【伝蔵荘日誌】

2005年7月26日: 大前研一のロシア人傭兵論 T.G.

 少し前に家の電話回線を光ファイバーに変えた。 ついでに電話もひかり電話にした。 NTTのIP電話サービスである。 IP電話は原理的に電話料金が無料になるはずだが、NTTは3分8円の電話料を取る。 ビッグローブやヤフーなど、民間プロバイダーのIP電話は無料だからいずれNTTもそうなるだろう。 これで当家には百年の伝統がある電話線が無くなった。 考えてみれば画期的なことだ。

 その光インターネットで週刊日経BPを読んでいたら、とんでもない記事が目についた。 大前研一氏の「ロシア人傭兵論」である。 記事に書かれた趣旨は、経済のボーダレス化にとどまらず、軍事政策もボーダレス化せよと言う主張である。 その一部を抜き出せば下記の如くだ。

    「日本は予算的には世界第2位の軍事大国になっている。 しかし、実際の軍事能力はお世辞にも2位とはいえない。 イラクに派遣している自衛隊員には、危険地手当てが1日10万円も出る。 これに対して、ロシアの兵士の月給はわずか100ドルだ。1日分の危険地手当てで、ロシアの兵士が約1年間雇える計算になる。 であれば、ロシアの部隊を雇って彼らを派遣した方が安い。 それに、現在の平和維持活動だけでなく、能力的には治安維持活動に踏み込んだ活動も可能だ。 思い切った提案をするなら、日本の自衛隊を5分の1ぐらいに縮小して、外人部隊として日本がロシア兵士を“傭兵”として雇ったらどうか。 間接的にでもクレムリンの目が光っていれば、北朝鮮は絶対に逆らえないし、変な行動には出ない。 しかも、ロシアが“友軍”となれば、北の守りについてそれほど気にする必要がなくなる。 現在、日本の仮想敵国は中国、北朝鮮、ロシアの3カ国だが、そのうちの2つは減って中国だけになる。 結果的に、軍事費は10分の1ぐらいになって、かつ安全保障は増す。」

 以前からこの手のエコノミストの軽薄さを苦々しく思っていたが、この乱暴な話には驚いた。 少子化に伴う労働力不足は外国人労働者で補えという、金儲けしか念頭にない経済界の主張も論外だが、これはその域を超えている。 こういう手合いは国家や国家安全保障を何と心得ているのだろう。 そもそもロシアが日本の友軍などになるわけがない。 自ら言う“クレムリンの目が光っている”ことの意味を何と考えているのか。 この有名エコノミストは学校でどんな歴史教育を受けてきたのだろう。 得てして経済人は歴史観も国家観も皆無で、金のことしか考えない。 こういういかがわしげな連中がしたり顔で馬鹿なことを言う。 それを経済マスコミが、さも有り難そうに取り上げる。 世も末である。

    しばらく前、中国で反日デモが起きたとき、経団連会長が、「靖国参拝は国益に反するからやめろ」といった。 こういう発想は「満蒙は日本の生命線」などと軍部の政策を持ち上げた一昔前の財界と同じで、支那大陸を金儲けの対象としか考えていない。 国家観の喪失である。 今も昔も、経済人が国政に口を出すとろくなことにならない。

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