【伝蔵荘日誌】

2006年1月4日: 小泉総理の新春記者会見 T.G.

 テレビで4日の小泉総理の新春記者会見を見ていたら、二人目に立ったどこかの記者が中韓両国への対応について意味ありげに質問した。 小泉首相は現在中韓両国政府の執拗な靖国攻撃と、アジアでの孤立を咎めるマスコミ批判に晒されている。 どう答えるかと耳をそばだてていたら、「靖国は心の問題だ。他国といえどもそれに容喙するべきではない。少しばかり意見の食い違いがあるからと言って首脳会談に応じないのは外交とは言えない」ときっぱり断じた。 しつこく同じ質問を繰り返した記者に対し、いささかも動ぜず「すでにお答えしたつもりだが」と言って同じ答えを返した。
 靖国問題の是非はともかくとして、これほど内外の批判を浴びてもまったくぶれない彼の姿勢には感心する。 タカ派と言われた中曽根やリベラルの代表である宮沢など、かっての大物首相達が同じ状況で右往左往したのとは対照的である。 他の政策はともかく、少なくとも外国の靖国批判に対して“いささかもぶれない”という一点に関して彼を多としたい。 内政と違い、外交と国家安全保障問題にぶれは禁物である。

 自分の父親は昭和19年にフィリピン、ミンダナオ島で戦病死した。 一介の陸軍上等兵だったためか、未だに靖国神社からは何の連絡もない。 多分祀られてはいないのだろう。 だから個人的には靖国神社に何の思い入れもない。 しかしながら靖国が心と信仰の問題であることは重々理解している。 自分のように特段の思い入れのない人間や、まして他国の政府が、いちいちくちばしを挟むべき問題ではない。

 日本のマスコミは、A級戦犯合祀ゆえに靖国を問題にする。 これはおかしい。 他国はともかく、国内的には東京裁判に関するA級を含む戦犯の赦免は昭和28年に国会で決議された合法的措置である。 この決議には当時の社会党や共産党ですら賛成した。 東京裁判の正当性論議は差し置いても、国内的には赦免した人々はもはや罪人ではない。 靖国に合祀しようがしまいが何ら問題はない。 今更これを批判するのはまったく正当性がない。 日本は法治国家である。 よしんば間違いだというなら、再度国会に法案を上程し、赦免を無効にすべきだろう。

 自分自身はA級戦犯と言われる人達を戦争指導を誤った愚かで無能な政治家とは思っても、犯罪人とは思っていない。 戦争は国際法でも認められた外交の延長である。 戦争指導者達が如何に愚劣であっても、法的犯罪者にはならない。 古今東西、敗者に対する苛烈な報復は山ほどあっても、戦争指導者が犯罪人として断罪された例はない。 日本だけである。

 最近の一部マスコミや財界は「日本のアジアにおける孤立」を声高に言う。 しかし考えるまでもなく、今日現在の日本は、中韓を除き、アジアでもそれ以外の地域でもまったく孤立などしていない。 有り体に言えば中韓2カ国政府の外交上の手練手管に振り回されているだけのことだ。
 日本の外交下手には定評がある。 70年前、米英など敵対する外国の執拗な挑発に乗って国策を誤り、その結果国を滅ぼした。 あの時も朝日をはじめ大手新聞は正しい状況認識を持たず、鬼畜米英などと扇情的な報道で大衆世論を煽った。 その轍を再び踏んでいる。
 当時の財閥も、市場欲しさに満蒙は日本の生命線などと軍部の提灯持ちをした。 商売の邪魔になるから靖国参拝をやめろと言う今の財界と同根である。 歴史は繰り返すのだろうか。

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