チャン 「・・・あぁ、キムのだんなはいい人ですぜ。オレ達みたいな奴を真剣に考えてくれてるからなぁ」
チョイ 「そうでヤンス。だんなみたいな人は滅多にいないでヤンス」
カメラを前に意外と緊張しつつしゃべる巨体の男と小柄の男、その後ろでその話を聞いている彼ら二人の教育者の姿があった。
結局この二人はどうなったかというと、教育が足りないと考え直したキムによって、苛酷な生活からの解放は先送りになってしまったのである。
そして、いつも通りトレーニングをしていたある日に事が起こった。
チョイ 「ふうっ、全く、ここに来てからどのくらい経つんでヤンスかね〜。チャンのだんな?」
チャン 「それ去年も言ってたなぁ、チョイ」
チャン・チョイ「・・・ふうっ・・・」
ここ何年やっているのか分からないトレーニングメニューをこなしながら、二人は深くため息をついた。
チョイ 「そもそも、自由の身になる寸前でチャンのだんながあんなことを言うから、こんなことになってしまったでヤンスよ」
チャン 「だって、キムの奴に聞こえてるたぁ思わなかったし、それにお前だって『違いねぇでヤンス!』とか言って、一緒に笑ってたじゃねぇか!!」
チョイ 「あれは・・・」
キム 「おい、うるさいぞお前達、ちゃんとトレーニングしてるのか!!・・・すいません、で、お話の続きですが・・・」
チャンとチョイがトレーニングしているところから少し離れた場所で、キムが見知らぬ男と話をしている。
チャン 「さっきからずっとキムの奴と喋ってるが、誰だアイツは?」
チョイ 「誰でヤンスかねぇ」
チャン 「こんなところにお客さんたぁ、珍しいこともあるもんだ」
チョイ 「そうでヤンスねぇ」
まぁ自分達には関係ないだろうと、特に気にも止めずトレーニングを続けていると、不意にキムの呼ぶ声が聞こえた。
キム 「お−い、お前達ちょっとこっちに来てくれ」
チャン 「何だ?」
チョイ 「何でヤンスかね?」
オレ達も関係あるのか?と疑問ながらもキムの元に駆け寄る。
チャン 「なんですかい、だんな」
チョイ 「なんでヤンスか?」
キム 「お前達に紹介しておこう。こちらはTV局の方だ」
そう言って紹介されたのは、先程からずっとキムと喋っていた男である。
チャン・チョイ「?」
TV局の男 「初めまして。チャンさんとチョイさんですね」
チャン・チョイ「は、はぁ」
TV局の男 「前回のキング・オブ・ファイターズで、我が国の代表的な格闘技であるテコンドーを通じ更生を受けているというお二方を拝見し、
今回ウチどもで『更生』についてのドキュメント番組の企画が上がりまして、キムさんの協力を得て二ヵ月の追跡取材をさせていただくことになりました」
チャン・チョイ「え、えぇ・・・えーっ!?」
キム 「私も初めは断ろうと思っていたのだが、我々がTVに出ることによって、世の人々に何かしら良い影響を与えられるのであれば、
協力しようではないかということになった。あと、テコンドーの素晴らしさをTVを通して伝えることもできるしな」
チャン 「で、でもキムのだんな・・・」
キム 「ん?」
チャンは何か言いかけたところで、キムの目が険しくなったのが見えた。
チョイ (どうのこうの言ったところで、しかたがないでヤンスよ)
チャン (だけどよう・・・)
チョイ (キムのだんなの機嫌を損ねると、後が大変でヤンス)
キム 「どうした?ぶつぶつと」
チョイ 「な、何でもないでヤンス」
キム 「それと、キング・オブ・ファイターズが今年も開催されるのだが、今回の取材の一環で出場することになっている」
チャン・チョイ「はぁ」
二人は諦めたのか、話がどう展開しようが驚きもない。
TV局の男 「取材の締めとして、キング・オブ・ファイターズで成果をみせていただきたいのです」
キム 「まぁそういうわけだ。失礼のないようにな」
チャン・チョイ「は・・・はい」
てな感じで、TVの取材を受けることになってしまったのである。
キム 「・・・そうです、始めから悪い人間はいないんです。だから皆さんにもそのことを理解してもらいたい、そして・・・」
チャンとチョイの話が一通り終わると交替し、次にキムがカメラの前で切々と持論を語っている。
そのころ二人は、少し離れたところでキムが語っている様子を見ていた。
チョイ 「チャンのだんな、いろいろ考えたんでヤンスが、これはチャンスでヤンスよ」
チャン 「と、いうと?」
チョイ 「キムのだんなもTVまで出ておいて『結局、更生できませんでした』とはいかないでヤンス」
チャン 「ほぉ」
チョイ 「しかも、キング・オブ・ファイターズで優勝なんてした日には・・・」
チャン 「大会で優勝すりゃ、今度こそ自由の身になれるということだな」
チョイ 「まぁ、そう考えるのが普通でヤンスね。しかも、『更生しました』ってんでヤンスから、
国民公認で大手を振ってお天道様の下を歩ける特典付きでヤンス」
チャン 「うーん。でもよぉ、それじゃぁ自由になっても、暴れにくくなるなぁ」
チョイ 「そこででヤンス。キムのだんなから、再出発の資金とかいって優勝賞金をごっそり頂戴して、それを使って海外に出るでヤンスよ」
チャン 「海外で大暴れか」
チョイ 「そうでヤンス。まぁ、ばれないようにってのが前提でヤンスがね」
チャン 「まぁな。もう捕まったりはしねぇ」
チョイ 「でもまぁ、行った国でヤバくなったら次の国へと、国を転々としていけばそうそうばれないでヤンスよ」
チャン 「ほぉ。しかもキムの顔を永遠に見なくてすむな」
チャン・チョイ「ぐふふふふっ」
すると、キムの話が終わったのかTV局のスタッフが動きはじめた。
キム 「おーいお前達、今からトレーニングに入るから用意して集まれ」
チャン 「キムのだんながお呼びだぞ」
チョイ 「じゃー、頑張るでヤンスかね」
チャン 「おぉ、頑張るぞ」