天空に浮かぶエンジェルアイランドにも来客はある。皆なにかしら理由を付けては一人でいる彼の様子を見に来るのだ。
住んでいるガーディアンにもちゃんと地上の知り合いはいて、時折訪問がある。
頻繁に来る者もいれば長い間音信不通になる奴だっている。

その中で高い頻度でやって来る者がいた。当人一人だけで来るとは限らず、誰が来ようとほぼ必ず一緒に居る。
それはこの地への移動手段の関係からだった。

「おいテイルス、もうこいつを連れて帰ってくれ。」

ナックルズの嘆きにも似た頼みに苦笑いを返すだけのテイルス。こいつ呼ばわりされたエミーは不服そうに一段とほほを膨らませた。


ある時エミーはナックルズの所へ遊びに行こうと思い立った。
一人だろうと何処へでも行く彼女だが、あいにく空へ飛び立つ手段だけは持ち合わせていない。
な のでテイルスに飛行機に乗せてもらうようにお願いした。トルネード号を預かる彼の工房に行けば、操縦できる彼も一緒に居るのだ。

誰もかれもエンジェルアイランドへ行く為にテイルスに依頼する。
そのためパイロットとして乗り込む彼が結果として一番ナックルズの所へ訪れているのだ。


ナックルズは一人でいることを特別寂しいとも退屈とも思っていない。
物心ついたころからだったから彼にとって普通の事なのだ。それに島の動物たちが彼の仲 間。
皆彼を慕っていて、決して孤独ではないのだ。

平穏な日々を望みこそすれ賑やかなのは彼の好みではない。ましてやエミー程騒がしい人物であれば鬱陶しくて敵わない。
うんざりしながら帰れ帰れと愚痴をこ ぼす。
だが、既に恒例行事と化しているこの行為に効力は無く、結局客人の気が済むまで相手することになるのだ。


帰ろうとしないエミーは、本当はさびしいくせに、など反論をしつつテイルスに同意を求める。
行くも帰るもパイロットの機嫌次第なので、当人の意思だけでは どうにも動くことができないのである。
なのでしばしば板挟みになりがち。帰るか留まるか、二人同時にテイルスの説得に掛る。


こうして二人の注意が向いたことで、テイルスの状態が異常であることが二人に知れた。


焦点が定まらずうつむいていて、立っているのが辛そうだ。今にも倒れてしまいそうにふらついている。
明らかに体調が悪い。エミーがあわてて駆け寄る。

「すごい熱!」

額に手を当てると彼の体温は温もりと呼ぶには高すぎた。呼吸も荒い。
同じく傍に来たナックルズが様子を見るや否や、表情が一気に険しくなった。

「すぐにベッドまで運ぶぞ!」

ひょいとテイルスを抱え上げ駆け出す。その後を追いエミーも続いた。



ベッドに横たえ今一度テイルスの容体を見る。熱は上がり続けますます苦しそうに息をしている。
エミーは心配すると同時に自分を責めた。日ごろ研究で忙しくしている彼を無理に付き合わせた結果、彼の体調を崩してしまったのだと。
そして病院など無いここではちゃんとした施しができない。自分のせいなのに何もできない。
大きな病気だったらどうしよう、地上へ連れて行くこともできな い。そう思い悔しさと焦燥で知らず拳を固くしていた。

「大丈夫だ、これはお前のせいじゃない。」

二人の様子をよく見てからナックルズは言った。泣き出しそうな瞳を彼に向けた。

「これはエンジェルアイランドの風土病だ。ちょうどテイルスぐらいの年の子が発症する。」

彼が冷静でいられるのは病気をよく知っているからだろう。
だから治療法も知っているはず、今度は羨望に似た目で彼を見る。

「これに効く薬草はあるんだ。ただ、今から採って来なくてはならない」

発症時期がわかるこの病気は通常頃合いを見て用意しておくのだと言う。
ただ今回はテイルス、外からの客人の罹患で予測が付かなかった。だから備えがないと いう。
とにかく手段があることをエミーは喜んだ。そしていち早く採って来るように強くお願いした。一刻も早くテイルスを治してあげたいのだ。

