【伝蔵荘日誌】

2006年4月14日: シンガポールの武道家 T.G

 ぎすぎすした愚かな話題ばかりに明け暮れいていたら、久し振りに楽しいニュー スを聞いた。 例のシンガポール武道家一家の秘伝書探しの話である。
 亡くなった中国拳法師範の父親の遺言で、青森の山奥に住むという日本人武道家 を探しにシンガポール人の息子と母親が来日した。 ご近所の人達10人も一緒について きて、夏服で岩木山山奥を探し回っているうちに当時の豪雪で危うく遭難しかかった。 なんでも世界地図で見たら日本は小さな国だから、探せばすぐ見つかると思ったと言う。 どうやら武道家の名前も住んでいる土地の名前も知らずに来日したらしい。 今時珍しい何とものどかな話である。 紆余曲折あった後、目出度く私じゃないかという日本人武道家が現れて、どうやらハッピーエンドになると今朝のニュースで伝えていた。

 弟子に持ち逃げされた秘伝書を父親の遺言で探しに来たとか、近所の人が10人 も助っ人についてきた来たとか、シンガポールの夏服で冬の岩木山麓をさまよって 凍死しそうになったとか、まるで漫画かお伽話である。 普通だとテレビ局のやらせか詐欺 師まがいの話に聞こえてしまうが、話を聞いているとどうやら真っ当な話らしい。 2チャンネルなんかこ の話題で持ちきりで、映画化決定、主演はジャッキー・チェンなんて勝手に盛り上がっている。 普段は反体制的で辛口で辛辣な書き込みをするオタク連中の書き込みが総じて友好的、絶賛調なのがおかしい。

 このほのぼのとしたニュースは日本だけでなく現地のシンガポールでも話題になるだろう。 持って回った見方をすると、もともと中国に本家のある拳法道場。 そこで修行した日本人武道家。 彼と昔交流のあったシンガポールの華人武道家。 その一族の家族愛と中国拳法秘伝書探し。 民族間をまたがった稚気と好意にあふれた人間交流。
 こういう人間味のある長閑な話が積み重なると日中間の不和も少しは薄まりはしないかと一瞬思わぬ でもない。 しかしながら胡錦涛主席ら中国政府のまなじり吊り上げた剣幕を見ているとそれこそお伽話だろうな。

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