費としての費用対効果が小さいらしい。 トヨタなど自動車メーカーやビール会社などは、テレビCMを控える傾向にあると言う。 テレビ事業は企業の広告宣伝費で成り立っているから、これがグーグルやヤフーなどに流れると、近い将来テレビ企業が立ちゆかなくなる可能性もある。 昨今の低俗番組オンパレードのテレビ放送など、衰退しても一向に構わないが。

 番組の終わり近くで、村上龍氏が“世界中のあらゆる情報を網羅したWeb検索”への権力の介入について質問した。 やっと作家らしい切り込みが出たかと期待して見ていたら、「公権力の介入は一切排除しています」という村上社長の陳腐な発言でお終いになった。

   かねてグーグル、ヤフーの公権力との癒着がささやかれている。 これだけの巨大情報網は権力者にとっても大いに関心がある。  ちょっかいを出さぬわけがない。 日本やアメリカのような先進民主主義国家では、表だったあからさまな関係はあり得ないが、中国など独裁体制国家ではその限りでない。
 巨大市場中国に進出するにあたり、グーグル、ヤフーが情報統制について中国政府と取引をしたことはつとに有名だ。 中国でグーグル検索しても、中国政府に都合の悪いWebは一切出てこない。 検索エンジンに中国政府の強力なフィルターが掛けられているからだ。 さすがにこのことはアメリカ議会でも問題になったが、今は立ち消えている。 莫大な政治献金が渡ったのだろう。

 巨大検索エンジンのの危うさは、検索リストの順位を恣意的にいくらでも変えられることだ。 例えばグーグルで「エベレスト」を検索すると75万件ヒットするが、ほとんどの人は最初のページリストしか見ない。 企業Webなら払った広告費の順に並ぶ。 上位3番目ぐらいに入れば絶大な宣伝効果がある。 企業広告ならそれで構わないが、政治的な意味を持つ情報の場合はいささか問題である。 グーグルは単純に閲覧頻度で機械的にリスト順位を決めると言うが、そんなきれい事だけであるはずがない。

 例えば、試しに5月22日の日記で取り上げた著書、「マオ、誰も知らなかった毛沢東」で検索すると、20,900件ヒットする。 リストの上位2、3番目に聞いたこともないおかしげな団体のホームページが並ぶ。 中身を読むとこの著書に対する読むに耐えない罵詈讒謗が書かれている。 いったいこんなホームページを誰が見るというのだろう。 まるで中国政府のプロパガンダである。 毛沢東の恥部を暴いたこの著書は、中国では発禁である。 おそらく誰かが意図的に閲覧回数を増やしてリスト順位をコントロールしたに違いない。 それを専門にするハッカー企業がたくさん存在すると言うから。
 ちなみにヤフーで同じ検索をすると26,000件ヒットするが、上位はこの本のありきたりな広告宣伝Webで占められる。 ヤフーとグーグルの“政治度”の違いだろうか。

   巨大検索エンジンを先端技術ともて囃すのはいいが、気付かぬうちに情報操作されぬよう心すべきである。 おかしな時代になったものだ。    

目次に戻る