村は同じ森の中にあった。ただ同じといっても相当の広さなので結構歩いた。
行くまでの間レナルドは色々と質問をしてきた。住んでいるところ、どんなところなのか、好きなこと、どうやってここにきたのか。





「ひこうき?」
「うん。こう、空を自由に飛ぶことができるんだよ。」
「鳥みたいに?」
「大体そんな感じ。浜辺に置いてきたから後で見せてあげる。」






住居は木材と草、葉を組合わせた、南国らしいの言葉で片付いてしまう簡素なものだ。それらが十数軒立ち並んで集落をつくっている。
レナルドの家は村の一番奥。入り口から通り抜けていく間に何人かがレナルドと軽い挨拶を交わす。ここの村人は狐の一族だ。



「やぁレナルド。」
「ただいま。」
「そっちはお客さんかい?」
「友達のテイルスだよ。」








村人を見るとどうしても視線がしっぽに行ってしまう。でもみんな別段変わったところはなく、どうやら二本あるのはここではレナルドだけらしい。
だれもが連れにいる客人を気に掛ける。部外者、それも絶海の孤島のだから当然警戒するのだろう。
だがその割にはレナルドの、友達だよ、の言葉だけでみんな納得していく。意外とおおらかな人たちなのかもしれない。尻尾を見ても驚かない。














「これ見て。」








家に入って差し出されたそれは緑色と赤の絵の具をパレットの上で並べたような鮮やかな色彩の石だった。








「緑火石っていうんだ。」
「りょ・・っか、せき?」







部屋の奥にある、装飾された小物入れから取り出されたその石は色がはっきり二つに分かれている。
高温で溶接されたかのような歪んだ境界線が互いを飲み込もうとしているように見える。




「きれいでしょ。」
「うん、きれいというか、何だか不思議な感じ。」




まじまじと見つめるテイルス。自然界で鉱石がこうも溶け合うように固まるものなのか、
色を持っている成分は何だろうなどと考えてしまうのは、くせだった。でもそれ以外にも得体の知れないものも感じていた。













「これはね、モノとモノの交じり合いを現してるんだ。」





彼は言葉を続けた。




「でも決して混ざることはないんだ。形をどんなに変えてくっついても、本質は完全に一つになることはない、という意味も持ってるんだ。この石にはね。」












交じっているのに混ざらない。それは何かに似ているのだ。赤と緑の補色関係にして互いが輝く関係。
さっき感じた不思議さが形容されたみたいだ。
他にもいろいろあるんだ、と言ってレナルドは小物入れからまた取り出した。玉虫色の鳥の羽根、金色の虫の抜け殻、真っ青な巻貝、
緑に光る珊瑚。どれもすごく輝いて見えて手に取るたびに、はぁ、と吐息がもれる。彼の小物入れから出てくる物はどれもおもしろい。










「テイルスはどうしてここに来たの?」








ふと彼が口にした。しかしテイルスは理由なく降り立ったので具体的に何と言えばいいか困った。たまたまだよ、と告げた。間違った表現ではない。

「そっか。たまたまで会えるなんてすごい偶然だね。」



軽くうなずく。でも正直に偶然とは思っていなかった。流れのままここまで来たが、わずかに誘導される気分を味わった。



「でもね、実はテイルスのことずっと呼んでたんだよ。」
「え!?」








思っても見ない言葉が返ってきた。この島に来た決め手、誰かに呼ばれた感覚。
心の中を見透かされたみたいで、驚きはそのまま声になっていた。まさか本当に呼んでいたなんて。しかしだれが、どうやって・・。



「ははっ、冗談だよ。」



目を丸くしているテイルスを見ていたずらっぽく言った。そして彼は笑う。少しむくれて見せたが、つられてテイルスも一緒になり笑った。














「しばらく島に居てよ。もっとテイルスと仲良くなりたい。」

テイルスも同じ気持ちだった。居心地の良い場所。新しい友達。すぐに離れるには惜しい場所。それと一方で、感じた不思議さの正体が気になる。
申し出を受け入れ数日間お世話になることにした。



























皆が寝静まる夜、一人の村人が族長のもとを訪れた。
「来ましたね。本当に驚きです。」
「クゥ神のお告げは絶対さ。外れたことなんて一度もない。」
「私が驚いているのはお告げの成否についてではなく、お二人の姿が本当にそっくりな点に、です。」
「そうだね。正直僕もビックリだよ。<水面に映るかたち降り立つ>と言われても程度があると思ってた。特徴という特徴がおんなじだよ。特に・・」
一呼吸置いてからトーンを一つ下げて言った。
「尻尾だね。」
「ではあの方が儀式の鍵を握ることになりますね。」
「彼となら上手くいきそうだよ。なんていうか、信頼できるものを持っているよ。」
族長は穏やかな寝顔の客人を見た。側近の男は静かに退室した。






































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不思議な島、不思議な一族との文化交流の始まり。
赤緑の石の話。

とまぁ複線投げまくりのパートですね。