視界を占領するのはブレイズの顔。それだけ接近している証。
 猫特有のつり上がった目、彼女特有の強い意志が光る目。
 その中に収まる瞳は潤んでいて、自分の顔を映し出している。
 ソニック。呼気は胸元を撫ぜた。囁きは胸の内を撫ぜた。

 私はお前の事が。接近する瞳。互いの鼻が触れ合いそうなほど近づいて。
 動けない。目をそらすことも、瞬くことも、手で制することも、足で走りだすことも。
 視界は彼女に閉ざされる。彼女は視界を閉ざした。
 されるがまま。ゆっくり着実にゼロ距離へ。触れ合えることを期待して。


 ウェウェウェッウェイッ、待てまてまあああああ――



「わああああ!??!」



真 下を向いたかと思えば真正面を向いている。急激な目覚め独特の浮遊感に苛まされつつソニックは目を覚ました。
上体を曲げる行為が引き金の、立ち上がってい たか寝転がっていたかの差異から来る方向感覚の狂い。
夢の中では立ち上がっていると思うのだが現実に立ち返れば寝転がっているから。
動作の感覚だけ残る が、不活発な頭脳による起点の修正が追いつかず頭の後ろが上だと理解したまま、
しかし地面を見ているはずの足元にはシーツが覆いかぶさっていた。

朝だ。夢だ。汗だ。
断片的に理解したことだけを並べて徐々に把握に努める。妙な夢にうなされて目を覚まし、嫌な汗を掻いていた。
カーテンの隙間からは光線が部屋の一点を照らし当てている。

何だったんだ

ブレイズが、まさか、奇怪なリアリティが現実とまどろみ頭の中で混じり混じる。衝撃の強い記憶は夢ですら現実と変わらないほど鮮明だ。
何もかもが渦巻いて渦巻いて、そこに最終的に生まれた欲求は、結局この不快な汗をいち早く取り除く事だった。

汗とともに記憶も水の流れに乗って綺麗さっぱり流れればよかったのに。全身に水を浴びせながらそう思った。
顔面に目覚めの流水を叩きつけさせている間、暗闇、夢が鮮やかに蘇る。ブレイズ。

「なな何考えて、!」

固いタイルに頭を打ち付けたい衝動を必死に抑える。記憶が飛ぶなら、飛びっこないむしろ痛い他何もない。気持ちも鎮まることはないのだろう。
なんせあれは――

考えるな!

もやもやする。
払い除けたいのに頭が、いや心が彼女に占拠されてしまった。両方。追い出すため必死に、考えないようにかんがえないように、ように。
てっとり早く、ひたすら外を駆けることにした。走っている間は風を感じるだけだ。一番すっきりする方法。そうだ。そうしよう。そうするしかない。
いいかげん体も生乾きなまま、闇雲に外へ繰り出した。

どのくらい走ったか。この星一周、二週、そもそも分からない。考えていない。次第に疲労感が増してきた。伴って思考も良い具合に鈍り出す。
疲れた。のどが渇く。立ち止まって辺りを見回して。

このあたりは、クリームの家が近かったな。

お茶を頂こうか。喫茶店みたいにするのは申し訳ないが、こちらから遊びに行くのもそう悪いことではないだろう。
一緒に話をしていれば余計な事を考えないで済む。
余計な。

考えるな!って

すぐそこ、本人にとってだが、なのに必死な思いで走った。

「よぅクリーム!元気か!!」

屋外を駆けまわった勢いそのままにドアを開けた。そこに当然クリームとヴァニラさんが居たのだが、予想外にも先客がいた。
部屋の中を見渡す。いつものメンバー勢ぞろいだ。あ、ソニックさんです、丁寧に発音された声が上がる。
皆がこちらを見る。ホントだ、でしょ、ありえねー、それぞれ口にする。
視界の左からエミー、ナックルズ、クリーム、ブレイズ、ヴァニラ、テイルスの存在を認めた。ん

?ブレイズ!

