【伝蔵荘日誌】
2007年2月14日: 6カ国協議合意を考える。 T.G.

【6カ国協議と中国】
 今日の新聞テレビの報道によれば、北京で開催されていた6カ国協議が合意に達した。 94年の米朝合意の失敗を繰り返すかのような内容である。 北朝鮮がすでに核兵器を保有してる可能性を考えるとそれより悪いかも知れない。 こうなったのもアメリカがイラク、イランで手こずっていることが大きな要因であろうが、もっと根本的な理由は中国の国益だろう。
 すでに核大国である中国にとって、金正日のオモチャのような核兵器はまったく脅威ではない。 実質的に北朝鮮の命綱を握っている中国には、むしろ今後日米と張り合って超大国の道を歩むための戦略ツールとしての価値の方がはるかに大きい。 中国は北朝鮮がささやかな核を持って日米と対峙していてくれている方がベターなのだ。
 朝鮮半島はそこに暮らす人々の願いとは無関係に、常に強大国の利益と思惑に振り回されてきた。 その状況は今も昔も何ら変わらない。

【日本にとっての北朝鮮の核】
 さて日本の問題である。 日本国民にとって心情的には拉致の方が大きいいだろうが、国家安全保障の観点からすれば核の方がはるかに深刻な問題である。 政府もマスコミもそのことは決して言わない。 中国には決して向けられることがなくアメリカには届かない金正日の核も、日本に対してはきわめて有効な兵器である。 意図さえあればたやすく届かせることが出来るし、いくら出来損ないであっても届けば日本に甚大な被害を与えられる。 最近の日本経済の低迷や国民のマインドを考えれば、経済的な被害より気力喪失のような精神的被害の方が大きいからだ。 実際に被弾しなくても、一衣帯水のところに常に敵意に満ちた核がこちらを向いていると日夜考えるだけで気力が萎えてくる。 今回の合意で他の4カ国はひとまず枕を高くできるが、日本だけはそうではない。

【日本人の安全保障意識】
 日本はこの状況にどう対応していくべきか。 日本にとって北の核が単なる特殊な弱小テロ国家の強がりと単純に考えない方がいい。 巨視的に見てむしろ中国の安全保障戦略の枠組みの一部ととらえるべきだろう。 そう考えないと何をやっても一過性の対症療法に終わる。そのつもりになればいつでも止めさせられる北朝鮮の核を、中国はいっかな止めようとしない。 その状況が国益にマッチするからだ。 ソ連なきあと中国は日米と覇権を争ってきた。 日本はすでに軍事的にも経済的にも射程範囲の中に取り込んだ。 よほどの混乱が生じないかぎり経済的には後10年で日本を追い越すに違いない。 彼らの主たる目標はすでに対米国戦略に移っている。 胡錦涛が安部総理に会ったのもその余裕の表れである。

 意図したか否かは別として、金正日の体制と核は彼らの戦略の有効な手段の一つになっている。 問題解決のためにアメリカは日本を通り越して中国と組まなければならない。 今回の6カ国協議はその典型だ。 アメリカは今日現在は日本との軍事同盟を対中国の重要な対抗軸と見なしているが、状況が変わればそのかぎりでない。 中国の経済発展が順調に進み、台湾問題が今ほど先鋭的でなくなれば不用になる。 そうなればアメリカの負担が大きい片務的な日米安保は解消されるだろう。 普天間の不協和音や防衛大臣発言と米政権との軋轢ににその兆候が現れている。
 70年前、イギリスは似たような状況で日英同盟を破棄した。 その後日本は独力で対外問題に当たらねばならなくなる。 60年前同じ状況に陥って大失敗したにもかかわらず、その困難さを国民は忘れている。 戦後60年日本が平和だったのは憲法九条のお陰だなどと脳天気なことを言う人がいるが、それはあまりに都合のよい錯覚で、日米安保の存在故である。

【超大国中国と日本】
  世界の常識として国際紛争の解決には軍事力が不可欠である。 よほどの小国でないかぎりどこの国もそう考え、軍備を保持し、必要に迫られれば発動する。 スイスやタイやフィンランドのような中立国でもそうだ。 戦後日本は国是としてそれを否定した。 しかし経済発展も領土保全も、ましてや国民の生命安全を守ることも、究極的な状況では抑止力としての軍事力がなければ難しい。 両手を縛って泳げと言われるようなものである。 日本はそろそろアメリカの後ろ盾がなくなったあと、超大国中国とやり合っていく方法を考え出さねばならない。 関東軍も帝国陸海軍もなしに。

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