本日の皇女様はそれはそれは終始ご機嫌なご様子で、
 仕えるワタクシはといえば水を差すまいと皇女のご要望に可能な限りお応えするように奉仕して参りました。
 当然皇女様の住まわれる世界にもこのような百貨店は存在しますが、
 陳列された品々のその多くが新鮮な輝きを持っていると皇女様は仰いました。
 またその御身分故このような場で心ゆくまでご寛(くつろ)ぎなさる事が困難でおられたご様子。
 今の彼女は、失礼を承知で申し上げれば、単なる一人の少女。


付き人ゴッコやめ。はぁ。
騒ぎ立てたり走ったりとまではいかないが彼女なりに、とてもはしゃいでいた。やはり世界が違う分センスや技術の相違があるのだろう。
どちらが勝っていると いうことはないみたいで、逆に「エノーラはないのか?」と聞いたこともないような単語が飛びだしたりもした。
アレがないと大層不便だろう、そう呟いた矢先 にこれは何と画期的なっ、と別段普通なシャープペンに強い興味を示していた。

そうして着実に買った物は増えていくわけで。まぁエミーのバカ買いを経験していれば両手に収まる程度の荷物など苦労の内に入らなかった。
彼女が買い物に夢 中だったおかげで意識することは全くなく、遠目で眺めているうちはあのインパクトも抑えることができる。

しかし爆弾は依然として爆弾であり、また点火する炎は目の前をちらついているのだ。それが今まで偶々(たまたま)触れなかっただけ。

荷物持ちの姿を目にした彼女は急に顔を曇らせた。積み重なる荷物に、付き添いへの配慮を欠いたと知って自らの行いを省みたのだろう。
つい夢中になって済ま なかった、なんて言い出す。

「Don't worry!荷物持ちなら慣れたものさ。」

そう言われてもあっけらかんとしていられる性格じゃないのはよくわかっている。本人の気が済まない限り口で言ってもダメ。
本当になんてことないのに、その 分だけ厄介な頑固さだぜ。
少しぐらい持つ、気にするなよ、しかし、本当に大したことじゃないからさ、やっぱり強情だ。ならばお詫びに一つプレゼントを買う。
それで気が済むならばと 了承した。

「こういうのはどうだ?」

そう言いながら低い棚の商品を手に取る姿勢の、下から覗き込む様に見上げる目は期待で潤んでいて、刺激を受けた頭が一瞬で沸騰した。
またあの映像が蘇る。 途端に彼女の顔を直視できなくなってしまった。不意に目をそらされて困惑する彼女。

「気に入らないか、ならばこちらは?」

というか物がまともに見れません。勘違いをしたまま彼女は問いかけを続ける。
これは、これは、こんな攻勢を続けられたら脳みそが焼き切れそうだ。
この場を 凌ぐべく目に留まったテキトーな商品を指さす。

「これがっいい!」

と示してしまったのは何の変哲もないシャープペン。でもブレイズはとても納得した顔で、すぐさま会計へ走って行った。

買い物を終え集合場所へ向かう。満面の笑みを浮かべたブレイズ、そして隣にげんなりしたソニック。
この様だけ見れば買い物で相当振り回されたんだなと見受 けられることだろう。いや振り回されはしたが何か意味合いが違うぞ。
そうこれは心労の方だ。そうだ精神が参った。

後ろを付いて行くという顔を見ないで済む安心感から、あからさまに疲労を顔に出していた。
急に振返り見た彼女がそんなソニックを心配するのは当然で。

「本当に大丈夫か?今日のお前はどこかおかしい。」
「ダイジョブだだから!あむおーらいっ。」

ブレイズの視線を感じるほどに冷静でいられなくなる。
心配される。慌てる。心配される。困る。心配される。循環スパイラル。繰り返すほど顔が熱くなっていく。

荷物を寄越せ、大丈夫だと言ってる、調子が悪そうなやつに押し付けられるか。原因はもっと別のことなんだよっ。
こんなやり取りをしつつみんなが待つ集合場所までやってきた。
すでに集合していて、ナックルズは超高層カラフルボックスタワーを抱えていた。若干バランスがあやしい。

「そのくらいの量、ソニックなら平気で持ってたわよ。」

エミーからそんな檄が飛ぶ。はやし立てられたナックルズは踏ん張る。お、頑張るね。
本当にあんなに沢山持てるのか、隣にいるブレイズから感嘆が漏れた。まぁ、な。エミーに鍛えられたから。苦笑いとセットで答える。
今持っている荷物はあのタワーの比ではなくて。それを認めて、心配ない事をわかってくれたみたいだ。もう荷物をせがむことは無かった。

なんとかかんとか帰り道。
割とたくさん買ったブレイズの荷物も大きな袋かリュックでもあれば入る程度。
同じくテイルスも袋一つで事足りる量であった(というかあんだけ買うやつ他にいない)。

「ブレイズも結構買ったんだね。」
「ああ。なんかあっちの世界では見たことないものがあって、面白いと言ってた。」

シャーペンが珍しいんだと。へぇ。テイルス、エノーラって聞いたことあるか。ううん。だよなぁ。
他愛のない会話をしていた時だった。前を歩くブレイズがこちらを見た。
隣のテイルスは様子を見てるだけ、変に反応を見せる方がおかしくて、比較対象があれ ば一層際立って見えるのだ。