「なんでお前がここにいる?!?」

夢に留まらず現実にもついに現れたか。いやこれも夢の続きなのか、いや流石にもう現実現世現在進行中だ。
驚いたのはもう一つ、そもそも彼女の住む世界は違うじゃないかという話。
失礼千万大仰に驚き指差し何故居る発言を受けて気分を損ねたブレイズが詰め寄る。
次第に視界が彼女で埋まる。近、近いって!

「久しぶりに顔を合わせたら『なんでここにいる』だと?とんだ挨拶だな、ソニック!」

たじろぐソニック。彼女の剣幕関係なしに夢の出来事が脳裏に過(よ)ぎり、あわあわ。
あんな事が展開された後だったから、しかし誰一人そんなこと知る由もない、というか言って溜まるか。
思い出してまともに彼女の顔を見れやしない。

「や、だってブレイズの世界は・・・簡単に来れるようなトコロじゃなくてっ。」
「?互いの世界を超えれる事はソニックが話してくれたことだろう。」

動揺したまま紡いだ稚拙な言葉。目は合わせられないまま。
超えれる事は言ったけどまさか実行に移すとはってことなのに、伝わらない。リスクもないわけではないし。

「今回はソルエメラルドの使い方の練習を兼ねてやってきたんだ。長居する気はないから、大きな問題にもならないはずだ。」

それはご立派で流石は皇女様様。でもまさかこのタイミングで来るなんてな。何という巡り合わせだよ。
何かに導かれているのか、ということはこの先

現実に

「いやいやいやいいあいやっ」

頭を振って必死に考えを追い払う。無い、有り得ないことなんだ。

「ソニック・・・?」

ああそうだ今目の前にブレイズが居たんだった。我を忘れて奇怪な行動を起こしてしまった。訝る目が覗き込むようにこちらを見つめている。
その瞳は潤んでいた。まずいぞ、夢の中の顔に似ている。

「やはり、不用意に力を使うのは良くない、よな。私が悪かった、私こそ非礼を詫びよう。」

それと、名残惜しいがすぐにでも帰ると言いだした。彼女が否定を受けて思案したことは当然エメラルドを使ったこと、夢の内容のはずがない。
すぐに目を閉じ集中する姿を見せたのだが、

「待てっ、別にそゆ意味じゃないっ。!」

否定したのは頭の中、と言えれば早いが言えたものではない。とにかく追い出したみたいになるのは嫌だから、何もすぐさま帰ることもないし、
それに久しぶりに会えてうれしいのは本当だから引き留めた。
何を期待して引き留めたのだか分からない。正夢になったらそれで困る、違う、恥ずかしい、嬉しい?
いいやとにかく帰ってもらえばこんなゴタゴタした気持ちにならないのに、何でだろう。

納得してくれたブレイズにほんのり笑みが浮かんだ。その顔に胸が締め付けられる。
耐えられず視線を外すと、奥ではうなだれたナックルズと勝ち誇った顔をするエミーの姿を見つけた。

「これでアンタは明日一日、私の言うことをなんでも聞いてもらうんだから。」
「俺はマスターエメラルドを守護するんだ、誰がそんな下らない事に付き合うかよっ。」

時間の無駄だとか約束が違うじゃないとかわぁわぁ騒ぎ立てた挙句、ナックルズが眉間にしわ寄せしたままこちらに迫ってくる。

「大体お前が本当に出てくるからこうなったんだぞ、何で来やがったっ。」

ああ、今さっき俺がブレイズにしたことだこれは。動揺していたとはいえ本当に申し訳ないことをしたものだ。
あとこいつムカツク。事情なんて聞くつもり無いね。

「それよりお茶をくれないか。」

ナックルズは無視して優雅に席に着く。ヴァニラさんがすぐに淹れてくれた。
おい、こら。そんな声もエミーが、八つ当たりしないの、と首根っこを捕まえ絶えた。
静かになった。隣にはテイルス。

「エミーが『今日ここにソニックが来る』って言いだして、ナックルズは『そんなことあるか』と反論し出してね。」

勢いでカケゴトに発展したそうだ。まぁ言われなくても見当はついたな。んでも何で「俺が来る」のがわかったんだよ。
目が合ったテイルスとは、互いに苦笑いしか出てこなかった。あ、は、は。

