【伝蔵荘日誌】

2005年4月9日: 桜通りの桜並木 T.G.

 今年も桜通りの桜が満開になった。 いつ見ても哀れな桜並木だ。 隣接した家々から毛嫌いされ、毎年のように枝が切りつめられ、今では道路側にひょろひょろと傾いた貧相な並木である。 桜は切るものではない。 俚諺にも“桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿”と言うではないか。 とにかく、生まれてこの方これほどいじめ抜かれた桜を見たことがない。 この桜並木を見るたびに、日本人が桜好きという俗説に疑問を感じる。

 30年前、出来たばかりの団地が殺風景だと、自治会で相談して桜を植えた。 10年後に桜が咲き始めると途端に苦情が出始める。 やれ虫が付く。 日当たりが悪くなる。 落ち葉が庭に散って迷惑だと。 挙げ句に全部切り倒せと強硬なクレームが出る。 虫が付くのは自然がある証拠だし、花だけでなく青葉も落ち葉もそれなりに風情があると思うのだが。

 やむを得ず、桜の伐採についてアンケートで団地住民400世帯に意見を問うたところ、390対10の圧倒的多数で否決された。 賛成の10は並木に隣接する家々だけである。 自治会では伐採の代案として、伸びた枝を業者に頼んで毎年剪定すること、徹底的に消毒殺虫すること、を条件に10世帯を説得し、今の哀れな姿に至っている。

 それでも時折伐採要求が出てくる。 ある時団地内の他の空き地に移植する案が浮上した。 そうなると今度はその近くの住民から反対の大合唱である。 それまでは伐採に反対していたにも関わらず。
 要するに日本人は桜が好きではないのだ。 桜は遠くから見ている分には良いが、近くだと鬱陶しいだけの存在でしかないと言うことだ。 方々で見かける花見にしても、ほとんどの輩は桜など見ていない。 酒を飲んで騒ぐ口実にしているだけ。 中にはカラオケまで持ち出して落花狼藉。 とても花を愛でる雰囲気ではない。

“桜を愛する日本人”はまったくの虚構、嘘っぱっちだと睨んでいる。


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