「まぁ俺だってすぐに行きたい。だが生えている場所が遠くて道のりも険しいんだ。」

時間がとても掛かる。だからその間の看病をエミーにお願いしたいとのこと。
少しでもできる事があるのならと二つ返事で了承した。


「とにかく高熱が続いて体力を消耗する。だからとにかく冷やしていてくれ。」

エミーを氷室へ案内した。ここに貯蔵してある氷を使って熱を抑える。水を汲む清流へも案内した。
やることが明確になり俄然やる気を見せる。そんな彼女にテイルスを託しナックルズは森に入って行った。

しかし暫くして彼はまた小屋に現れた。両手に果物を山のように抱えてだ。

「一口ずつでいいから食べさせてやってくれ。お前も腹が減ったら食えよ。」

大量に用意された食糧。つまりそれほど時間がかかる道のりということだ。
出かける彼の背中を、できるだけ早く帰ってくることを願いながら見送った。
その時 に彼の表情に違和感を覚えた。決して喜んでいる目ではなかったが、妙に口の端が上がっていたのが気に掛った。

とにかく今はテイルスの看病だ。頭を捻るよりも氷水にあるタオルを絞り頭に乗せる方が彼の為になる。
エミーは氷水に浸したタオルに手を伸ばす。





薬草はこの島で最も高い山に生えている。
そこは一年のほとんどが氷に閉ざされている厳しい環境なのだが、逆に言えばそこでも生き抜くほど生命力が強い植物 なのだ。
エンジェルアイランドは起伏に富み気候も様々。宙に浮く島だがおおよそが温暖で、亜熱帯、砂漠と熱さの激しいところもある。
しかしひとたび山を登れば気温 は一気に冷え込み雪深いところだってある。これから行くところはそういう雪に閉ざされた世界だ。


あまり時間を掛けるとテイルスの体力の消耗が進み、命に関わる。何より早く苦しみから解放させたい。
だからナックルズは目の前に広がるこの密林を迅速に抜けようと考えていた。
一方で一帯を見渡せる丘で逡巡しているのは、ここが一筋縄でいかない場所だから だ。

どの道ここを通りぬけなくては辿りつけない。遠くにそびえ立つ雪山の姿を見据え、意を決して飛び立ち滑空でジャングルへ降下する。

幾度か通ったことはある。道を見失うことはないが決して油断はできない。この密林には大きな危険が潜んでいる。
今までは運が良かっただけ、偶然カチ合わなかったということ。今回もそうであって欲しいと彼は願った。
そこで見上げた木の幹にキズを見つけてしまった。何本もの平行線が絡み合う、爪痕。

「しまった!」

新たに縄張りが広がっていたのか、見る限り真新しいものだ。危険を感じて辺りを警戒した。それが正解だった。
切りつけるような拳が襲いかかる。高くバックステップしかわすことができた。懸念していた最悪の事態だ。

虎と遭遇してしまった。エンジェルアイランドのものは地上では見る事がないくらい特別に巨大だ。
気性も荒く危険で、ナックルズもそれと初めて相対する。

牙。ナックルズを一口で飲みこんでしまえそうなサイズの口に伸びている。
爪。大木すらなぎ倒しそうな太い足に生え揃っている。
目。殺気の籠った鈍い光が覗いている。
一様に言えるのは全て鋭く彼に向けられているということだ。

睨み合う。決して怯んだ様子を見せてはいけない。その瞬間に掛って来る、野生の本能だ。
ナックルズはそれを心得ていたが、時間に対する切迫感から焦り先に 動き出してしまった。早く、薬草を、テイルスの為に。
怖気づいたと見た虎が掛って来る。体躯に見合わない瞬発力だったが回避はできた。虎は勢いで後方の木を噛み砕きなぎ倒した。
パワーがあるのは見たとおりだ。しかし力自慢はこちら同じこと。倒されたその木を抱え込み虎目がけて振り回す

「どぉりゃ!」

水平に振り切る。虎も反応良く跳躍しこれを避けた。着地後仕掛けようとしていた虎は、目標の姿が無いことに気付いた。
目で探し辺りを見渡していた。だからその場に留まっていた。だからいとも簡単に捉えられてしまったのだ。

虎のアゴに衝撃が走る。下から突き上げられて視界が上下する。途端に足が脱力しその場に倒れ伏せた。
ナックルズは虎の目を盗み地面に潜んでいた。そして真下から登場し拳を打ち込んだのだ。

「手間取らせやがって、追ってくるなよ!」

巨大虎を打ちのめしたナックルズはそれだけを言い残し先を急いだ。







































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頑張れナッコー、根性でテイルスを救え!的な。
次でまた一味違う一面が見られるハズ?!