+あまい誘惑+


【前 編】


 太古の昔からね。
 女性の好きなものは、美しいもの・かわいいもの・甘いもの、と
 相場が決まっているんだよ。





移動要塞百足は定刻通りパトロールを終え、今はゆっくりと佇んでいる。
人間界と魔界との結界が解かれてから、既に3年が経過しようとしているが、 ここ最近はさすがに空間が安定して来たのか、迷い込む人間もすっかり減った。

百足の背中の上に横たわり、ひとときの昼寝でも楽しもうか・・・。
そんな矢先。


「気配を断って近づくな。相変らず悪趣味な奴め。」

「昼寝の邪魔しちゃ悪いかな?と思ったものですから。
それにしても、魔界に来るのも随分久しぶりだな。」

そう飛影に微笑んだ蔵馬は、スーツに小脇に抱えたなにやら綺麗な箱、と
およそ魔界にふさわしくない格好だ。
素晴らしく似合ってはいるが。


「・・・何の用だ?」

「貴方に招待状を持ってきたんです。」

「下らない事だったら付き合わないぞ。」

「幽助と螢子ちゃんの婚約パーティを一週間後にやるんですけど
来て下さいね。」

「話はそれだけか?俺は行かないぞ。・・・その箱は何だ?」

「これですか?手土産ですよ。」

綺麗な包装紙に、ご丁寧にリボンまでつけてある。

それなのに、妙に警戒している飛影が逆におかしい。


「螢子ちゃんがケーキを焼きすぎちゃったらしくって、招待状と一緒に
持っていってくれ、って頼まれてしまって。躯に渡したら喜ぶんじゃないんですかね。
女性っていうのはね、
『美しいもの・かわいいもの・甘いもの』に弱いものなんですよ。」

「アイツはこんな食い物に興味などもたん。」

躯はそんじょそこらの女とは違う、と言外に匂わせてるのかな?
と、蔵馬は内心またおかしくなってしまう。


「オレがなんだって?」

百足の背にひらりと華麗に跳び乗ってきた、この要塞の女主人(女帝?)、躯。


蔵馬はまだこの美貌の女性と、魔界の双頭と謳われた躯のイメージとが結びつかず、
正直、対応に戸惑ってしまう。
もちろん、顔には出さないが。

「飛影、客人なんだろ?奥に通してやれよ。
統一トーナメントに向けて、敵情視察ってとこか?」

そういって、蔵馬に悪戯そうに微笑みかける。

煙鬼が魔界の大統領に就任してからというもの、早三年。
10日後に第2回目の魔界統一トーナメントが開催されることになっていた。


「俺は、今回は出場しませんよ。
大事な顧客との商談を控えてますから。親父の会社で企業戦略やってるほうが
俺には向いてますしね。」


「とかなんとか言って、実は『歳には勝てない』んじゃないのか?」

そう言って口を挟んだのは飛影。


「それ、暗に躯にケンカ売ってる台詞ですか?」


なに?
振り返ると、ムッと顔をした躯と目が合った。

そ、そんなつもりではっ!!


「蔵馬来いよ。魔界イチの茶を用意してやるよ。」


そう言ってすたすたと歩き去ってしまう。


「じゃあ遠慮なく頂きますね。」


なんと、躯と蔵馬の異例ツーショット!
飛影危うし!!(笑)