ブレイズの横にいたエミーが機嫌損ねた顔してやってくる。というか詰め寄ってくる。顔が近い。かなり睨まれているが理由がよくわからない。

「買い物のときブレイズと何かあったの。」
「べ別に普通に買い物付き合っただたけだって。」
「ほんとにぃ?」

かなり粘着質な視線を送られる。いやホントだから。なんでそんな問い詰める。
自分の振る舞いを振り返る。客観的に見ればそれはいかにも。

「あなたもしかしてブ「いやそれは断じて違う!!」の!?」

声に被せて続きを言わせない。そんなこと断言されたらややこしいことになる。説明を求められても無理だ。
しかしこの強引さも彼女の疑念に拍車を掛けること になるのは言ったあとに気づいた。

「あやしい!正直に白状なさい!!」

ってさっそくピコハンかよ!腕つかまれて逃げられない、万事休す!と思いきや小さな悲鳴がエミーから上がり、
同時に掴まれた腕が解放された。

ブレイズは目くらましに炎を使った。(猫だましVer.ブレイズ)
驚かせた隙に助け出された。エミーから距離を取るため抱えられ民家の屋根の上へ避難した。つまり現状は体が密着しているわけで。
血流血圧体温呼吸心拍数がカッとなった。どれもこれも今朝の夢のせい。

「大丈夫か、ソニック。」

ダイジョブジャナイデス。ブレイズはエミーへ異議を申し立てている様子だが、内容が頭に入ってこない。
それぐらいどぎまぎしていたものだから、次の襲撃に 備えることが出来なくて。


ピコ


「ソニック!!」

投げ放たれたピコハンが頭部へクリーンヒット、弾かれてそのまま落下し気絶。ブレイズの呼び声が遠くこだました。





霞む目が徐々に鮮明に辺りを映し出す。これから目覚めるのだ。かくして視界に映し出された景色は、八割方がブレイズの顔であった。

「ワォァ!?」
「な?!」

驚いて驚かせてしまった。今回は声が出た。
だから夢の続きは阻止できたと思ったのだが、夢ではない事は時間を経るごとに認識を増してゆく。
彼女は心配して看ていてくれて、ただ顔を覗いていただけだった。しかし不活性な頭では紛らわしい。

「起きた途端に何なんだ!?」
「ソ、Sorry。」

ひたすらに平謝り。驚いた理由もうやむやに言いのけた。だってされるかと思ったなんて言えるわけないだろ?
まぁなんとか平静さを取り戻してもらって場が落ち着いたのだが、代わって妙な空気が立ち込める。

ブレイズは忙しなくこちらを見たり部屋やら手やらベッドサイドのテーブルを見たり落着きが感じられない。
どうした、問いかけても返事がまたおかしい。何でもないっ、何でもないが一番何かあるパターン。まぁ気にしない方がいい、よな。

「ずっと付いてくれていたんだな、サンキュー。」
「!」

感謝の意、それだけのことなのにまともに返事が返ってこない。余計に、うわ顔を赤らめ始めたよ、落ち着きをなくす。

そんなもどかしい時間が部屋を支配し淀む。
もう平気だから起きてみんなのところにでも行きたいのだが、それすら躊躇わせる強制力が場に立ちこめている。
たぶん一分だ。こういうときの一分は一時間にも感じるから実際は一分だと思う。
そのくらい長い沈黙の後にブレイズがようやく口を開いた。それも恐る恐る。

「エミーがもしかしたらと言っていたが、あの、お前が、わ私のコトが・・・」
「ブレイズ?」

頬を赤くして歯切れの悪い物言いは、可愛いと思わせるものはあった。でもそれは。
視線を泳がせ自信の無さが露だ。不安を表に出した顔が何故か微笑ましくて、知らず笑い出していた。直後、不機嫌な彼女の声が返ってくる。

「!何が可笑しい?」
「ぃやだって、よ。何かイメージと違うからさ。」

堅固な意志を持ちそれを体現するのが彼女と思っていたから。まぁ勝手な想像だが、夢の中ではまさに有無を言わせぬ勢いだった。
それが今現実にいる彼女はどうだ。口ごもるなんていじらしいじゃないか。これが本当の彼女。

所詮夢は夢。

嘲笑しているわけではないがどの道彼女にとって不快な笑いを上げてしまっていた。安堵感から込み上げてくる笑い。
夢で見た彼女はこの事象に関しても実直だったのに、今いるこのブレイズからは同じ事が為されるなんて到底考えられない。
おかげでいつもの自分に戻れた。

「俺はもう大丈夫だ。さ、みんなのところに戻るか。」

立ち上がり退室を促すように先にドアに立つ。ある意味続きをさせない牽制だ。
この話はもう終わりっ。
平常に戻ったこともあり、仲間との時間を仕切り直したい気持ちもあった。

「ああソニック、こ、これを。」

後からついてきたブレイズが差し出したのはライムグリーンのラッピングシートに包まった細長い箱。
プレゼントに買ってもらった、シャープペンだとすぐにわかった。

「Thank you!」

笑みで返せばやはり視線を外された。そして頬が紅潮している。わざと気付かない振りをして。
それじゃ、行こう。向き直る前のほんの一瞬のことだ。



夢では、終わらせない。



動きが読めた唇からそう聞こえた気がした。






















































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ソニックをオタオタさせてみた。
作ってるうち自分がオタオタしてきた。

誰が夢見てる?たぶん俺です。。。