【伝蔵荘日誌】

2005年1月30日: 散歩道で  T.G.

 家の近くを散歩していて驚いた。 昨日まであった竹林がない。 一本残らず切られている。 与野八景と称された竹林風景が影も形もなくなっている。

 家の周りは典型的な近郊農村地帯で、数年前まで、あちこちに見事な雑木林や手入れの行き届いた畑が残っていた。 、散歩のたびに目を楽しませてくれた農村風景が、今はほとんど残っていない。 農業に見切りをつけた農家が相続税を払いきれず、土地を物納するケースが多いのだという。 納められた土地はすぐに競売にかかり、畑は潰され、樹木は切り倒され、あっという間にマッチ箱のような建て売り住宅に変わる。 ほとんどが景観への配慮や都市計画など無縁の、30年も経たずに粗大ゴミ化するような安普請である。
 ここへ越してきた頃は、樹齢200年を越す欅の巨木が至る所にあった。 樹齢を記した「市の保存樹木」の札が付けられているので分かる。 その巨木も大方切られてしまった。 残されたのは、緑もなく無秩序で殺風景な景観である。

 経済効率の点で都市近郊農業に問題があることは理解出来る。 しかし畑や雑木林は首都圏に残された貴重な緑地なのだから、何とか残す方法はないものだろうか。 今の行政は緑地に社会的価値観を置かない。 同じような公園緑地を新たに作ったら巨額の費用がかかるだろう。 実にもったいない話だ。 畑はともかく、欅の巨木や雑木林は一度壊せば二度と作れない。 樹齢200年の欅は江戸時代末期に植えられたものだ。 法的には農家の所有物ではあっても、ある意味、私有財産の域を越えた社会資産である。 半分でも残せるような工夫があって然るべきだろう。

 あと30年もすると日本は人口が激減して住む人もいなくなる。 このあたりはどうなっているのだろう。 人気のない殺風景なスラムに違いない。 見なくて済むのが幸いか。




⇒同じ場所から撮った以前の竹林と今の風景


⇒同じ場所から撮った以前の農家と今の風景。


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