ケンスウ 「ひゃー、今回も物凄い数やなぁ」 

 
これまで二人にとって、手紙は通信手段としてたまに届く程度であったが、最近は違った。チンが街に出かけては、

帰りに大量の手紙を持って帰って来るのである。 


アテナ 「去年のキング・オブ・ファイターズに出てからというもの、たくさんの手紙が来るようになったわね」 


ケンスウ 「当ったりまえや、オレ達の勇姿をTVで見せつけてやったからなぁ」 


チン 「じゃが、お主には一通も来てないようじゃがの」 


ケンスウ 「ちゃいますよ、お師匠さん。オレにも結構来てるんですよ」 


チン 「お主は、アテナファンの男連中から来た苦情の手紙や、カミソリレターとかを数に入れてうれしいのか?」 


ケンスウ 「・・・だって・・・」 


 いじけるケンスウ。 


ケンスウ 「・・・大体、お師匠さんにすらファンレターが来てるっちゅうのに、何でオレばっかし『アテナに近寄るな』ってな、

男からの手紙ばっかしなんや・・・ブツブツ」 


チン 「あーあ、独り言が始まってしもうたわい。ありゃ、しばらくほっとくしかなさそうじゃな」 


 そんなケンスウをよそに、アテナは一通の手紙を見つけた。 


アテナ 「あら?ケンスウ、女の子から一通来てるみたいよ」 


ケンスウ 「ブツブツ・・・えっ?女の子?・・・いゃっほー、やったー、女の子から手紙、手紙やー」 


 ケンスウは、アテナからその手紙を受け取り内容を確認すると、さっきとはうってかわって満面の笑みを浮かべている。 


チン 「しかしな・・・儂はお前達を有名にするために、出場させたわけではなかったんじゃが・・・」 


ケンスウ 「分かってるってお師匠さん」 


アテナ 「そうですよ、お師匠様」 


チン 「なら、いいんじゃがのう」 

 
複雑な心境である。確かに前大会後から今まで修業はきっちりやっているし、むしろ以前より頑張っているようなので問題はないが、

あの子達の若さが気にかかる。この状況が続けば、いずれ勘違いしかねないのではないかと不安感がつきまとう。 


ケンスウ 「で、今年はどうしはるんです?キング・オブ・ファイターズの方は」 


チン 「それをどうしようかと考えとったんじゃが、今年は辞めようかと思っとる」 


アテナ 「どうしてですか?」 


チン 「前回はお前達の希望もあって、修業の一環として参加させたんじゃが、これに関しては良かったと思っとるし、

お前達もよくがんばった。ワシが思っとった以上に修業の成果も出ておったんで、誉めてもお釣りがくるくらいじゃ」 


ケンスウ 「なら今年も出場して、この一年の成果を試してもいいんやないですか?」 


チン 「じゃが、前大会が大きかったこともあって、お前達の周りが騒がしくなりすぎた」 


アテナ 「確かにこの手紙の山もそうですし、数多くの出版・TV関係からの取材依頼とかも来たり、いろいろありましたよね」 


チン 「お前達には、外界からの刺激のない静かな環境でのびのびと修業してほしいんじゃ。

それに、何度も言うようじゃが、お前達の力は来たるべき時に人々を救うために使うもの、だから見せ物的になるのはどうかと思うがのう」 


ケンスウ 「そーやなぁ。まぁ、お師匠さんがそこまで考えてはるんやったら、無理に出んでもいいんやないですか」 


アテナ 「そうよね、私達は修業の方が大切ですから」 


チン 「そうか、分かってくれたか」 

 
と、二人には言ってみたものの、古寺で修業ばかりしているアテナやケンスウが、年に一度の大会を楽しみにしていたのも確かで、

心なしか返答にも元気がない二人に、心が痛む。

 
夕方、一日の修業も終わり、個人が思い思いの時間を過ごしている。チンは散歩へ、後の二人は、今日届いた手紙に目を通していたが、

アテナはその中の一通に目が止まった。

送り主は同年代らしき女の子からで、その手紙を読み終わった後、アテナは少し考えていたようであるが、ケンスウにその手紙を見せる。 


ケンスウ 「ふーん、こーゆう人もおるんやなぁ」 


アテナ 「私、お師匠様に話してみる」 


 そう言うと、アテナは手紙を返してもらい、散歩から戻ってきたチンの元に向かった。 


ケンスウ 「あ、ちょっとアテナ、待ってーな」

 


