----97スペシャルチーム----



 サウスタウンを一望できる唯一のビル、ギースタワー。椅子に深く腰掛け、いつもと変わらぬ風景を眺めているギース。扉をノックする音がする。 


ギース 「入れ」 


ビリー 「失礼します」 


 ビリーが近づいてくる歩調に合わせるかのように、ゆっくりと背を向けるギース。 


ビリー 「何か御用で?」 


 引き出しから何か招待状らしき封筒を取り出し、ビリーに差し出す。 


ギース 「読め」 


 封筒を受け取り開封する。 


ビリー 「へぇ。やるんですね、キング・オブ・ファイターズを」 


ギース 「うむ。ハプニングがあったにもかかわらず、興業的には成功を収めたようだからな。スポンサーがまた『ウマ味』にあずかりたくなるのも無理はない」 


ビリー 「出場なさるんですか?」 


ギース 「今回は見合わせることにした。私もそうそう暇ではないのでな」 


ビリー 「それでは・・・」 


ギース 「今日呼んだのは他でもない。お前に出場してもらう。出場者に少々気になる男がいてな・・・」 


ビリー 「そいつの調査ですね。やらせていただきます。で、気になる男というのは・・・、やはりテリー・ボガード?」 


ギース 「いや。八神庵だ。いや、正確に言えば八神が持つ力と言った方がいいか」 


 ビリーの脳裏に忌まわしい記憶が蘇る。かろうじて感情を押し殺すビリー。 


ビリー 「八神・・・庵!・・・しかし奴の操る力はオロチの力、それも亜流の・・・。そんな物を何故今さら・・・?オロチの力などもう興味がなかったのでは?」 


ギース 「奴の操る力、確かにオロチの亜流と言っていいかもしれん。

が、前大会で見せた奴の狂気、あれは私が見たオロチにはないもの、いや、それ以上だった。その体自身にオロチの血を受けた男・・・。

あの男ひょっとすると相当に化けるかもしれん」 


ビリー 「混血ゆえにか・・・。なるほど、そういうことでしたら・・・。しかし、ご存じでしょうが、奴と俺には因縁があります。

それを考えた上で俺をご指名になったのですか?ともすれば奴を・・・殺しますよ、俺は」 


ギース 「かまわん・・・。それで死んでしまえばそこまでの男、だ」 


ビリー 「分かりました。そういうことでしたら。ところで、誰と組めばいいのですか?」 


 口元だけをゆるませ、ビリーを凝視するギース。 


ギース 「一人は山崎竜二。もう一人はブルー・マリーだ」 


ビリー 「山崎にブルー・マリー?そいつはまた・・・」 


ギース 「山崎にも少々興味があってな・・・。だが、こちらはお前が調べる必要はない。

ダミー会社を通じてそっちの調査はブルー・マリーが勝手にやってくれるだろう。おまえは八神にだけ専念すれば良い」  


ビリー 「山崎に何の興味が・・・」 


ギース 「フッ、会えばわかる、会えばな・・・。奴の居場所はわかっている。出ていく前にホッパーに確認しておけ」 


ビリー 「承知しました。それでは早速・・・」 


 退室するビリー。席を立ち再び窓に視線を移すギース。 


ギース 「思いのほか面白いものになりそうだな、今大会も」

 


