【伝蔵荘日誌】

2005年2月11日: 立花隆の「私の東大論」を読む  T.G.

   文藝春秋の「私の東大論」を読む。 立花隆のこの連載は東京大学の現状に対する彼の批判から始まった。 その後論点が明治初期から現代に到る政治や世相の変遷にまで縦横に広がっている。 読むたびに彼の博識と視野の広さに刺激を受ける。

 戦前の有名な美濃部達吉教授の「天皇機関説」にまつわる騒動の下りは面白い。 今考えればどういうこともないこの学説に、最初軍部と右翼が異論を唱え、猛反発した。 その後東京帝国大学法学部の中でも反対論が広がりはじめ、美濃部の学説は異端思想として糾弾、排斥される。
 立花は記事の中で反対派の急先鋒、上杉慎吉教授の講義「憲法述義」を紹介している。 その中に次のような記述がある。

「日本国は純粋なる君主国なり。 天皇は完全にして欠くるなき統治権者なり。 君主国の法体系上、天皇の意志は唯一なる統治権にして、国家における凡ての意志は之に服従す。 天皇の意志のみ統治権たり。 天皇と統治権を分かち、または天皇と共同して統治権を行使する何人も存すること無し。 天皇の意志は直ちに統治権なり。 何人の意志をもその成立の要件とすること無し。 天皇の意志は最高にして、独立なり。 絶対的に無条件に人民は之に服従す。 天皇の統治権は無制限にして及ばざるの範囲あること無し。」

 とても我が国最高学府の知性が書いたとは思われない、馬鹿げた文章である。 文章はそのまま、「日本国」を「北朝鮮人民共和国」、「天皇」を「金正日」と読み替えてみれば馬鹿馬鹿しさがたちどころに分かる。 今の北朝鮮の体制そのものではないか。

 わずか70年前、我が国最高の知性たるべき東京帝国大学法学部の教授が、このような馬鹿げたことを学生に教え、学会も国民も軍部も支持し、あげくに国を潰した。 それが厳然たる日本の現代史である。 我々は今の北朝鮮の愚かさを笑えない。

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