【伝蔵荘日誌】

2007年5月6日: 三大新聞の改憲論

 今日は日曜日。遅い朝食を摂りながら田原総一郎のサンデーモーニングを見る。 今日のテーマは改憲。 三大紙の論説主幹にこもごも改憲論を語らせた後、討論に入る。いつものように本音を引き出すために田原氏が挑発的な問いかけを投げかける。
 三大紙の主張を要約すると、 各社とも世論調査で改憲賛成が過半数に達していると認めた上で、

読売新聞は以前から改憲賛成の立場を表明していて、<改憲すべき。 問題の9条に関しては、1項の平和条項は他の国も同様の記述があり変える必要はない。 2項は今後の世界情勢から見て現実的でないから全面的に変える。>、と明快である。

  ・毎日新聞は、<改憲が駄目とは言わないが、時間を掛けてゆっくりやるべし。 少なくとも今の安部政権では駄目。 理由はどうも押しつけがましいから>、と曖昧でなんとなく腰が据わらない。 「やらざるを得ないが、気分としてはやりたくない」、とだだをこねているようにも聞こえる。

朝日新聞はかねて護憲派の旗頭であり、<9条は世界に誇れる遺産。 他国もこれを評価している。 1項、2項とも変える必要なし。 故に今までどおり戦力の保持と国の交戦権は否定するが、現状の自衛隊の存在は国民が認めているので追認せざるを得ない。 この活用については別途安保基本法を定める>、としている。

三紙の主張を公平に見て、朝日の論調にはいろいろ首をかしげたくなる点が多い。 そもそもに憲法九条を世界の遺産だから変えるべきでないという発想がおかしい。 憲法は国家を運営していくための最高規範である。 他国の歓心を買うためのものではない。 どこの国も他国の評価を得るために憲法など作らない。
 読売の主幹が改憲すべき理由を述べると、それに対し、「あなたの言うことは理論的には正しいが、戦前の軍の横暴を思うと心情的には賛成出来ない。」などときわめて非論理的な反論をする。 法律の問題なのだから、ここはやはり理論的に間違いだと反論すべきだろう。

 また日米同盟に関する田原氏とのやりとりの中で、「日米の共通の価値観は平和憲法で支えられている」、などと発言する。 いくら何でもそれはないだろう。 最近見え隠れし始めた日米関係のすきま風は、9条と集団的自衛権の曖昧さに対するアメリカ側の不審が招いていることは否定出来ない。

 自衛隊を自衛軍に改める問題に対して、「隊と軍は違う。 軍になると何でも出来る。」などとも言う。 確かに隊と軍は違うが、それは組織に対する国民意識の問題であり、名を変えただけで旧軍のように勝手に暴走するというのは組織論として短絡的に過ぎる。 戦後日本国民が徹底して学んだ議会制民主主義と軍のシビリアンコントロールを信用出来ないと切り捨てていいるのと同じだ。 常々国民のオピニオンリーダーを自負する大新聞としては不見識ではないか。

 集団的自衛権の問題になると、朝日の主張はさらに矛盾が広がる。 どの社もニュアンスの差こそあれ自衛隊の存在を認めていて、その活用は国際貢献にあるとする。 朝日も例外ではない。 特に朝日はいわば国連中心主義で、国連決議があった場合にかぎり自衛隊(自衛軍ではない)の海外派遣も認めるという。 田原氏がリトマス試験紙的に90年の湾岸戦争を例に挙げて参戦の可否を問うと、朝日は渋々参戦を認めながら医療など“きわめて例外的な分野”に限るという。 国連決議が軍事力の行使に関するものだったらどうするというのだろう。 少なくとも湾岸戦争の時はそうだった。

 周知の通り湾岸戦争は国連決議にもとづき編成された多国籍軍により戦われた。 日本だけは憲法9条を楯にとり参加せず、国際的な非難を浴びた。 参加するにしても、あの場合医療薬品だけに限るなどと身勝手な言い分が通る状況ではなかった。 朝日の言う国連中心主義とは空理空論と言わざるを得ない。 自分だけに都合の良い国連中心主義などあり得ない。 仮に認められたとして、日本が派遣した医療部隊が攻撃を受けた場合どうするというのだろうか。 国連には先進民主国家だけでなく、独裁国家もあれば、固陋な宗教国家も加盟している。 加盟各国の意識、利害もバラバラである。 国連決議が常に日本の国益にマッチし、合理的で倫理性に富んだものであるとは限らない。 そんな当てにならないものを金科玉条にして自衛隊を運用することが、はたして日本の国益に沿うだろうか。 湾岸戦争はまさにそのケースだったはずだ。

 要するに朝日の主張は、改憲も(本来的には)自衛隊も反対だが、自衛隊はすでに存在して国民も認知しているから既成事実として認めざるを得ない。 9条はそのままにしておいて、その代わり自衛隊の運用は別途“安保基本法”なる別の法律で縛る。 その中に国連PKO活動に関わる海外派遣の道を残しておく、と言うことだろう。
 田原氏の挑発につい乗せられて、「自衛隊という戦力の保持と運用は憲法9条で禁じられているが、現在でも解釈改憲で何とかやっている。 朝日の主張する安保基本法はその代わりになるものだ」、などといささか蛇足気味の説明をする。 語るに落ちるとはこのことだろう。 今まで続けてきた解釈改憲という誤魔化しに代えて、さらに大きな誤魔化しをやると言うのと同じだからだ。 言うまでもなく憲法はすべての国内法の上位に立つものだ。 安保基本法なるものでその抜け穴を作っておくと言うに等しい。 大新聞の論説主幹がこういう愚かなことを言うのだろうか。

 憲法九条は確かに美しいが、その美しさは非現実的で自画自賛の域を出ない。 その証拠に60年経っても真似る国が出てこない。 今後の社会情勢や複雑な国際環境の中で日本国を運営していくには難点がある。 三大紙が社会の木鐸というなら、もう少し現実的な議論をすべきだろう。 憲法はお伽話やお経の文句ではない。

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