 道場。道着を着た男達が何者かを囲んで立っている。そこから少し離れたところ、道場の中が見渡せるところにビリーが立っている。 


ビリー 『もう始まっているようだな』 


 何の言葉をかけるでもなく、道着の男が囲みの中心にいる男に掴みかかる。 


ビリー 『駄目だな、あんな間合いじゃ思う壷だ・・・』 


 掴みかかろうとした男がいきなり吹っ飛ばされる。 


ビリー 『・・・"蛇使い"のな』 


 続いて幾重にも重なった鮮やかな炸裂音が響く。次々と吹っ飛ばされる男達。


男達が築いていた『壁』が瞬時になくなり、その中心に一人の男が現れる。 


ビリー 「山崎竜二か・・・、あいつのどこにギース様の興味を引くところが・・・?」  


 考えながら状況を注視するビリー。ダメージが浅かったのか一人の男がすかさず山崎に組みついていく。山崎の顔に焦りはない。 


男 「貴様ぁ、ただではおかん・・・!な!」 


 にやつく山崎。男の腹にはいつの間にか匕首が突き立てられている。静観するビリー。 


ビリー 「どう見たって、タチの悪いチンピラってだけだぜ」 


男 「ひ・・・卑怯・・・な・・・」 


 山崎の顔が更ににやつく。 


山崎 「卑怯だぁ?おいおい、スポーツじゃねンだぜ?ハナから喧嘩のつもりだったんだがな・・・」 


 匕首を動かし、さらに腹をえぐる。苦悶の悲鳴をあげる男。山崎の低い声。 


山崎 「・・・俺ァよ」 


 崩れ落ちる男。面倒臭そうに匕首を収める山崎。いつの間にかビリーが道場に入って来ている。気配に気付く山崎。 


山崎 「・・・!何だ、ギースんとこの飼犬か。何の用だ?」 


ビリー 「たいそうな暴れ方だな。こんな所でどんちゃん騒ぎたぁ、よっぽど暇を持て余してるってことか?」 


山崎 「何を言ってるのか分からンぜ。それとも何か?お前もこんな風になりたいってか?」 


ビリー 「ハッ!ジョークはやめろよ。俺がお前に負けるってのか?ありえんな。賭けてもいいぜ」 


山崎 「てめぇ、本当に喧嘩を売りに来たのか?あン?」 


ビリー 「まぁ話を聞けよ。今日来たのは喧嘩じゃない、ビジネスが目的だ」 


山崎 「ビジネス?なンだよ、そりゃ?」 


ビリー 「近くキング・オブ・ファイターズが開催される。それに参加し、優勝する。それだけだ」 


山崎 「キング・オブ・ファイターズだぁ?フンッ、ヒマ人の格闘大会じゃねえか。興味はねぇなぁ。ま、他をあたれ・・・!?」 


 不意に足をつかまれる山崎。見るとさっきの男が足にしがみついている。今までになかった残酷な笑みを浮かべる山崎の顔。 


山崎 「ク・ク・ク、そ・う・こ・な・く・ちゃ・なあッ!」 


 瞬時にして上がる血しぶき。狂気とも悲鳴とも取れる絶叫をあげる山崎。ビリーの背中を冷たいものが伝わっていく。 


ビリー 『何だってんだ?さっきとは桁違いの殺気だぜ・・・!!』 


 一瞬、ビリーの脳裏をよぎるギースの台詞。 


ギース 『会えばわかる、会えばな・・・』 


ビリー 『そうか・・・、そういうことか』 


山崎 「いくらだ・・・」 


 山崎の呼びかけにふと我に返る。 


ビリー 「何だ?」 


山崎 「いくら出すんだって言ってンだよ。気が変わった・・・、出てやるぜ、キング・オブ・ファイターズによォ!」 


ビリー 「優勝賞金のさらに倍額だ」 


山崎 「忘れンなよ・・・」 


 一人道場を立ち去る山崎。しばらくして後ろから女が声を掛けてくる。 


マリー 「面白い話になってきたみたいね。私も一口乗せてくれない?」 


ビリー 「てめぇか。何のつもりだ?」 


マリー 「別に・・・。網を張ってたのよ、ちょうどいい暇つぶしはないかって」 


ビリー 「その網に俺達が引っかかったってか?」 


マリー 「そういうこと」 


ビリー 「・・・ヘッ、ま、いいだろう。ちょうど人数も揃うことだしな。好きにするがいい」 


 道場を出ていくビリー。すれ違いざまにマリーが声を掛ける。 


マリー 「ありがとう。そうさせてもらうわ」 


 道場を出るとビリーの横に車が追いついてくる。すかさずそれに乗り込み、何者をも寄せつけないかのごとく目をつぶる。 


ビリー 『メンツは揃った。ヘッ、俺としたことがこんなことで興奮してるぜ。待ってろ、八神庵。必ず仕留めてやるぜ!』 


 道場。積み上げられた男達を眺めているマリー。 


マリー 「なんとかターゲットとは接触できたわ。けど、この依頼、何だか匂うわね。山崎と同時にクライアントの方も調べておく必要がありそうだわ」