MS-1910  7C5 push-pull stereo power amplifiler remodel   [October, 2019]

 友人の依頼を受けて1973年3月21日に組み上げていた6GA4 push-pullアンプの再生を頼まれました。タイトル画像はremodel後の姿です。
前回はトランス類がそのまま使えたのですが、本機は出力トランスの片方が断線していました。同じ型番のトランスを調達するよりも、新品を採用し、それに見合う出力管に組み替えるのが費用面からも合理的です。
 手持ちの出力トランスは少々小ぶりですが、まずは使ってみて不都合が出たら改めて調達を考えることにします。Impedanceは5kΩと8kΩが選択できるので、出力管の選択肢が多くなりました。8kΩと決めて在庫から7C5に決定。下はremodel後のシャーシ内部で、回路図はこちら
 左の画像がアンプの原形です。作品をこんなに時間を置いて眺めることになるとは、まるでtime capsuleです。
 シャーシは鉄板でできた既製品で、がっちり塗装がかかっています。当時出回っていたソリッド抵抗を多用しています。

 右側の出力トランスを取り外しているのは、一次側で二カ所断線していたため。

 出力管のsocketsも交換することだし、部品を全部取り外して水洗いしました。
 シャーシが深いので、choke coilを内蔵。とにかく鉄板への穴加工を最小限にしようという意図です。
 回路設計
 簡素化を狙ってauto balance形の位相反転回路を採用しました。出力管は自己biasとしたので、基本は無調整です。
参照したのは7C5の原型になった6V6のアンプで、那須好男「必ずつくれる真空管アンプ24種の製作集」(ラジオ技術社, 1992)が6201(12AT7相当)によるauto balance回路を採用しています。正相と逆相とで通過する真空管の段数が異なるため、ampが飽和したときの波形が+側と-側で大きく異なり、歪が耳につきやすいと言われています。那須氏の回路は初段管と次段のCathode bias回路が共通になっているので、出力トランスから戻す負帰還抵抗の値がbias電圧に影響する(負帰還量を変えるとbias電圧が従属的に変化する)のが気になります。これを解決したのが是枝重治「6V6PP ULステレオ・パワー・アンプの設計と製作」(「ラジオ技術」, 1993年9月号)でbias抵抗を球ごとに設けることで負帰還抵抗の影響を排除しています。本機ではAC balance調整機構を省いた形で是枝氏に準じる回路としました。初段管は在庫からMullard製M8162(12AT7の高信頼管)を選定、出力管はLoctal管の元祖Sylvania製です
 シャーシ加工の最難関は、既存のAC outlet用の穴(左)をAC inlet用(右)に改装する工程でした。
 3.2mmのドリルの刃が2本殉職。それでも、やすり掛けしたときに板がしなうことがない分、アルミ板より削りやすかった面もありました。
 Thermal time delay管は手持ちの都合でheater電圧が48Vです。電源トランスの固定bias用巻線(38V)を整流して得たDC48Vで点火する構想でした。実際は予想以上に電流が大きく、巻線定格の2倍程度になることが判明。起動時の1分間だけの過負荷とは言え、risk回避のために9Vのトランスを追加しました。これをbias巻線と直列にしてAC点火しています。
 とばっちりを受けたのは豆電球の代用としてpilot lampのブラケットに仕込んだ白色LED。DC48Vがなくなったので、9V巻線をLEDのためだけに整流しています。Delay管のheaterに通電している間に電圧が降下し、明るさが変化するのを嫌ってFETで定電流化したのは少々やりすぎ。LEDには光を拡散するcapをつけて、元のlampに近い光が出るようにしました。
 全体が形になって測定を始めたところ、Left channelからRight channelへのcrosstalkが逆方向に比べて20dBも多いことに気づきました。これは、入力回路部がR channelの初段に近接しているためです。
 急遽左のようなシールドをアルミ板で作成し、右のように組み込みました。効果は期待通りで、後述するような特性が得られました。

 やっかいだったのはシャーシの頑丈な塗装で、なかなか導通がとれません。上のシールド板もそうですが、ことごとくアース線を設ける必要がありました。7C5のsocket pinや電源トランスのアース端子など、手近なところに卵ラグを介して接地とは行かず、配線を引き回しました。
通電して試聴中です。 出力端子は同寸法の新品が見つからず、錆びたビスを交換して両channel分を左側に集結しました。

周波数特性を示します。帰還量は11dBです。

 Left channelはすんなりまとまったのに、Rightは低域の歪が下がりません。出力トランスに不平衡電流を流さないようにbias抵抗を個別に用意したにしてはみっともない結果です。

出力管のDC balanceが原因だろうと、R21に抵抗を並列にして歪の変化を観測しました。9.5-11kΩの範囲で歪がすとんと落ちることがわかり、実機には10kΩを実装。その結果が上のグラフです。
 改善対策後のcrosstalk特性です。
高域でR→Lが劣化するのは、シールド板の隙間を介してRVと初段管が結合しているようです。
topに戻る。
Copyright(C) 2020 CPU.BACH. All rights reserved.