2006年11月7日: 高山病とダイアモックス T.G.

【ランタンリルンとダイアモックス】
 昨日ヒマラヤから帰った。 今回は“世界一美しい谷”のキャッチフレーズで知られるランタンリルン。  カトマンズから最も近い山群である。  これまで行ったカラパタールやアンナプルナ内院などは標高も高くトレッキング期間も長かったので、日にちをかけて高所順応をきちんとやり、高山病の特効薬、ダイアモックスを服用しながら歩いた。  昨年のチベットは標高5000m以上の峠を何回も超えたが高山症状は出なかった。  今回は標高4000m程度の比較的低地(?)を5日間歩くだけなのでダイアモックスは持参しないことにした。 痛風が持病で、服用すると尿酸値が上がるから駄目と医者に止めらたこともある。

【高山病と不眠症】
 カトマンズから標高3000mのゴラタペラまでヘリで一気に上がり、ランタン村を経て、ランタンリルン直下、標高3900mのキャンジンゴンパで最後の三日間を過ごした。 最初の二日は多少息苦しさはあったが、富士山より少し高いのだから仕方がないと思う程度だった。 4600mのタルチョピークを往復した三日目の夜、シュラフに入って眠ろうとするが息苦しくて眠れない。 目覚めているうちは意識的に大きな呼吸が出来るが、眠りに落ちそうになると途端に無意識の小さな自発呼吸になり、呼気が不足し苦しくて目が覚めてしまう。 典型的な高山症状である。 この繰り返しが延々と続き、とうとう朝方まで眠れない。眠いのに寝られず、胸が圧迫されるような気分で実に辛い一晩だった。

 翌日、迎えに来るはずのヘリが来ない。 やむなくもう一晩泊まることになった。 あの辛い夜をもう一度繰り返すのかと思うと暗澹たる気分になる。 案の定さらにひどい夜が始まった。 シュラフの中で2時間ほど悪戦苦闘した挙げ句、たまりかねて隣で寝ている佐藤を叩き起こしダイアモックスを1錠貰う。 ダイアモックスは一種の体調改善剤で、高所に上がる2〜3日前から飲むべきと聞いている。 即効性はまったく期待出来なかったが、やけくそのダメもとで飲む。 痛風なんかクソ食らえである。 ところが予想に反してこれが実によく効いた。 飲んで数分もすると息苦しさが消えていくのが分かる。 そうなればもともと眠いのだからあっという間に眠りに落ちた。 後は小用で2度起きた以外は朝までぐっすりである。 ダイアモックスは利尿作用があり、小水が大量に出る。飲んだ途端に膀胱に小水が溜まり始めるのが分かる。

【ダイアモックスの素人療法】
 ヒマラヤン・ジャーニーの大河原社長によると、高山病の原因は気圧が低くなると毛細血管が膨らみ、それが擦れれ合って体液が外ににじみ出ることにあるという。 このにじみ出た体液がいろいろな高山症状を起こす。 だから余分な体液を小水にして排出するのがダイアモックスの効果だという。 この素人説明が今回の実感に一番ぴったり来た。 高山病の典型的症状は頭痛、息苦しさ、食欲不振、下痢など様々だが、原因は同じである。 脳に体液がしみ出すと脳圧が高くなり頭痛が起きる。 肺の表面ににじみ出ると酸素の吸収が妨げられ息苦しくなる。 胃や腸の表面にしみ出ると下痢や食欲不振を引き起こす。 程度が進むと脳浮腫、肺水腫に進み命に関わる。 初期症状のうちにダイアモックスを飲むと、体液が尿として排出され、これらの症状が急激に緩和される。 そう言う感じである。

 しかしながら医学書にはそうは書いてない。 ダイアモックスはもともと緑内障の治療薬で、高山病に関する効果については、
「腎臓から重炭酸塩の排泄を促し体液を酸性にする。 その結果体液のアルカリ化を是正し、高所での睡眠中の間歇呼吸を緩和する。 弱い利尿作用があるが、高山病に効果があるのは利尿作用によるものではない」
、とある。 しかし今回実感したダイアモックスの速効効果はそんな回りくどい感じではなかった。 あっという間に効き目が現れた。 明らかに利尿作用の結果であるように思えてならない。 素人考えというものだろうか。

  (背後の山はランシサ・リ(6310m)  写真はクリックで拡大出来ます)
 

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