淹れたてのお茶でのどを潤す。今日は心が休まらなかったから、ハーブティはまさにリラックスするのに打ってつけだった。
逆立った心のヒダを撫でてくれる。吐息を一つ吐く。

さっきは突然の事で動揺したがこれでもう大丈夫だ。胸騒ぎは一向に治まらないが、普段道理に振る舞えるようにはなった。

ナックルズはまだエミーに口応えを、懇願か、していた。しつこい言いがかりに面倒そうな顔で対応している。
頑固であきらめが悪いのはいつもと変わらないな。
そこでぱっとエミーの顔が明るくなり、

「そうだソニックもいることだし、今からみんなで行けばいいのよ。」

ま るで名案が浮かんだとばかりに朗々と言い放つエミー。そして同意するブレイズ。何の話かと思えば買い物の話。
ナックルズに付き合わせる予定だったのを集合 したついでに行こうと言う事だった。
ブレイズはブレイズで、この機会にこちらの世界を見て回りたいだそうだ。
まぁ見て回るのは一向に構わない。でも今日ば かりは、エミーもいるし、パスだ。パスパス。するとブレイズは、

「一緒の方が楽しい、だろ?」

ここでその言葉を持ち出しますかぁ。ああ今日じゃなかったらな。
いやいや駄々をこねたもののエミーの力技を前にして男性陣が追従しなければならない現実は変えられなかった。

三人軽く、三人重い足取りで街へ向かい外へ出た。道すがらテイルスにこの大集合の経緯を尋ねていた。
エミーがトルネードでクリームのところに送ってという所から話が始まり、エンジェルアイランドに寄り道し流れで連行、
そして目的地にはブレイズが既に居たそうだ。

ブ レイズは嬉々とした表情。クリームと話をする横顔を眺めていたのだが、ふとした拍子で彼女がこちらを向く。目が合う。
心臓が一発高鳴る。目をそらす。って なんでそらした。これじゃあ分かり易く意識してるってことになるだろ。
かといって合わせ直すのももっと変だぞ。どうすればいいい?

「ソニック、どうした。」

考えあぐねている最中に向こうから来た。思わぬ攻撃に、向こうはそうゆうつもりじゃないのはわかってる、ドギマギ慌てふためく。

「体調が優れないのか。」
「やや、そんな事はないさっ。」

精一杯虚勢を張って誤魔化しにかかる。彼女はどうも腑に落ちないという具合だったがまたクリームのところに戻った。
なんとかこの場を切り抜けれた。ふぃ。

そんなこんな、ひとりで懸案事項を抱えながらも目的のショッピングモールに辿り着いた。
心底疲れる。
でもまだ序の口と思うと今後しのぎ切る自信がない。

「じゃあナックルズは私の荷物を持ってもらうわね。テイルスはクリームの、ソニックはブレイズのを担当すること。」
「はぁ!?」

と驚愕する声がお隣さんとハモる。あっちは単純な不満だが、こちらは爆弾を抱えているんだぞっそれを火の真隣に置くんじゃない。

「アンタはカケに負けたんだから言う事を聞くの、さあ来なさい。」

無理やり引っ張られていくナックルズ。
アイツの力でもエミーに抵抗できないのか、とかふざけたこと考えているうちにテイルスとクリームも姿を消していた。
お子様は目を離すとどこ行ったかわかったものじゃないな、あきらめにも似た溜息が出てくる。
今はブレイズと二人きり、「きり」っていうのがまずい。ああ意識してなかったのに、紛らわす術を一気に失ってしまった。

「ソニック、あれは何だ?」

対 するブレイズはデパートの中を好奇の目で見回していた。あっちに行って見てもいいか、オーケィ、仕方なしに後を追う。
楽しんでくれるならそれでいいし、 こっちもヘンな気起こさないで済む。全くみんなでの買い物が何で男女ペアの買い物になる。
まるっきりデートじゃ、デデートっ!っ!おいっ。


今日に限ってこのシチュエーション、何かツいてるのか?














































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最初からクライマックス。そに・・・ぶれ?
続いちゃった。