赤い髪、赤いボンデージパンツ・・・。一見すると、バンドマンであるというのが見てとれる。
だが、その男には外見からは到底計り知れぬ何かがあった。その男のかもしだす雰囲気に、ただならぬものがあったからである。
全身ずぶぬれであっても男の目は爛々と輝いていた。妖しく光るその瞳は、何を見ているのだろうか・・・。
ふと、男は大型の液晶ビジョンの前で立ち止まった。
「・・・恒例のキング・オブ・ファイターズ97年度参加者は、以下の通りです」
「・・・・・・」
男は立ち去ろうとした。しかし、その後の放送を聞いて立ち止まった。
「・・・日本チームは草薙京、二階堂紅丸、大門五郎選手が出場します。なお、シード選手として、八神庵選手が・・・」
「!?」
自分の名前を呼ばれて男は苦笑した。
「ククッ、神楽、あの女の差し金か・・・。そうか、京・・・貴様もまたあのくだらん大会に出場するのか・・・」
男はそうつぶやきながらその場を離れた。
渦巻く憎しみが男の心を締め上げていた。快楽にも似た憎しみが全身をきしませている。
憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪・・・。
憎憎憎憎憎・・・。
「ぐぉぉ・・・」
男はうめいていた。
「クスクス・・・」
どこからか、笑い声が男の耳に入ってきた。
「誰だ・・・」
「庵・・・まだ京を倒せないようね・・・クスクス・・・」
暗闇から光る目が浮かび上がってきた。
「フンッ、お前達か」
それはいつの間にか男の足元に近づき、蠢いていた。女が二人。見慣れた顔だった。奇妙なことに女達は裸で地を這いまわっていた。
そのヌラヌラと動くさまは、まるで蛇そのものだった。
「ククッ、死にぞこないか・・・」
「クスクス・・・その程度で倒れているようではとても京には・・・」
「黙れぇいっ!」
ブオッ!
闇払いが地をかけた。だが、蒼き炎はその者達を素通りした。
「クスクス・・・庵・・・また会いましょ・・・その時は・・・」
女達はそう言い残すと、暗闇に消えていった。
「クックックッ、京!貴様のおかげで化物まで見えるようになったぞ!」
男は叫んだ。
「京−−−−−−−−−!」
ガバッ!
男はベッドから起き上がった。
「ゼー・・・ゼー・・・」
辺りを見回した。何もない部屋。そう、部屋にはベッド以外何もなかった。いつもの何もない空虚な部屋・・・。
「・・・夢・・・ごっ、ゴフッ」
男は咳こんだ。口元にやった手を見ると、血が飛び散っていた。その血をふくのも面倒だといわんばかりに、そのまま男はベッドに横になった。
そしてしばらく薄汚れた天井を見つめていた。
「フッ、京、貴様と俺の運命・・・どちらが、先に倒れるか・・・」
男は薄笑いを浮かべた。
「フハハハッッ!京!お前の声!お前の顔!誰よりも!そうこの世の誰よりも!!この世界で最も憎いのはお前だ!京!
俺の願いはただ一つ!貴様を倒すことだけだ!!
ハアッハッハッハッ!!」
男は笑っていた。
その哀しげな笑い声は部屋中に満ちあふれ、いつまでも続いていた。