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左の画像がアンプの原形です。作品をこんなに時間を置いて眺めることになるとは、まるでtime capsuleです。
シャーシは鉄板でできた既製品で、がっちり塗装がかかっています。当時出回っていたソリッド抵抗を多用しています。
右側の出力トランスを取り外しているのは、一次側で二カ所断線していたため。
出力管のsocketsも交換することだし、部品を全部取り外して水洗いしました。
シャーシが深いので、choke coilを内蔵。とにかく鉄板への穴加工を最小限にしようという意図です。
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回路設計
簡素化を狙ってauto balance形の位相反転回路を採用しました。出力管は自己biasとしたので、基本は無調整です。参照したのは7C5の原型になった6V6のアンプで、那須好男「必ずつくれる真空管アンプ24種の製作集」(ラジオ技術社, 1992年)が6201(12AT7相当)によるauto balance回路を採用しています。正相と逆相とで通過する真空管の段数が異なるため、ampが飽和したときの波形が+側と-側で大きく異なり、歪が耳につきやすいと言われています。那須氏の回路は初段管と次段のCathode bias回路が共通になっているので、出力トランスから戻す負帰還抵抗の値がbias電圧に影響する(負帰還量を変えるとbias電圧が従属的に変化する)のが気になります。これを解決したのが是枝重治「6V6PP ULステレオ・パワー・アンプの設計と製作」(「ラジオ技術」, 1993年9月号)で、bias抵抗を球ごとに設けることで負帰還抵抗の影響を排除しています。本機ではAC balance調整機構を省いた形で是枝氏に準じる回路としました。初段管は在庫からMullard製M8162(12AT7の高信頼管)を選定、出力管はLoctal管の元祖Sylvania製です。 |
シャーシ加工の最難関は、既存のAC outlet用の穴(左)をAC inlet用(右)に改装する工程でした。
3.2mmのドリルの刃が2本殉職。それでも、やすり掛けしたときに板がしなうことがない分、アルミ板より削りやすかった面もありました。 |
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Thermal time delay管は手持ちの都合でheater電圧が48Vです。電源トランスの固定bias用巻線(38V)を整流して得たDC48Vで点火する構想でした。実際は予想以上に電流が大きく、巻線定格の2倍程度になることが判明。起動時の1分間だけの過負荷とは言え、risk回避のために9Vのトランスを追加しました。これをbias巻線と直列にしてAC点火しています。
とばっちりを受けたのは豆電球の代用としてpilot lampのブラケットに仕込んだ白色LED。DC48Vがなくなったので、9V巻線をLEDのためだけに整流しています。Delay管のheaterに通電している間に電圧が降下し、明るさが変化するのを嫌ってFETで定電流化したのは少々やりすぎ。LEDには光を拡散するcapをつけて、元のlampに近い光が出るようにしました。 |
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全体が形になって測定を始めたところ、Left channelからRight channelへのcrosstalkが逆方向に比べて20dBも多いことに気づきました。これは、入力回路部がR
channelの初段に近接しているためです。
急遽左のようなシールドをアルミ板で作成し、右のように組み込みました。効果は期待通りで、後述するような特性が得られました。
やっかいだったのはシャーシの頑丈な塗装で、なかなか導通がとれません。上のシールド板もそうですが、ことごとくアース線を設ける必要がありました。7C5のsocket pinや電源トランスのアース端子など、手近なところに卵ラグを介して接地とは行かず、配線を引き回しました。 |
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通電して試聴中です。 |
出力端子は同寸法の新品が見つからず、錆びたビスを交換して両channel分を左側に集結しました。 |
周波数特性を示します。帰還量は11dBです。 |
Left channelはすんなりまとまったのに、Rightは低域の歪が下がりません。出力トランスに不平衡電流を流さないようにbias抵抗を個別に用意したにしてはみっともない結果です。 |
出力管のDC balanceが原因だろうと、R21に抵抗を並列にして歪の変化を観測しました。9.5-11kΩの範囲で歪がすとんと落ちることがわかり、実機には10kΩを実装。その結果が上のグラフです。 |
改善対策後のcrosstalk特性です。
高域でR→Lが劣化するのは、シールド板の隙間を介してRVと初段管が結合しているようです。 |