アテナ 「お師匠様、少しお話があるんですが」 


チン 「どうしたんじゃアテナ?改まって」 


アテナ 「私、いろいろ考えたんですが、やっぱりキング・オブ・ファイターズに出たほうがいいと思うんです」 


 というと、先程の手紙をチンに渡した。


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 初めましてアテナさん。私は、前回のキング・オブ・ファイターズで闘っているアテナさんを見てファンになりました。というのも、とある病気がきっかけで歩けなくなった私は、退院後、家の外に出ることが恐くなり、学校に行かなくなってしまったのですが、その数ヶ月たったある日、たまたまつけたTVに同年代の女の子が闘っている姿が映っていたのです。後日、その女の子はアテナさんだと知りましたが、倒れても倒れてもくじけず一生懸命闘っている姿を見て勇気づけられました。そしたら、このままじゃダメだっていう気持ちになって、頑張って学校に行くようにしたんです。そして、秋から一生懸命勉強して、何とか無事高校に進学することが出来ました。

 これもアテナさんのおかげです。ありがとうございました。

 ところで、今年も大会には出場されるのですか?そうであれば、会場まで頑張って応援しに行こうと思います。

 これからも頑張ってください。

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アテナ 「私はこの手紙を読んだ時に、私達が闘うことで、勇気づけられている人がいることを知りました。

私達の力は人々を救うためのものですよね?これもある意味で救いの手段ではないでしょうか?」 


ケンスウ 「そーやなぁ。確かに、修業してるだけやったら人は救えへんけど、オレ達が大会に出るだけで、

こんな風に勇気づかせたりできるんやったら、進んでやるべきやと思いますよ」 

 
後を追ってきて隣で話を聞いていたケンスウは、素直に自分の意見を語った。 


チン 「うーむ」 


アテナ 「あと、修業環境が変わっても、私達が強い意志をもって修業に取り組めば問題のないことだと思います」 


ケンスウ 「オレも同意見です」 


チン 「そーか。それだけの決意があれば優勝もできそうじゃな」 


アテナ 「それじゃあ、お師匠様・・・」 


チン 「自分の信念を持って行動することは良いことじゃ、それを師であるワシが潰すわけなかろう。

それに、お前達は自分のすべきことをちゃんと理解しておるようじゃ、何も言うことはあるまい」 


アテナ・ケンスウ「ありがとうございます」 


ケンスウ 「よーし今度こそは、ファンレターをいっぱいもらえるように頑張るでー」 


アテナ 「もう、ケンスウったら。だから、それが目的じゃないでしょ!」 


チン 「やっぱり間違いじゃったか・・・」 


ケンスウ 「冗談ですよ、お師匠さん」 


チン 「本当かのう・・・」 


 疑惑の目でケンスウを見る。 


ケンスウ 「本当ですよ。なぁ、アテナ?」 


アテナ 「さぁ、どうかしらね」 


ケンスウ 「もぉ、アテナまで!」 


 夕焼け空に笑い声がこだまする。その暖かい空気のなかチンは思うのであった。 


チン (ワシが心配せんでも、周りの環境に影響を受けるようなヤワな精神ではないようじゃな。

あの子達はワシの知らん間にどんどん成長していきよる、ワシも歳をとるはずじゃ。

まぁ、修業の成果を見せてもらうとするか。じゃが、前回のように、また妙な争いに巻き込まれなければ良いがのう・・・)